ヤマネコ目線

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インボイス制度の正体

 未だにインボイス制度について「今まで消費税を払うべきなのに払ってなかったズルい奴らが払うようになるだけ」、というような浅い印象論でしか制度を理解できていない人間がいるので改めて書いておく。

実質的な消費増税

 インボイス制度の正体というか本質はこれに尽きる。実質的な消費増税である。それも直接的に税率をいじる事なく、なおかつ冒頭で書いたような事を言うある種の擁護派が湧くような、反対の起きづらい場所を狙った非常にいやらしい制度。

 インボイス制度が実施されるまでは、課税売上高が年1,000万円未満の事業者(=免税事業者)は消費税の納付義務が無い。たとえば自分の会社が免税事業者から11,000円で備品を買い、そのうち1,000円は消費税だったとする。この場合、自分の会社は消費税分1,000円を確かに相手に支払っているのだが、代金を受け取った免税事業者はその1,000円を消費税として納める必要が無い。

 これが一部で「ズルい」と言われる理由で、消費税を納めないのに請求書は消費税込みになっている=10%分得をしている、これまで不当な利益を得てきたと言われている。そこでインボイス制度は免税事業者を実質的に免税事業者という枠組みから追い出し、これまで徴収していなかった部分の消費税を徹底して取ろうという制度となる。*1

 しかし、課税売上高が1,000万円未満の事業者が免税となって来たのは規模が小さいからゆえの手心であり、言ってみれば弱小事業者に対する配慮であった。それは何もズルいと言うほどでも無いし、「10%分得をしている」とは言っても実際の取引では、その分の利益も込みで価格交渉をする面もあるだろう。目くじらを立てるほど、憎まれてしかるべき程の不当な利益はそこには無い。消費税が今の10%として、課税売上高MAXの1,000万円とすればその10%なので得をしてもせいぜい100万円くらい。大手の中抜きの方がよっぽど悪質かつ多額。100万円という額は一般人としては大きいものだが、事業者としては小さい。ちょっと機材買えば簡単に飛ぶ額。

 何はともあれインボイス制度は、これまで取っていなかった所からも消費税を取るための制度。実質的な消費増税である。となれば、あらゆるモノの提供にかかるコストが今より更に増大することが容易に予想される。消費税は人件費と税金以外のあらゆるものに掛かると考えて良い。そうなれば当然、小売価格も上がるので一般消費者としての我々の負担も大きくなる。普段、店で10,000円の買い物をして追加で1,000円を支払っているのは誰か。自分はカンケイ無いと思っているならそれは大間違いである。

 誰が何と言おうと消費税は逆進課税*2に違いはない。この社会情勢、世界情勢の中、コロナ禍からようやく経済が立ち直ろうという中、物価高騰に賃金が追いついていないと指摘されている中、消費増税でさらに弱者をいたぶり、ただでさえ悪い景気に冷水を浴びせようという神経が私には理解できない。

 大げさなように思われるかも知れないが、細々とした事業者が物事の末端を担っているケースは珍しくもなんともない。影響はそんなに無い、気にする必要はないと言う人もいるかも知れないが、もしそうならそんな場所まで徹底的に消費税を取ってやろうというこの政府の意気込みは何なのか。国家公務員ですら副業が解禁されるような世の中で、庶民の小さいお金稼ぎからですら徹底的に絞り取ってやろうという意地汚さ。反吐が出る。

 正直、課税事業者の経理担当としてでも、増税のためだけに余計な手間ばかり増やされて心底腹が立つ。増えるのは手間と税金ばっかりかよ!

免税事業者の基準について

 インボイス制度が実施されるまでの間、課税売上高1,000万円未満の事業者は免税事業者である。この基準について「年1,000万円」という額だけ聞くと、一般的な会社員の感覚からすれば大きな額と思うかも知れない。が、ここで問題なのは課税売上高が年1,000万円あるか無いかであって、それはイコール純利益1,000万円でも年収1,000万円でも無い。

 そしてこの基準は思っているほど高くはない。単純に1,000万円を12(ヶ月)で割れば約833,334円/月。コンビニの1日の平均売上が5, 60万円であることを考えれば、それなりの事業規模であれば超えない方が難しい。超えたらインボイス制度関係なく課税事業者になるのでそれはそれで問題ない。

 免税事業者の事業者としての規模がいかに小さいものかお分かりだろうか。これは受け売りだが、つまるところインボイス制度は「子どもに住民税を請求するようなもの」とも言える。確かにその自治体の管轄地区に住んでいる1人の人間かも知れない。月3,000円のお小遣いをもらっているかも知れない。かと言って「はい、あなたの昨年の収入は36,000円ありましたね。それに対する住民税を払ってください」と言う自治体がどこにあるのか。それが果たして良しとされるべきなのか。

非常にいやらしい制度設計

 これまで述べたように、免税事業者はそこまで憎まれるほど不当な利益を得ているような存在ではない。売上1,000万円なんて地方の中小でも下手し、1つの取引先相手に1ヶ月で上がるレベル。それすら超えない程度の売り上げしかない事業者に対し、インボイス制度は「これまで払うべき消費税を払ってこなかった」というレッテルを貼り、世間から批判の矛先が向くように仕向けてこの経済情勢の中での消費増税を正当化しようとしている。これがまず非常にいやらしい。世論を敵に回しづらい、国民の中に敵を作って国民同士で争わせるような誘導。本当に最低最悪レベルに性格が悪い財務官僚か何かが考えたのだろうなと思う。足の引っ張り合いが大好きな国民性もうまく作用している。自分が不幸だからお前も不幸になれ、お上の好き勝手は仕方ないが身近な人間のちょっとしたズルは許せない。それで良いのか日本人。

 そして「課税事業者になるかならないか」という選択肢。インボイス制度が始まっても、課税事業者にならないという選択肢を一応は取ることも出来る。これは一見、そこに選択肢が存在するかのように見える。が、実質的にそこに選択肢は無い。なぜか。免税事業者からの仕入れは仕入税額控除ができなくなるからである。

 今までは、免税事業者からの仕入れで支払った分の消費税は仕入れる側も払う必要が無かった。たとえば免税事業者に11,000円を払って何かを仕入れたとしよう。するとこの金額のうち消費税分1,000円は今まで、自分が支払う消費税から引くことが出来た。それがインボイス制度では出来なくなる。

 インボイス制度では免税事業者も、そこから仕入れを行う企業も払わなくて良かった消費税を必ずどちらかが支払う必要が出てくる。(今の)免税事業者が課税事業者になって支払うのか、それとも仕入れを行う側が免税事業者の支払うべき消費税10%分を肩代わりするのか。

 当然、企業は他の事業者の消費税分を肩代わりすることなど嫌に決まっているので「そういう事業者とは取引しないことにする」という流れになる。あるいは免税事業者に対して消費税分を肩代わりする代わりに、代金を10%値引いてくれないかという交渉をすることになる。ただでさえカツカツのコストでやっている弱小事業者に対して、である。

 となれば、実質的に免税事業者には選択肢が無い。課税事業者になって消費税を支払い、取引を続けさせてもらうか。涙を飲んで値下げを受け入れるか。それとも廃業するか。これで廃業するような規模ならそれまで、という冷たい意見もありそうだが、どんな企業でも最初はそんな規模であった筈。それで廃業が相次いで、様々なものが供給不足あるいは値上がりすれば困るのは誰か。

 何にせよ一番得をするのは日本政府な訳で、どの事業者がどう転ぼうと廃業しようと業界がどうなろうと、政府だけは消費税の取りっぱぐれが無い。税金を取ることだけは一丁前だよ本当に。少子化対策は未だに給付金だクーポンだで何とかなると思ってるオツムのくせにな。

 インボイス制度は今からでも中止すべき

 

*1:必ず課税事業者にならないといけない訳ではないが、免税事業者で居続ける事が厳しいように仕向ける制度設計になっている

*2:相対的に貧者ほど負担が大きく、金持ちほど負担が軽い税。累進課税の逆