「そこまで言って委員会」で石丸氏が少子化対策について問われ、一夫多妻制と遺伝子工学で300年がどうこうと言っていた。話題作り、マーケティングのために言っていたのだろうが、それはそれとしてあまりに中身が無いのでネタにする。
一夫多妻制は少子化対策にはならない
一夫多妻制が人口減対策として使われて来たケースは確かにある。中東、イスラム教のそれが好例だ。しかしこれは戦争で死ぬ人が多く、未亡人が増えてしまうことへの対策としての話。未亡人に経済的な庇護と子どもを生む機会を与え、戦争で減った人口を回復させる目的があった。
現代においてはまず人口減少の理由が異なる。先進国が少子化に陥る原因の一つは子育てにかかるコストの上昇である。ほぼ一次産業だけで生活していた時代と同じ感覚で物事を考えるのは愚か。日本において22歳まで1人を育てようと思うと、約3,000~3,500万円かかるとする調査が多い。学校をすべて私立で通わせるなら5,000万円オーバーとも。一夫多妻制を導入したとて、一体どれだけ富裕層が子どもを作ると言うのか。
加えて富裕層=結婚して子育てするのに適した年齢とは限らないし、「富裕層にやってもらおう」と言うのは勝手だが富裕層にも選ばれる側にも選択の自由はある。いくら資産があっても、「財力の許す限り妻も子どもも欲しい」という人間はそうはいるまい。いくらお金持ちでもおっさんと結婚したいと思う女性はどれだけ居るのか。おばさんと子作りしたいと思う男性はどれだけいるのか。
結局のところ現代における一夫多妻制は、男性目線では「金を持ってる人間がどんどんやれば良い」、女性目線では「お金持ちと結婚して楽をしたい」という他力本願の極みに過ぎず、取るに足らないものである。少子化の原因をことごとく見誤り、その対策として誤った見地から誤った対策しか出てこないあたりつくづく愚か。
ちなみに一夫多妻制と言えば中東が有名だが無制限に結婚できる訳ではなく、王族でも無い限り妻は4人まで。5人目以降は正当な理由があることの証明が必要になる。それ以外の一夫多妻制を見てもその背景には宗教的な理由、時の権力者の都合が強く働いている。
夫婦別姓でさえなかなか進まない日本ではまずもって非現実的というか、導入したら導入したで揉めごとの種になるのだろうなあ・・・。
遺伝子工学うんぬん
これはもはや何を言いたいのかよく分からない上に、SFの世界に片足を突っ込んだ話なのでどうでもいい。強いてSF的なことを言うのであれば、遺伝子工学よりは人工子宮がどうのと言った方がまだ分かりやすい。
少子化対策としては何が必要か
一言でいえば「格差の是正」。これが口から出てこない政治家は全員分かっていない。「減税」でも良いが、定額減税によってそれが一概に正解とは言えないことが分かってしまった。格差を是正するための減税ならばともかく、手間ばかり増やして新たな不公平まで生む一時凌ぎの減税政策は無意味。そもそも定額減税は物価高対策な訳だが。
政府として格差を是正し、社会の中で「自分の立ち位置なら結婚や子育てをしても良いか」と感じる人間が増えなければ少子化問題は改善に向かわない。格差を是正するどころか拡大させ続け、多数の貧困層と一握りの富裕層に社会を分断し、「これでは子どもどころか結婚すら諦めざるを得ない」と考える人間を大量生産する今の政治では何をやろうが無駄でしかない。
現役世代に負担を増やすだけの何の役にも立たない少子化対策は今すぐ止めるべきである。こども家庭庁などという穀潰しも今すぐ廃止するべき。
一夫多妻制の思考実験
簡単な思考実験をしてみよう。より厳密な計算をしようとすると難しいので概算に留める。人口100万人の国があるとして人口比率、男女比率が現代日本と同じ、20~44歳までの女性が子どもを産めると仮定する。
まず一夫一妻制で適齢期の人が全員結婚、子育てする場合を考えてみよう。人口全体に対する女性の比率は約51.2%。100万人中512,000人。その中で20~44歳の女性は約31%=約15万8千人。男余りなので男はこれより多いとして、この女性全員が結婚して3人ずつ子どもを産めば新たに生まれる子どもは474,000人。
次に年収1億円超え*1に一夫多妻制を導入した場合を考えてみる。年収1億円超えは人口の約0.25%なので100万人中では2,500人。この2,500人の中でも男女比はある程度分かれる筈だが全員男性と仮定して、全員が結婚して子どもを作れるだけ作るとしても、先の93万人を補ってあまりある為には1人あたり190人の子どもを作らなければならない。
実際には一夫一妻制でも必ず3人作れる訳ではないし、その他の要素を考慮するとこれよりは減る。一方で年収1億円あっても育てられる子どもの数はこれよりずっと少ない上に、先にも述べたように富裕層だからと言って力の限り結婚・子育てをしてくれる訳でも無ければ、それに適した年齢とも限らない。若くして富裕層と呼べる人間はもっと少ない。
つまるところ、一夫多妻制を認めたとて一握りの富裕層がその他大勢を補ってあまりあるほど子どもを作れるとは考えづらい。
なお、歴史上最も多くの子どもを作った人物は1,600~1,700年代のモロッコ、アラウィー朝皇帝ムーレイ・イスマーイールとされ、研究によれば1,171人の子どもをもうけたとか。ただし本妻は4人でそれ以外の側室は奴隷であったとされる。現代の感覚からして全員まともに育ててもらったとは思えないし、女性の社会的地位の低さも無視できない要素だ。
日本で一番子どもが多かった人物は徳川家斉で53人らしい。現代の富裕層程度ではこれにも追いつくことが出来そうにない。
パフォーマンスが上手いだけの奴
前にも書いたが、ひろゆきや石丸伸二氏のようなSNSを使用しての若者に向けたパフォーマンスが上手いだけの人間に人気が出るのが怖い。社会に対して不満を募らせている層の受け皿になっていると言えば聞こえは良いが、彼らが社会における諸問題を解決出来るかは全く別の話。今回の少子化対策を巡る発言を見ても特にそう感じる。
それだけでなく信者を作って人間を敵と味方に分け始めたら手に負えない。社会の分断は進んでしまう。トランプ大統領を熱心に支持する層とそれ以外の分断が進むアメリカを見れば、それは特に危惧すべきに思う。日本ではことさら分断が進んだように思わないが、これから更に格差が拡大すればいずれ追いついてしまうだろう。
*1:1つの目安としての基準で特に深い意味は無い