ヤマネコ目線

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定額減税が面倒くさい

 定額減税が今年6月給与分から始まる。その実務がいろいろ面倒くさいので愚痴る。特設サイト(笑)はこちら。

www.nta.go.jp

そもそもがおかしい

 以前にも書いたが、まず累進課税である所得税を減税することがおかしい。格差が拡大する中、貰っている人間からは貰っているなりの税を取ればそれで良いではないか。インボイス制度も含めて逆進課税である消費税を上げる一方で、累進課税を軽減する政府のやり方はどう考えてもおかしい。経済の好循環を言うのであれば今後、給与に応じて増える所得税をきちんと税収の柱の1つに据えるべきだ。

 それも所得税の定額減税対象となるのは「合計所得金額が1,805万円以下」と天井が高い。たとえば給与所得のみで考えると、所得金額が1,805万円になるよう逆算すると年収2,000万円に相当する。そのクラスであれば金に困っていることもあるまいに、普通に所得税払わせろよ。バカじゃねえの。

 加えて住民税も減税対象となる。これもおかしい話で、住民税は貴重な地方公共団体の財源である。それを時の政権が人気取り減税政策のために勝手に減らすことはおかしい。国、政府、自民党公明党の政治家はそれで良いかも知れないが、ただでさえ活気のない主要都市以外の地方にとっては迷惑極まりない。何が地方創生だ。たわけめが。

 総務省のQ&Aを見ると住民税も減税する理由として、「住民税のみを納めている世帯にも減税効果を波及させるため」とある。この「住民税のみを納めている」と考えられるのは扶養人数が多い世帯とも考えられるので、この点はまだ納得はできる。しかし扶養人数が多いなら住民税の額も少ない上、消費減税という、よりシンプルで減税効果を広く与えられる手段があることを踏まえると評価に値しない。

 まだまだこれから制度設計に対する文句を書き連ねるが、制度そのものの存在自体がまずもっておかしい。1回だけの話なので我慢できると言えば我慢できるが減税も1回きりなので後が怖い。

制度そのものが煩雑

 以下は国税庁から出ている定額減税のしかたに関する資料。ぜひご一読願いたい。消費減税ならそもそもこんな資料を読む必要すら無いんだが。

令和6年分所得税の定額減税のしかた

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0023012-317.pdf

 まず基本的な制度の話として、所得税と住民税では算定や徴収のタイミングが違う。税として納める先も違う*1。その2つを同時に減税するという時点で混乱と負担の原因。

 所得税は1月1日から12月31日までに得た所得が課税対象になる。給与所得では取り過ぎた/取り切れない分は年末調整で文字通り調整。必要な人は翌年の3月15日までに確定申告を行う。何にせよ、所得税に関する減税は令和6年1月1日~12月31日の所得について行われる。

 住民税は課税対象そのものは同じ=1月1日から12月31日までの所得、だが課税額はその翌年に算定され、徴収は所得があった年の翌年6月から再来年の5月までとなる。今で言えば本来の減税対象となるのは令和7年6月~令和8年5月の間に支払う住民税。

 ところが今回の定額減税、住民税の減税は令和6年6月から行われるため、住民税における減税の対象となるのは「令和 5 年1月1日~12月31日に得た所得」と1年ズレる。なので以下の総務省Q&Aのような内容が出て来てしまう。もう面倒くさい。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000944311.pdf

 住民税の算定は1月31日までに企業等から源泉徴収票が各自治体に送られ、そこから各自治体が算定して5月中に企業等に通知書・納付書を送る。かたや上の総務省資料の日付を見ると第1版が令和6年1月29日、改定が4月1日。この内容を踏まえていきなり今年度分から減税対応してね、と言われた地方公共団体の負担もお察しである。つくづく迷惑な政権。

 で、給与計算実務的には何が面倒くさいのかという話だが、まず扶養している人数の再確認に加えて、定額減税の対象者となる人がいないかの再確認が必要になる。特に注意すべきは非居住者*2で、海外に済んでいる人は定額減税対象外。扶養控除申告書に記載の人数 定額減税対象の対象になる人数。このため、 源泉徴収に係る定額減税のための申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書の様式が出ている。

 ここで注意したいのは、扶養控除申告書に記載した人については記載不要であるということ。提出が必要になるのは、控除対象にならないからと16歳未満の子供、配偶者を扶養控除申告書に記載していないような場合。実務的に言えばそんな漏れが無いかいちいち確認するのが負担。労働者側に提出を任せても扶養控除申告書に記載した人を重複して書く奴が絶対に出てくる。

 加えて先に書いた通り、扶養控除申告書に記載されている人でも国外に居住している人は定額減税の頭数に数えてはいけない。例として

中国人で中国にいる両親2名を扶養に入れている場合

 を考えると所得税の計算は扶養2名で行い、定額減税の計算は対象者0人で行うことになる。大した事ではないが最終的な所得税算定のパラメータが増える上、このようなイレギュラーが増えるほど事務処理は面倒になって来る。

 定額減税はあくまで国内の物価高に対しての施策であるため、国外に住んでいる被扶養者が減税対象外となるのは当然と言えば当然なのだが、企業によっては非居住者が減税対象外となること、技能実習生にどうやって説明するか苦慮するところもあろう。私はChatGPTとGoogle翻訳の二重チェックで英訳とベトナム語訳、日本語訳にかけて説明用文章を作っているがこれも手間。それすら出来ない企業はお察し。下手すれば「日本人は減税受けてるのに私たちは」と思わぬ不満に繋がりかねない。

 そして前述の様式に関して扶養確認するタイミングが6月1日までと年末調整までで2回ある上、「源泉徴収に係る申告書」として使用する場合と「年末調整に係る申告書」として使用する場合で注意書きの内容も異なる。何これ?給与計算実務者に恨みでもあるんか?経理担当者に親でも殺されたんか?

 実務側としては減税を受けたいのは給与を受け取る側なのだから、「減税を受けたいなら制度を理解した上で必要な書類を各自で出してくれ」と言いたい訳だが、ここまでやりたい事に対して制度が煩雑で理解が面倒な内容について、実際に減税を受ける労働者全般に説明しづらい、損をさせることにならないか不安である。後から「やっぱりこの人の分、減税にならないか」とか言われそう。その辺を噛み砕いて説明するのも実務者の仕事ではあるが、どうにも手間ばかり増やされて参ってしまう。

 この記事を呼んでいる給与所得者の方々はしっかりご自身で減税対象者を確認しておいて欲しい。でないと損をする可能性がある。

 で、いざ減税対象人数が決まったら所得税の計算になる訳だが、ここでも本来の所得税額と、そこからいくら減税したかの各人別控除事績簿を作れとか言いやがる。え???こんな面倒くさい表を人数分、毎月作るんですか?消費減税ならこんな表いちいち作らなくて済むのに。

 今はパソコンで計算出来るから便利な時代とはいえ、それでも給与計算には手間もコストもかかる。そこにこんな余計なものを増やされるのはストレスでしかない。私の会社は給与計算を委託しているから多少楽ではあるがそれでも金は掛かるし、給与計算を自前でやっている所なら間違いなく負担増である。マクロというかVBAも扱えない人材しかいない事業所の事務は悲惨だろう。もし電卓で計算+紙とペンで記録の時代だったら発狂していたかも知れない。

 給与明細にはいくら定額減税で減税したかも個別で表示しなければならないため、場合によってはその表示を増やす手間も入る。インボイス制度といい、つくづく弱いものいじめが好きなようで。

 こんなクソ面倒くさいことを実務側に押し付けずに、消費減税すれば良いではないか。そっちの方がずっとシンプルに事が済むし逆進課税を下げることは格差是正につながる。

その他

 定額減税で軽減し切れない分については別途、給付金として支給するという。ここにも闇を感じる。おおかたパソナあたりが業務委託で中抜きするのだろう。消費減税では中抜きできないもんな?

 インボイス制度についても思うが会計ソフト、給与計算ソフトの事業者もウハウハだろう。頻繁に営業電話がかかってくる。国があえて手間のかかる制度設計をして仕事を増やしてくれるのだから導入する事業者が増えやすい。そうして儲けさせてもらってパーティー券を買うのだろう。余計な手間のために余計な金を動かすのが好きな奴ら。

 産経新聞は「実質賃金は夏ごろにプラス転換か」などと書いているがこれもお笑いだ。ちょうど定額減税と重なるタイミングで実質賃金がプラス転換しても純粋に喜べない。というか希望的観測を記事にするな。

news.yahoo.co.jp

(記事題:実質賃金、賃上げと減税で夏にプラス転換か 円安で再びマイナス転落リスクも)

 で、1、2ヶ月実質賃金がプラス転換したら「実質賃金がプラスになってるから増税できる!社会保険料の引き上げができる!」などと言い出すのだろう。言い出しかねないから怖い。とんだマッチポンプだがそれを言いかねないと思うほど信用できない。どのみち減税した後はそれを取り返して余りある増税が来るだろうし、一時的に実質賃金がプラス転換してもその後が続く保証は全く無い。

 増税*3するにしても減税*4するにしても手間ばっかり増やしやがって!どことは言わんが火炎瓶投げ込んでやりたいわ。いつか本当に死人でも出れば良い。次の選挙おぼえておけよ。

 

*1:所得税国税、住民税は地方税

*2:海外に済んでいる被扶養者

*3:インボイス制度

*4:定額減税