ヤマネコ目線

大体独り言、たまに写真その他、レビュー等

教育勅語の是非

 X (旧Twitter)で不定期に盛り上がる話題の1つに教育勅語の是非に関するものがある。それも今回の火種は杉田水脈議員。日本国旗をアカウント名に入れた自称愛国保守の皆さまがこれに同調して多数のツイートをしているのだから気色悪い。

そもそもの話として

 教育に関しては既に現代に合わせた教育基本法が制定されており、1948年(昭和23年) 6月19日には教育勅語の失効を確認する文書が国会から出ている。記載されている発行の経緯としては「既に教育勅語等は失効はしているが、その失効に疑義を持つ者がいるので念のためここで明示する」というような流れ。

教育勅語等の失効確認に関する決議(第2回国会):資料集:参議院

 つまり教育に関しての教育勅語の出番など今さらどこにも無い。内容に関する正当性をもってして教育勅語復権を図ろうなど愚かな話。国会議員たる者がこうした流れを顧みず復古主義的な思想に流れることは嘆かわしい。一体どこの誰の代表者でいるつもりなのか。国会議員は主権者たる国民の代表者であって、大日本帝國における天皇の忠臣では無い。天皇陛下の忠臣にでもなったつもりか?

 身の程知らずが。今、現代日本における国会議員であるという自覚が足りない。それでいて教育勅語に準ずるような善良で賢明な日本人のつもりでいやがる。教育現場に必要な金も人員も回さず、教育勅語に沿った教育が様々な問題を解決するための一番の近道などと抜かす。極めて不愉快。極道に道徳を説かれたような気分だ。

現代でも通じる内容はあるか

 前述した内容に尽きる気がするが、では教育勅語の内容に関して現代に通用する内容はあるのだろうか。

 「教育ニ関スル勅語」は、元はと言えば勅語つまり天皇の政治的権威をもってして定められた教育方針である。杉田水脈氏らが引用している画像はあくまで都合の良い要約であり原文はこのような箇条書きでは無い。「朕惟フニ」、つまり「天皇である私が思うに」で始まるもので下記サイトに現代語訳が載っている。

www.tarojiro.co.jp

 保守を自称する者たちが投稿に貼り付けている画像には記載されていない(あえて載せていないのだろう)が、原文には

「我カ臣民、克ク忠、~(我が臣民はよく忠であり、~)」

「独朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス(ただ天皇である私の忠実で順良な臣民であるだけでなく)」

とあり、終盤で「天皇の子孫も臣民もともに(この在り方を)守り従うべき」としている。つまり教育勅語は日本国民が天皇の従順な臣民であることを奨励するものであり、純粋な教育方針の策定というよりは国家主義を掲揚するためのものと言える。

 実際、教育勅語全体の流れを要約すると

  • 神話的な国家観の提示
  • 国民がよき臣民であることの礼賛とそれを教育の根源とすること
  • 天皇および国家に忠実で道徳に厚い臣民たる在り方の教示
  • 順良な臣民であることが祖先に対しても誇りであるということ
  • 勅語そのものを絶対視させるための権威の発露
  • 天皇として臣民と一体となってこの道徳を体現する決意

という感じか。教育に関するくだりはどちらかと言えばおまけ、人々に「これは確かにそうだ」と思わせるための部分。実際に言いたいのは道徳に関して示した一文の最後、

「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ、以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ(非常事態のときには大義に勇気をふるって国家につくし、そうして天と地とともに無限に続く皇室の運命を翼賛すべきである。)」

であろう。

 本質的な部分は現代日本の政治体制=民主主義、国民主権とは相容れない。君主制も神話的な国家観も80年前に死んだのだ。いつまでその亡霊を引き摺っているのか。いつまで帝國臣民のつもりでいるのか。

 結局、「現代でも通用する内容」というのは都合の良い切り取りであって、やっていることは自称愛国保守の彼らが嫌うマスコミと大差無い。「なに一つおかしなことは書かれていない」は大間違い。

 問題無いと思える内容の部分についても本質的には国家主義的体制の下における価値観の押し付けであり、特に都合の良い要約verでも最後の一文、「正しい勇気をもってお国の為に真心を尽くしましょう」は明らかに現代の感覚に合わない。そう思わないのはもはや救いようが無い。

 それはそうと、あのような内容を日本国民が実践できるような国、社会を自民党政治は壊し続けて来たではないか。百歩譲ってよき臣民たる生き方も良しとしよう。しかしそれが可能であるためには政治経済も良くなければならない。国民に教育勅語のような道徳を押し付けられるほど国会議員、特に自民党公明党の政治家は相応の仕事をしているのか。して来たのか。そう思っているのなら甚だ大間違いだ。お笑いにもならん。追い詰めるだけ追い詰めておいて今さら出来もしない綺麗事を抜かすな。精神論でどうにかしようとするのはそれこそ戦時中と同レベル。

生ける亡者

 教育勅語を賛美するような復古主義的な流れを愛国保守とは認めない。最低限の道理も分からぬゆえに路頭に迷い、過去を美化することに囚われてそこに現代の諸問題を解決する手段すら求め、現実に合わせて物事を考えること、価値観を改めることを放棄した者は生ける亡者である。

 彼ら自身はそれでも「誇り高き日本人」であるつもりなのだろうが、まだこの国において「日本人であること」はそこまで特別な事でもない。私だって日本人だし、善良な日本国民は少子高齢化こそすれそこら中にいる。それでも彼らはXのユーザー名に日本国旗を入れたりなんかして、日本人であることを誇張したがる。自尊心の拠り所がそこにしか無いのだろうか。一周回って憐れ。

 見方を変えれば彼らもまた悪政の被害者の一員と言える。そのような状況になってしまった責任の一旦は政治に無いとも言い切れない。国家が危機に瀕すれば危機感を覚えるのは自然であるし、その過程で保守的な思想に寄ってしまうのは理解できる。しかし今、我々が目指すべき道は過去の帝國への逆戻りでは無い。国民1人1人が民主主義国家の主権者たる立ち位置を理解し、政治参加をもって国を変える、政治を変えさせることが必要ではないか。

 それにしても万が一、今から天皇制に戻したとしても今上天皇は困惑なさるのではなかろうか。政治の現状を見ればその方がうまく行くのではとさえ思えるレベルだが、こうもボロボロにされてから「どうにかしてください」と国権を渡されてもどう思われるか・・・

 耐え難きを耐え、忍び難きを忍び(現在進行系)