ヤマネコ目線

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所得減税に扶養家族も対象とか言い出した件

 岸田首相が意欲を示している所得税減税について、扶養家族も対象とする案が出て来た。

news.yahoo.co.jp

(リンク切れ対策|記事題「定額で1人4万円の所得減税、納税者に加え扶養家族も対象...首相「早急に検討進める」)

 加えて日経の記事では骨子として所得税3万円、住民税1万円と減税枠を分ける案が報じられている。

www.nikkei.com

(リンク切れ対策|記事題「所得税3万円・住民税1万円、政府の減税案骨格判明)

やっぱバカだろコイツ

 X(旧Twitter)ではこれを絶賛する自民党ネットサポーターの方々が散見された。確かに「1人あたり4万円」という話を聞けば少しは「おっ、これは」と思うのは理解できる。

が、所得税は扶養人数に応じて金額が減る。たとえば

  • 課税所得が325,000円(月収約385,000円)
  • 扶養親族が2人

 の場合、本人と被扶養者合わせて3人×4万円だと最大で12万円の所得減税が受けられるという話だが、このモデルの場合で月々の所得税額は 6,110円である。年税額にして 73,320円。どちらかと言えば恵まれたレベルのモデルでも到底、1人あたり4万円という枠は活かしきれない。

 これが扶養親族3人の場合、月の所得税額は 4,490円=年53,880円。所得減税の枠は16万円なのでますます損な感じがある。見方を変えれば扶養している家族が多ければ多いほど損をする制度、と言えよう。

 これが日経新聞が報じた所得税3万円、住民税1万円と分ける案を採用するとなると話はよりややこしくなる。所得税は「国税」、住民税は「地方税」という区分であり、いわば住民税は各地方自治体の直接的な財源自民党地方の財源を選挙前の減税パフォーマンスのために勝手に減らす方向で話を進めている。おそらく各地方自治体の長にとってこの話は「寝耳に水」であり、これから各地より文句が出てくる筈。

 また、住民税は昨年の収入に応じて6月~来年5月分までの期間で支払うもの(支払期日は翌月10日なので支払いは7月~6月)。とにかく来年、2024年5月までは住民税の額が決まっている。今から年内に法整備をしたとしても、住民税の減税が行われるのは来年6月以降ではないか。

 それとも、期間の途中であっても各自治体に修正処理を要請するのだろうか。住民税に修正があるとその都度、修正した内容が各自治体から郵送されて来るのだが、自治体に属する事業所へ修正した住民税の内容を一斉通知をするとなると、なかなか事務負担が大きそうな話だ。あわよくばそこにパソナも一枚噛ませて儲けさせるのか。

 所得減税の枠が3万円としても、どのみち収入が元から少ない、あるいは扶養家族が多い人がその枠を活かし切れないことは変わり無い。

そもそもどう実現するのか

 実務的にどのようにして所得減税を実現するのかも気になるところ。現時点で断定的な話をするのも微妙だが、給与計算実務者としては年末調整で当該処理を挟むことになる、というのが現実的に思える。そうなれば所得減税とやらの効果が実際に生まれるのは来年末でしかない。明らかに即応性に欠け、なおかつケチ臭い話である。

 「年末調整で減税上限との差額*1は還って来ないの?」、と言う人がいそうだが、「所得税の減税」というのは「一定額の範囲内で本来支払うべき所得税を減免する」という趣旨であると思われ、なおかつ年末調整はその年だけの話なのでその可能性は低いだろう。

 過去に支払った所得税も勘案して還すというような話は出ていないし、出て来ないと思う。むしろそんな気前の良さを期待する方が間違っている。民間企業において年末調整は何ら行政機関を通す訳ではないので、還付処理と言うのも何か違うように思う。

 それでも年末調整でやると言うならまだ良い部類で、給与所得以外に所得がある場合は確定申告をしなければ正確な所得税額を算定できないので、下手をすれば「1人あたり4万円の減税を受けるためには確定申告をしろ」と言い出す可能性も否定できない。

 その場合、来年給与分の確定申告は再来年(2025年)の3月15日が締め切りなので、減税効果が生まれるのはそれ以降になる。やはり即応性は無いし、本来必要ない人にまで確定申告を求めるとなると負担減へのハードルは高くなる。確定申告を面倒臭がってしない人が多ければ、減税は実質しなくて済むのでザイム真理教もニッコリ。

 ただ確定申告した場合、還付がある時は税務署から振込処理があるので、そこで1人あたり4万円という枠と実際の所得税額との差額も振込出来るのではと思う。が、あまり期待するべきでは無いだろう。

 所得減税とやらをいかなる形式で行うにせよ到底、物価高に応じた負担軽減も、その迅速な実行も期待が出来ない。N回目だがまず累進課税である所得税を減らそうと言い出す思考回路が理解できない。

扶養の条件や控除を減らす、という可能性も

 今年、2023年から外国人が非居住者(=日本国外に住む親族)を扶養する条件が大幅に厳しくなった。詳細は下の記事を参照して欲しいが、このような制度改定が日本国民に対してもされないとは限らない。要は「扶養家族も対象にします」と言いつつ扶養に入れる条件を厳しくして減税へのハードルを後出しで上げて来る可能性もある、ということ。選挙さえ終われば好きなように出来る。

manuller416.hatenablog.com

 一応書いておくがこの非居住者を扶養に入れるための条件はなかなかに厳しい。特に技能実習生の両親あたりの年齢層を狙い撃ちしている。これまでがユル過ぎたというのはあるが、そこからいきなりここまで厳しくなるとは、と思うレベル。そりゃ外国人から敬遠されるわ。給料低い、待遇悪い、そのうえ重税と来れば良いところ無し。

 それはともかく、所得減税を謳う一方で扶養控除の廃止によって所得税額を引き上げに来る、という可能性も捨て切れない。たまに耳にすることがあるので、ありえなくは無い話だろう。いつもの「増税」はしていない、「控除を減らした」だけだ、というような屁理屈。

 そもそも現行法の下では16歳未満の扶養親族は扶養控除の対象外なのも意味が分からないが。子どもを作っても16歳になるまではその子の分の扶養控除は受けられない。0歳からしっかり養育のための費用は掛かると言うのに。こども予算倍増、こども家庭庁だのこどもまんなかナントカだの言ってる暇があるなら、もっと見直すべき部分があるのでは無いか。こども家庭庁は今すぐ解体するべき。存在が無駄。

 そして何より忘れてはならないのが、今回言い出した所得減税は1年の期限付きであるということ。たった1年だけの減税のために、それを制度設計見直しの口実として扶養の条件や控除額が長期に渡って改悪される可能性がある。

必要なのは消費減税

 前回記事でも述べたが、消費税が8%から10%に上がった時で年収400万以上500万未満の層において年44,000円の負担増が推計されている(軽減税率込み)。今であれば物価高騰でその負担もより大きくなっているだろう。

 逆に考えれば消費税率を8%に戻すだけで年4万円以上の減税効果(こちらは収入等によって効果がバラつくが)を、経済にリアルタイムで反映することが出来る。累進課税ではなく逆進課税を減らし、格差是正へほんの小さな一歩だが前進できる。それを今やろうとしないのは愚か。

 ガソリンもいつまで補助金頼みでトリガー条項を解除しないつもりなのか。

 プライマリーバランスなんざクソ喰らえだ

 

*1:上のモデルで言えば12万と73,320円との差額 46,680円