ヤマネコ目線

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国産次世代半導体は成功するのか

 国や企業が次世代半導体の開発・量産化に力を入れるというニュースがあった。が、正直やらないよりマシかも知れないが個人的にはあまり明るいニュースにも見えない。

news.yahoo.co.jp

要約

 要約するならば2本柱、政府主導の次世代半導体研究機関を発足させて研究開発を行いつつ、半導体製造・量産化のための会社を名だたる企業が出資して設立すると。

個人的な見通し

 まず政府主導の半導体開発研究機関だが、名だたる大学が参加するとはいえ次世代半導体の開発など簡単に出来るものではない。特に最先端を行く研究であれば文字通りそこは未知の世界であり、1歩進むのも手探りというもの。いくら有名大学の研究者であっても、自分が取り組んでいる研究が将来的に実を結ぶかどうかなど分かる訳がない。政府が今まで通り「役に立つと思われる研究に予算を出す」というスタンスを取り続けるのであれば将来性は無いだろう。そも、研究分野をないがしろにして来た政府が今さら力を入れると言っても人材獲得能力に疑問がある。「上が詰まってて研究が出来ないから、予算が付かないから」と若手研究者に中国へ逃げられるようなこの国が、どこまで現状を改善できるか、本気でやるなら頑張って欲しい。

 アメリカの研究機関とも協力するという話もあるが、正直それも良い感じはしない。アメリカから有益な情報を渡してもらえるというなら話は別だろうが、果たしてそんな美味い話があるのだろうか。研究のコアな部分は外国人には絶対に触らせないような国だと私は思っているが。

 名だたる企業が出資する量産化のための企業「ラピダス」についても、個人的にはあまり期待はしていない。確かに出資企業は大企業ばかりだが、業種が違うのでいざどこの何に使う半導体を優先するのか、という面で足の引っ張り合いが起きそうな気がする。半導体と一口に言っても様々で用途も違う。

 記事では「量子コンピュータやAI、自動運転」といった言葉が並んでいるので、好意的に捉えるならば最終的に量子コンピュータの量産を目指す、という感じだろうか。ただ量子コンピューターは従来のコンピューターと原理的に全くの別物。TVニュースでは微細化技術について言及されていたがそれは従来型コンピューターでの話であり、もうこの時点でどっちの方向に行くのかハッキリしない。

 また、最先端技術を量産に至らしめるというからには各社、出資だけでなく技術的支援も必要になるだろう。そのために半導体関連企業の元代表が役員に入っているのだろうが、ただそこで技術の出し惜しみが発生するのでは、とも思う。合同で出資しているとはいえそれはあくまで自社の利益のための投資であろうし、中には競合する分野の企業もいるはず。そこで技術的支援として自社の最先端技術を投入する必要があるとなった場合、そうした技術を惜しみなくラピダスに投入できるだろうか。もしそこで技術流出を恐れて出し惜しみが発生すれば、結局は中途半端なものしか出来ないという可能性もある。

 何より似たような感じで旧産業革新機構の主導のもと、(かつての)名だたる企業が設立した会社で7年連続赤字続き公的資金投入までされている企業がある。ラピダスがジャパンディスプレイ(JDI)の二の舞いにならない事を祈っている。

weekly-economist.mainichi.jp

 というか、二の舞いになるんだろうなあ・・・。今この状況から半導体で勝負するというのがまず分が悪い。悪過ぎる。収益構造が確立できずに公的資金投入まで見える見える。業績が上がらない企業が優秀な人材を社内に確保できるだろうか。GAFAMやNvidiaAMDTSMCと競り勝って。そのうちいつまで経っても利益が上げられない、でもカネは出さないといけない事に気づいた企業がどんどん逃げ出す未来もぼんやり見える。半導体産業を育てようとするのは良いが、動くのが2, 30年は遅い。

余談:研究というもの

 科学技術における研究というものを世間一般がどのように捉えているかは分からないが、私は腐っても元理工系で会社でも東京大学との共同研究に関わった事はあるので、研究というものが実際どれほど大変なものか分かったつもりではいる。本職ではないので齧ったようなものだが。

 まずもって一般的?に思われているほどのスピードで研究は進まない。本当に進まない。最先端の研究はいわば未知の世界であり、1歩を踏み出すにしても手探りのような深い霧に満ちている。それでも、その霧の先に何があるのかを何年かかってでも見たい人間が研究者になる。

 すぐ「それって何の役に立つの?」と口にする人間がいるが、こと研究の分野においてそれは浅はかな考えと言える*1。目に見える範囲で、今すぐ手の届く範囲で役に立ちそうなものは確かにあるかも知れない。役に立つという事は確かに重要ではある。が、それは同じような場所を進んでいる他の研究者からも見えている範囲のものであり、真に革新的な、今いる場所からさらに上の段階へ踏み出せるようなものでは無い。「すぐ役に立つ」は言い換えれば「すぐに追いつかれる」訳でもある。すぐに追いつかれないレベルになるためにはどうすれば良いか。将来性のありそうな方向へ、より大きな発展を目指して地道に歩み続けるしかない。

 それを「すぐに役に立ちそうな研究になら予算を出します」として来た/いるのが今の日本政府。将来性を見据えた研究に予算を出さず、若手研究者を中国などに流出させ続けて来た。その姿勢からして正さなければ将来性は無い。

 また、そうした研究の本質は「目先の利益を追求すること」が第一である企業の姿勢と基本的に相反するものでもある。次世代半導体の開発・研究が実際にどの程度のスピードで進むかは分からないが、少なくともすぐに利益につながる訳ではない。”研究”として成立してもそれが実用化、量産化に至るまでにもそれなりの時間を要する。その中で今回、出資を行う8社がどこまで忍耐強く新しい柱となる木を育てられるか。期待はしつつも不安の方が大きい。

 

*1:実績を上げやすいので「すぐ役に立つ」研究を好む人もいるだろうが