定額減税制度について前回記事に加えて面倒くさいポイントが新たにあったので改めて。前回記事は以下。
二重で減税が受けられる可能性
定額減税は被扶養者だけでなく、本人の分も枠がある。独身で誰も扶養に入れていない人であっても最低、当人の分=所得税3万円+住民税1万円の減税が受けられる。
ではこれが配偶者の扶養に入りながら働いている人ならどうか。たとえば夫の扶養に入りながらパートで働いている妻の場合、夫は妻を扶養に入れているのでその分、定額減税の枠がある。かたや妻は本人分の定額減税の枠を持っている。被扶養者として、本人として二重に減税を受けられることになる。
これがまた政府から出ている手引書にはどのようにすれば良いのか記載されていない。調べてみたがこのような場合、一旦、被扶養者である妻にも月次減税を適用して所得税をゼロにし、年末調整の際に精算するとあるサイトには書いてあった。しかしそう書いてあるサイト自体も1つ見つけた程度で実際はどのような処理をするか固まっていないように思われる。
加えて公的年金にも定額減税は適用される。自民党は主たる支持層である高齢者にキッチリ媚を売りたいので、公的年金を除外し給与所得のみに定額減税を、などとはしない。
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2024/teigakugenzei.html
これ、裏を返せば給与計算実務者が定額減税において所得税減税の枠を正確に計算するためには、公的年金受給者の所得税額を把握する必要がある≒年金額を本人に訊かなければならない。それも誰が公的年金を受け取っているかが把握できている前提。漏れの無い納税を行うためには給与所得の額に関わらず本人に確定申告を促すべきかも知れないが、公的年金を受け取るような年齢で今まで確定申告をしていないような人は、あえてそのような申告をするだろうか。収入によってはそもそも確定申告が義務では無い。
また、2つ以上の事業所で働いている場合も二重減税の可能性がある。本来はざっくり言えばもらう額が少ない事業所では乙欄、額が多い方では甲欄を使用して源泉徴収を行う(従たる給与、主たる給与)。これがもし労働者がいずれの事業所に対しても甲欄で提出していた場合、事業所からは他でどう出されているか把握することは困難であるので重複して所得税分の定額減税が適用される可能性がある。定額減税が適用されるのは甲欄の人のみなので乙欄で計算される人は関係ない。
事業所得にかかる所得税も定額減税の対象になるため、予定納税がある場合はここで給与所得+公的年金+事業所得の最大三重減税となる可能性もある。ようだが確定申告はするだろうし後で精算されるような気もする。
年の途中で転職した場合の扱いも面倒くさい。月次減税のデータを前の職場から提供してもらうしか無いだろう。それを入社してから最初の給与計算処理に反映するための改修が必要になる。今年1回だけのために。
書いていてもはや面倒になって来たし、正確なことを書けている自信も無くなって来た。より詳しい話は下記記事を参照されたい。
何にせよ、悪意というかズルいことをしてより多く減税を受けようと思えば受けられてしまう可能性がある。減税するにしても最初からやり方が間違っているために制度が複雑化しており、非常にミスをしやすい状態。これで良いのだろうか。何よりあらゆる要素を考慮して完璧に定額減税制度をマスターしたとしても、この制度は今年1回限りである。
本人が海外出張に出ている場合は
これも手引書にはどうすれば良いか載っていない。扶養親族は非居住者=海外に住んでいる者は対象外とあるが、たとえば給与を受ける本人が日本に住民票を残したまま海外で仕事をしており、それに対して日本の口座に給与が振り込まれている場合はどうすれば良いのか。
制度の趣旨を考えればあくまで「日本国内の物価高に対応するために国内居住者のみが対象」なので、海外で仕事をしている当人の分は対象外な筈。しかし住民票は残っているし住民税も払っている、となれば対象にするべきような気もする。もう訳が分からん。
説明するのが面倒くさい
こうした制度、処理する立場としては当然ながら社員や経営側から何がどうなっているのかを訊かれることが多い。その際にもあまりに複雑怪奇な制度なのでものすごく説明しづらい。「うるせぇ!手前でまず調べろ!」と言いたくなるがそれが出来る人間ばかりでは無いし、それで理解できる人間ばかりなら苦労しない。こうした処理に比較的慣れている自分でも少し整理して考えなければならない箇所がある。
特に以下、「源泉徴収に係る定額減税のための申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書」のただし書き。6月に提出する分として出すか、年末調整の際に出すかのチェック欄があり、その2つで書いてあることが微妙に違う。
読めん!いや老眼では無いがぱっと見てこれだけで読むのすら嫌になる人も多いのではなかろうか。そんな事を言っていても始まらないので文字だけ抜き出すと
[ 6月に出す場合 ]
※ 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記載した源泉控除対象配偶者、控除対象扶養親族又は16歳未満の扶養親族については、既に定額減税額の加算の対象に含まれていますので、この申告書に記載
して提出する必要はありません。
※ この申告書に同一生計配偶者又は扶養親族を記載して提出した場合であっても、年末調整において定額減税額を加算して控除を受ける際には、同一生計配偶者については「給与所得者の配偶者控除等申告書
兼年末調整に係る定額減税のための申告書」に記載し、扶養親族については「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」又は「年末調整に係る定額減税のための申告書」に記載して提出する必要があります。
[ 年末調整の際に出す場合 ]
※ 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記載した控除対象扶養親族又は16歳未満の扶養親族については、既に定額減税額の加算の対象に含まれていますので、この申告書に記載して提出する必要はあ
りません。
※ 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」又は「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」に配偶者の氏名等を記載して提出した場合であっても、年末調整の際には、同一生計配偶者の氏名等を記載した
申告書を提出する必要があります。この場合、「給与所得者の配偶者控除等申告書」を提出する人は、この申告書への記載は不要となりますので、「給与所得者の配偶者控除等申告書兼年末調整に係る定額
減税のための申告書」(兼用様式)を使用して提出してください。
※ 「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」に扶養親族を記載して提出した場合であっても、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記載していない扶養親族については、この申告書の「扶養親族の
氏名等」に記載してください(この扶養親族について「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記載して提出する場合は、この申告書を提出する必要はありません。)。
これを要約すれば
- 既に扶養控除に記載した扶養親族を再度この用紙に書いて提出する必要はありません
- この用紙に被扶養者を記載するだけではダメで、年末調整の際に同一生計配偶者は別の用紙に、その他扶養親族はこの用紙を「年末調整にかかる定額減税のために申告書」として再度提出してください
という感じ。合ってる?これだけの事を書くためにお役所的にいちいち申請書の名称をフルで書く上、さながら遊戯王のテキストのように隙のない堅苦しい書き方なのでめちゃくちゃ分かりづらい。遊戯王でも分かりづらいと言われてるのにこんなややこしいテキスト書くなよ。
これに限らずあらゆる点で説明するのが面倒くさい制度になっている。前の記事でも書いたが所得税計算における被扶養者の数と、定額減税で減税対象となる被扶養者の数がイコールではない時点でもう紛らわしい。
定額減税は制度そのものが間違い
前々から書いているが、これが消費減税であればここまで複雑怪奇で穴のある制度は必要なかった。時の政権の人気取りのために地方の財源を減らし、地方自治体に事務や給付の負担を押し付け、民間企業にも余計な給与計算やソフトウェア改修コストを強いる必要はなかった。消費減税もノーコストで行える訳では無いが、定額減税ほどでは無いはずだ。それも今年限りということを考えればあまりにコスパが悪い。給与明細システムなんか来年は元に戻さなければならないのだ。
そもそも所得税は累進課税である。格差が拡大する中であえて累進課税を減らすことが意味不明。賃上げ機運が高まっている中では上がる給与に応じて所得税も増えると見込まれる訳で、これから先、所得税をしっかりと税収の柱に据えるべきである。それを一時凌ぎとはいえ減税することは間違っている。
それも年収2,000万円までの範囲で減税するのがおかしい。年収1,999万円だったとしても対象になる訳だがそんな奴が金に困ってる訳無いだろ。これがせめて面倒な処理が無く、たとえばせいぜい「年収600万円以下は一律で今年の所得税をゼロとする」、くらいのシンプルなものであればまだ許せた。しかし、下手に減税の範囲や額を搾りたいがために余計な縛りを設けて複雑な制度にした上、実施まで時間的な猶予も与えなかった。減税するにしてもやり方がおかしい。間違っている。
住民税は地方税、地方自治体の財源であり、それを時の政権が人気取りのために勝手に減税すると言い出すことは明らかに不当である。それを急に今年から減税処理しろと言われ、例年と異なる処理をし、減免しきれない分は給付を行う。財源を削られた上にコストを押し付けられる自治体はたまったものではない。とにかく民間企業にも自治体にも余計な負担を強いている。
怒りの愚痴
職務上すでに定額減税を適用した後の手取り額は把握しているのだが正直、「ありがたい」というよりも「ろくな使い方しないくせに普段からこんなに税金取られてるんだ」という感想が頭をよぎる。それも無駄に手間ばっかり増やしやがってと来るともう、怒りしか無い。1人あたり年たった4万円、1回こっきりの減税で何を恩着せがましい態度を取ってるんだ。パーティー券購入は5万円超から公開するらしいが、だったら1人5万円未満の減税程度、給与明細に載せるべくも無いではないか。増税額は載せないくせによ。
減税するのであれば逆進課税である消費税を減らすべきである。インボイス制度も実質的な消費増税制度な上、余計な手間でしかないので廃止するべき。その方が減税するにしてもずっとシンプルに済む。すぐ「財源がー!」と言うが今が余計に取り過ぎなのだ。庶民と同じくらい余計なものを削ってから言え。足らぬ足らぬは節度が足らぬ!
国会では政治資金規正法改正案が通過しそうなようだが、なーにが「5万円超えたら公開する」だ。なーにが「領収書は10年後に公開する」だ。だったら民間企業も単発5万円未満の支出は税務監査から外せよ。領収書の公開も10年後にさせろ。保存義務期間は7年間(赤字の場合は10年)なのでその間に捨ててやるわ。
あ、政治家の政治資金収支報告書の保存期間はたった3年だったね。民間も保存義務期間3年で良いよな?3年経ったら捨ててやるよ。
10年後に公開して不正が明らかになったとして、一体誰がそれに対して責任と取るのか。そもそも10年後に公開できるものが残っているのか。不都合なものはナイナイしてしまえば済む話だもんな。
そろそろ自民党政権をナイナイしたい
民主党政権みたいに円高になったらどうすんのって?金融政策が大きく変わらん限り大丈夫っしょ。それよりも我慢ならん事が多過ぎる。