最近、3Dプリンターが情報商材のようになっているのを見る。何でも、3Dプリンターで印刷したものを売れば儲かるだとか。
そういうのに騙される人はあまり深く物事を考えないのだろうなあ、と思いつつも、私自身も実際に3Dプリンターを手にするまでその弱点が見えなかった部分があるので、改めてここで書いておく。
量産には不向き
3Dプリンターの利点はファストトライアル、つまり試作品を素早く実体に出来ることにある。わざわざ金型を作らなくても、大抵の製品ならば3Dモデルさえ作ることが出来れば作ることが出来る。DIY、ものづくりが苦手な人間であっても大抵のものは立体になるので、使い方によっては本当に役に立つ。
一方でそもそもが量産向きのものではない。ちょっと大きいものなら丸一日や二日かかる*1し、印刷されたものをそのまま使用できる用途は限られている。特にFDM方式はあまり寸法精度が必要なものは難しく、印刷が途中で失敗する、どこかが粗くなる、積層部分で剥がれる、一部が反ってしまうなど面倒なことも多い。
光造詣方式ならば精度や画質は良いが、一方でUVレジンを使用する都合上、薬剤の臭いやサポートの除去、印刷物の洗浄、再硬化などこれまた面倒なことが多く、何よりFDM方式ほど大きいものは作れない。
結局、3Dプリンターで作ったものを販売するのであればよほど自分が作ろうとするもののニーズに自信があり、類似品が市場に出回っておらず、小さくて一度の印刷で量産ができるものを作る場合に限ると思う。でなければなかなか採算は合わないのではないか。フィラメント=印刷用のワイヤー状のプラスチックや電気代だってタダじゃない。アクセサリーを作るくらいなら良さそうに思うが、何にせよ既製品で大抵のニーズは満たされているので、そこに3Dプリンターで作った何かを投入して儲けるのはなかなか難しい。
本来のことを言えば3Dプリンターはやはり「製品を量産する」用途ではなく、3Dプリンターで作ったものを原型にして製品として仕上げ、たとえば型取りなんかして別の方法で量産、販売するなどするのが筋。3Dプリンターそのもので量産までやってしまおう、というのは悪とまでは言わないが賢明ではない。
と言うか、ぶっちゃけ3Dプリンターで作った製品ってそこまで欲しいと思うだろうか。既製品で間に合う用途かつそっちの方が安いなら尚更だろう。誰が言ったか、「実用品が欲しいなら3Dプリンターなんか買わずに百均に行け」。ちょっとした箱とか印刷する程度なら百均で買った方が数千倍マシ。
なお、寸法精度の話なんかは以前に書いているのでこちらを参照されたい。本当に寸法精度が欲しいなら3Dプリントの委託サービスを利用すべき。そういうサービスは本当に業務用の1,000万とかするプリンターで印刷してくれる。家庭用のそれとは全く違う。ただしデカいものを印刷するのは高い。べらぼうに高い。
希望があるとすれば模型用途は良いかも知れない。小さくて量産しやすいサイズ、既製品では手の届かない場所に手が届くようなものを作れば売れる可能性はある。ただし用途によるが光造詣方式でないとお話にならないのでそこは注意。模型の世界は「ちょっと3Dプリンターで副業してみよっかな」、程度の気持ちで足を踏み入れても相手にされない可能性は高いが。何なら3Dプリンターを既に持っている人も多いし。
それ、本当に3Dプリンターでしか作れない?
私は3Dプリンターを買ったものの、使う頻度はそこまで高く無かった。買う前にこれを深く考えていなかった。確かにやりたい事はあったしそれにかなり使えそうではあるのだが、いかんせんそこまで多くは無かったし何だかんだ既製品で間に合うことは多い。それはそうだ、みんな欲しいと思うものはどこかしらが、それも企業が既に作っている。
本当にローカルというか、こんなの一般的に売ってる訳ないだろというレベルのものをオーダーメイドするという手もある。が、それはそれで少なくとも原材料費、電気代がいくらか計算した上で請け負わないといけない。何なら途中で印刷失敗なんかすれば最悪。ギリギリの値段で受けていると1度の失敗で採算が合わなくなる。
DMM.makeならば自分で作った3Dモデルのデータ販売が出来たりするので、私ならそっちをするかな。それもなかなか需要があるものを作るのは難しいものだが、少なくとも印刷自体はDMM側が責任をもってやってくれるから楽。あるいはデータ販売だけなら別でも出来る。3Dモデルを作ることが出来るのは強みにはなる。
まあ、なかなか楽に儲けようなんて無理な話ですよ。実際。
*1:印刷速度やフィラメントの直径にもよる