ヤマネコ目線

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地方創生の影

 ただの感想文。昨日、NHKクローズアップ現代で地方から女性の流出が止まらないという話が特集されていた。私は男だが内容というか、女性の声には共感できる事が多い。

www.nhk.or.jp

思い描く未来像が致命的に乖離している

 一言で表現すればこんな所だろうか。地方において求められる女性の在り方と若い女性の将来への希望がかけ離れており、地方に残ることを選択すれば確実に自分が思い描くような未来は無い。地方から出て行くことが自分の人生にとって最善の選択肢になっているので、女性はどんどん都市部へ流出する。

 地方においては男尊女卑的な傾向が強いため男性は不満を感じる度合いも低く、賃金も女性より多いので都市部へ流出するいわば”圧力”のようなものが低い。なので必然的に地方から移住する人の割合は女性が多く、地方は男余りの状態となる。

 正直、詰んでね?と思った。消滅可能性自治体というワードがあるが、もはや今からその傾向を覆せるほど何かが大きく変えられるとは思わない。自治体が消滅すればよそのどこかと併合すれば住む話。1度滅ばなければもはや変われない、それはこの国全体についても時に思う節がある。今から矯正するにはあまりにあらゆる所が歪んでいる。

 番組内ではそれでも地方を変えて行こうという取り組みが取り上げられていたが結局、地方に残って欲しい理由は「子どもを産んで欲しいから」ではないのか。行き着く先、将来設計がズレているのでどう足掻いても問題は解決しない。

 そこで無理強いして地方に残ってもらっても子どもを産まない、産んでも1人か2人、という話ならば無理に地方に残ってもらう事もあるまい。3人以上生まれなければ人口は減っていく。*1しかし国全体として”3人以上”が当たり前に出来るような社会にはなっていない。地方創生だのと言っても地方で出来る事など限度がある。

認識の齟齬

 特集の中で地方の祭りの在り方を見直した例が出ていた。祭りの主体はあくまで男で、女性は”接待”として料理を振る舞う。神輿を担いだり飲み食いして騒ぐのは男。女は料理を作って酒をつぐ役でしかない。昭和というかそれよりもずっと昔から続いて来たであろう地方、村の在り方が令和になっても変わっていないのだ。

 番組の中では祭りを取り仕切る男性が女性たちに意見を聴いてそれに気付かされたという話があり、それで”接待”の規模を縮小したという事だった。

 しかし、それが前進であるかのように取り上げられる事自体に認識の齟齬がある。もはや「言われて気づく」レベルでは遅い。祭りに際しての比較的大きい負担の話ですら言われなければ気付けないのに、それよりももっと細々とした日常的な女性の不満に気づくことが出来るのだろうか。否、できないだろう。

 自主的に問題点を洗い出し、それを改善して行くことが出来なければ不満を取り除くことは出来ない。ましてや地方の政治主体は男性であり大抵は高齢者。女性にも、その価値観に多少なりとも寄り添える若い男性にも実権が無い。なのでいつまでも何も変わらない。変わったとしてもそれは女性の流出を止められる程では無く、それも一部の地域にとどまる。

地方の企業の取り組み

 地方におけるもう1つの取り組みとして宮城県の水産会社の例が取り上げられていたが、あれはあくまで1つの民間企業、会社の中でそれなりの地位にいるのが女性だから出来た話。地方の取り組みとして挙げるには些か弱いというか、全ての企業が能力重視で女性を正社員にしてくれる訳ではない。あれを見て女性が希望を見いだせる可能性は低い。

 そうした取り組み自体が全て無駄だというつもりは無いし、それをテレビで取り上げることで地方の企業に改革を促す効果までは否定しない。しかし実際、それで変われるような企業ばかりなら苦労もしない。

 そもそも件の水産会社も男性は最初から正社員で雇うのに対し、女性はパートが基本=結婚して扶養の範囲で働く、子育てを主体としてキャリアは二の次、という構図。今の女性のニーズには即していない。

では、どうすれば良いのだろうか

 考えてみたが正直、たとえ理想論として書くのであってもなかなか厳しい話しというか非現実的な話になる。

 女性に「結婚して子育てするのが当たり前」という価値観の押し付けをしないことがまず求められると思うが、地方に残って欲しい理由と明らかに矛盾するために難しい。どうしてもそれが透けて見える、圧力になる所が出て来るだろう。地方に残っている中高年の女性は旧来の価値観を受け入れて来た人々なので、その点で「女性だから女性の味方」ということも有りえない。むしろ敵にすらなり得る。

 女性の負担を軽減するにしても、男性は男性で地方で負担を背負っていない訳ではない。むしろ女性側が当たり前と思っているだけで男性が女性よりも負担して来た部分はそれなりにある筈である。特に地方での産業=一次産業ではその傾向が強いのではないか。そこで女性の負担だけを大きく取り除けば今度は男性側に「俺達は肉体労働しているのに女性は何もしない」という不満がたまる。そこのバランスも難しい。身も蓋も無い話だが、もはや地方における生活の構図そのものが現代のニーズに即していない。テレワークなどで生活様式を変える手もあるが、そうなればその地域に住むことにこだわる理由も無い。

 男女間の賃金格差はもはや法的拘束力をもってして是正しなければならないレベルだと思うが、それはもはや国政の域なので地域だけでは対応出来ない。日本の経営者は罰則付きの義務化をされなければ何も変えないので、地方レベルの取り組みで変えることはほぼ不可能。最低賃金もそもそも都道府県によって違う。技能実習生ですらより最低賃金が高い地域を目指す。特にいまの世の中は金、金、金。物価は上がって子育てにかかるコストもリスクも上がっている。その中で人に金を出せない地方ではお話にならない。

 どこぞの町役場があまりに安い値段でクマ駆除を依頼して猟友会にそっぽ向かれている話、多くの人は他人事として笑っているだろう。しかしあれに限らず日本人はかけるコストに対して多くを求め過ぎる傾向にある。決して他人事ではない。ノーワーク・ノーペイならばノーペイ・ノーワークも成り立つ筈だ。「地方に残って安価な賃金と重い負担に人生をかけろ」と言うのと「二束三文でクマ相手に命をかけろ」と言うことの何が違うのか。

 その地域に暮らして来た人間はそのコストを受け入れられて来た人間なのでそれが当たり前、むしろそれが受け入れられない人間が不思議な存在に見えることだろう。しかし生まれた時から不景気の中で育った世代は違う。コストに対して極めて厳しい価値観を持っており、そこでも致命的な違いがある。映画館で2時間の映画を見ることすら「タイパが悪い」と言って避ける層が田舎暮らしのコストを受け入れると思うか?

余談:田舎暮らしのデメリット

 つい最近、YouTuberが田舎で古民家を買って住むような動画を企画し、地元住民と揉めて企画を中止したことがニュースになっていた。理由は以下の通り。(https://yutura.net/news/archives/116495 より一部抜粋)

 ルートルは物件を購入する際、自治会に入る必要はないと言われていたとのこと。ところが蓋を開けてみると、「自治会に入れ」と要求されたのだとか。さらに、「協力金」として年間9万円、「放送設備設置代」として1万円の支払いと、年に数回おこなわれる水路の清掃、ゴミ置き場の清掃、墓地のゴミ置き場の清掃、堤防の草刈りへの参加を求められたそうです。

 田舎では若者は貴重な労働力である。肉体的に健康なことはもちろん、高齢者しかいない地域では良い言い方をすれば頼もしい、悪い言い方をすれば年下なので命令出来るし便利使い出来そうな存在。なので”活用”しない手は無いし、それに従わない人間は非協力的とみなされて敵視されることになる。それが外部から来た人間が居着きづらい理由。

 しかし地方における様々な奉仕活動は地域の環境を維持するために必要であり、その正当性を否定することは出来ない。地元住民からすれば長年、彼らがコストを支払って維持し続けてきた地域に住むもうとする中で、健康な肉体も経済力もありながらあらゆる協力を拒否するYouTuberはいわば「よそ者のくせにいいとこ取りしたいだけ」で、反感を覚えるのも無理はないだろう。もっとも消防団なんかは本当に必要か?と思うが。

 で、そこでYouTuberが企画を中止した理由は嫌がらせを受けたという点もあるだろうが、おそらく一番大きいのは環境維持のためのコストを支払ってまで、負担を背負ってまで地方に住みたいとも思っていないから。記事ではYouTuberが被害者であるような書き方だが、私から言わせれば最初から地方での暮らしの本質を理解していないのが悪い。金のための動画作りのことばかりで当たり前の道理を理解していない。

 それでも、どうしても何の負担も背負うことなく田舎暮らしがしてみたい、と言うのであれば人家がほぼ無いようなガチな過疎地をオススメする。人家があっても1件、2件くらいでそれこそその地域で住んでいるだけでありがたがられる様なガチのド田舎がおすすめ。もちろん手入れされた道路や綺麗な田畑のような整った田舎の風景を期待してはいけない。

 都市部に住むにはそれなりの家賃が掛かるだろう。田舎では家賃は安いがそれ以外で金が掛かる。社会の一員として、人間としていずれかの地に住む以上、それ相応に社会から求められる負担から逃れることは出来ない。不景気でコストに厳しく育った一員としてそれに抵抗があることは理解出来るが、それを皆が皆、拒否し続けては社会は成り立たない。

 俺も都市部に住みてぇ

 

*1:事故や病気の場合を考慮すると2人では現状維持すら出来ない