ヤマネコ目線

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国民総株主?カモネギ?

 ふとAmazonを見ていたら前澤友作氏の著書がベストセラー1位になっているのが目についた。なるほどやり方がうまい。本物の金持ちはこういうので儲ける訳だ。アメリカでゴールドラッシュの時代、一番手堅く儲けたのは金の採掘者ではなくツルハシを売る業者だったという話に通じるものがある。

 という訳で、8年くらい前から株に手を出している私がこういう「作られた夢」をブチ壊しておきたいと思う。夢を壊されたくない人は帰って、どうぞ。

 岸田政権で「投資で資産所得倍増」などと言い出した訳だが、当の岸田総理は株を持っていないことも話題だった。どこからあんな言葉が出てきたのか。

儲かるまでに時間がかかる

 まず第一に株式投資は儲かるまでに非常に時間がかかる。今の20代前半あたりがどう考えているのか知らないが、最低でも5年スパンで物事を考えなければならない。思ったような儲けが出る頃には下手すれば爺さん婆さんだ。よほどの金持ちのご家庭に生まれた訳でもない限り、株をやればすぐ儲かるとは思わない方が良い。

 政府は簡単に投資で資産所得倍増などと言ってくれるが、子どもを作れる年齢層に経済力がつかなければ少子化は改善しない。その辺りをどう考えているのか。所得倍増の目的が若年層の経済力強化というなら見当違いも甚だしい。

 上手くやれば個別銘柄の取引でそれなりの速度で儲けることも可能だろう。しかしそれが出来る人間は一握りであり当然、損をすることもある。積立は手堅いがそもそも思っているほど増えない。倍々ゲームは思っているより難しい。

  私は個別銘柄取引しかしておらず、そこでかなり忍耐力を鍛えられた。5年で儲かれば良い方、10年、20年で考えるべき場合もある。それだけの期間、待つことに耐えられるか。大抵は無理だし、投資初心者はなおさら難しい。政策や世界情勢による株価の乱高下でうろたえて下手に売り買いして損をし、市場の養分になるのが関の山。

 カモがネギを背負って来るがごとく、初心者が少ない元手を握りしめて投資の世界に来ては損をし、その損が誰かの得になっている。主に富裕層の。初心者に投資を勧めるのは金持ちがより金持ちになりたいからでしかない。

資金力が物言う世界

 第二に「資金力がモノを言う世界である」ということを理解しなければならない。10万円の元手から始めるのか、1,000万円の元手から始めるのかでは全然違う。倍々ゲームでうまく元手を増やせれば良いが、世の中そう上手くいくことばかりではない。簡単に儲かるなら投資家は皆、お金持ちだ。

 ここが貧困な日本の若年層にとってキツい。投資に回せるだけの余剰資金・貯蓄が少ないからだ。ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターン。突っ込むお金が少なければリターンも当然少ない。だから株式投資は今まで「お金持ちがやること」だったのである。

 それは投資が推奨されるようになった今でも何ら変わっていない。政府がやりたいことは単純にタンス預金を減らしたい、程度のものなのだろう。投資で得をしようが損をしようが全て自己責任で政府の知ったことではない。

 結局、資金力に乏しい個人は豆鉄砲を持っているに過ぎず、投資会社やら金持ちやらが大砲を持ち出して来る大戦に巻き込まれ、時に損をして時に得をする程度の話になる。そこでうまく立ち回れる者ばかりなら良いが決してそうではない。

 資金力が無いからといって、可処分所得の大半を投資に向ける者もいる。しかし20代、30代で余剰資金をすべて将来への投資に回し、本来しておいた方が良い経験や思い出作りが何1つ無いまま年を重ねたらどうなるか。

潮目を読む力

 株価や為替の潮流とでも呼ぶべき流れは、アメリカや日本政府の金融政策やそのバランス、その他世界情勢によって大きく変わる。普段からニュースを見てその辺りの潮目を読もうと心がけることが重要。そこでうろたえず冷静に対処できる胆力も求められる。

 しかし今、株式市場に呼び込まれようとしている初心者はそうしたことが出来る人ばかりではない。金融リテラシーも無い、世界情勢にも興味無い、政策のことも分からない、そんなカモネギは訳の分からないまま大きな流れに揉まれて、訳の分からないままに損をしてドザエモン*1になる。

 ぶっちゃけ勉強が苦手な人間は株式投資に向かないというか、何となく投資すれば儲かるだろう程度の認識で投資を始めるのは良くないと思う。

「株がもらえる」

 CMで「株がもらえる」と流れていたのを見たが、株なら何でも良いという訳ではない。さすがに本当にスカみたいな株がもらえる訳でも無いだろうが、株を配るのは当然ながら配った以上の利益が得られる見込みがあるから。素人がどんな取引をしてどれだけ損をしようが、仲介手数料で儲けられるのが確実ならそれくらいするだろう。

 こうした点、SBI証券なんかは落ち着いて株を持ち続けるべき局面でアプリの通知から「相場が大きく変動しています」、みたいな煽りを入れてくるので非常にタチが悪い。そりゃ、売り買いしてもらった方が仲介手数料出るもんな。ユーザーが損をするか得をするかは別として。

政策としての是非

 投資は自己責任の世界である。そこに政府が初心者を誘導することは、それも日本国民の多くにまだまだ金融リテラシーが無いことを承知で誘導することは極めて無責任であると感じる。

 日本人は「自己責任」で片付けるのが大好きだから喜んでその方針に従う訳だが、それは結局、さらなる格差拡大への道でしかない。政府は実質的に何もしなくて済む。勝手に儲けてくれたものに後から課税すれば丸儲けだ。直近ではiDeCo改悪が話題だったがあんな感じで、初めはNISAとか美味い話で釣っておいて後から投資所得課税強化なんかを出せば良い。あれ、何もしないより悪質では。

 富裕層としては政府が格差是正ではなく自己責任の投資という、資金力の優位性を活かせる流れを推奨してくれることが好ましく感じるだろう。

 日本政府は格差是正という政府としての使命を放棄し、むしろ格差拡大への政策を取り続けている。いつまで経っても金持ちが更に金持ちになるための社会。

余談:令和8年は丙午

 どうやら「令和8年は丙午だから産み控えが起きるのでは。対策が必要だ」などという声があるらしい。バカじゃねえの。

www.sankei.com

(記事題:令和8年は60年ぶりの丙午(ひのえうま) 産み控えに「必要な対策を検討」 政府答弁書

 丙午の迷信なんか今どきの人間は信じないし、何ならこのような報道がなされなければ知りもしなかっただろう。普段から産み控えが起きるような政策を敷いておいてまったく、余計な心配をしてくれるものだ。

 むしろこうした俗信を口実に「産み控え対策」などと言って、また余計なことに金を使う算段を始めたのだろう。余計なことに金を使うならその分、減税や社会保険料の引き下げをするべき。重い負担が普段から産み控え、結婚控え、恋愛控え政策になっている。

*1:水死体のこと