書き散らし。クローズアップ現代で技能実習生の特集が放送された。
消費者も当事者であり加害者
放送された内容に関して、Twitterを見ている限りは企業側に批判的な意見が多かった。それは当然と言えば当然だが私は役職柄、どこか他人事のように企業を批判している人々に違和感を覚える。
もちろん、技能実習生に対して酷い扱いをする企業も企業で良くない。そこは擁護しようがない。休みを取らせない、職場の日本人がサボって実習生にばかり仕事を回すetc.、そのような事をしていれば必ずトラブルが起こるし、厳しくなった技能実習生制度の下では一度そのような事があると下手をすれば実習生の受け入れ自体が出来なくなる。そうなると人件費の面で採算が採れなくなり、倒産まで追い込まれる可能性もある。私の職場では特集で出て来たような事例はないし、良好な関係を保つため、プライベートでは社長みずから数人ずつに分けてコストコへ連れて行って買い物するなどもしている。
そもそも企業が技能実習生を使うのは何故か。コストカットのためである。なぜ”現代の奴隷制度”とまで揶揄される制度を使って人件費を減らし、コストカットに勤しまなければならないのか。そこには「安くないと売れない」という日本市場の絶対法則がある。最近はもう限界が来て消費者側にも値上げを受け入れざるを得ない雰囲気があるが、少なくともこれまでは安くないと売れないのが当然だった。
私が物心ついた時からそういった風潮だったので安ければ安いほど良いというのがどこで登場したのかは分からないが、不景気の中でそういった価値観が醸成されて来たのは理解できる。確かにもらえる給料も少ないし、限られたリソースの中で豊かな暮らしを送るためには支出を絞れる所はしっかり絞って行くしかない。それも十分理解できる。しかし、見方を変えれば「消費者は奴隷の手によって作られたようなレベルの安物しか買わない」とも言える。この事実を差し置いて、さも自分たちは無関係の第三者かのように批判している人々、いかがなものか。
技能実習生制度を廃止した場合
技能実習生制度を廃止すると、今以上にあらゆる物が値上がりするだろう。制度自体を廃止せよと叫ぶ人々は、それを理解して受け入れる覚悟を持った上で制度を批判しているのだろうか。特に衣服、農産物は生活必需品であるがゆえに、しかし必需品なのにその価値を軽んじられている。その姿勢をすぐにでも正し、正当な対価を支払うだけの余裕が彼らにあるのだろうか。
「実習生に頼らないといけない会社はビジネスモデルからして間違っている」、確かに奴隷を使わなければ成立しないようなビジネス、このご時世に正しいとは言えない。一方で日本は少子化まっしぐらの道中であり、常にどこかで人手不足は起こる。そこで実習生を完全に無くしてしまえば人手不足はどうやって補うのか。建設や介護など人手不足にならざるを得ない業界はあるし、そこで事業を奴隷なしでビジネスとして成り立たせるためには、これまで軽んじられて来たものにそれ相応の値札をつけ直す必要がある。そこで消費者は初めて気づくだろう。「間違ったビジネスモデルの中には消費者意識も入っている」のだと。
なお中小企業に関して言えば、特に下請けはその企業の一存で小売価格まで決めることは出来ない。発注元企業の意向が大きい訳で、パワーバランス的には当然厳しい。ビジネスモデルが間違っていると言われてもその企業の一存だけでビジネスモデルを改善する事ができない。そして大企業は消費者を意識して小売価格を上げる事を嫌がる。今現在もそうだが、あらゆる原材料価格が値上がりする中で下請けは製造原価と大企業の値下げ要請との板挟みになり、苦しんでいる。ユニクロやトヨタの業績の影ではどれだけの下請けが泣いているのだろうかと思う。なお、日本の企業における中小企業が占める割合は99.7%である。
「必要ない支援」とは
特集自体にも批判的な意見があり、その中には「外国人に支援なんて不要」という意見もあった。「外国人可哀想って報道して日本人よりも良い待遇を引き出そうとしている」、そういう感じだろうが、その辺りも分かっていない。
今や日本は外国人労働者からしても魅力がない国になりつつある。日本企業がコストカットのために生産拠点を海外へ移した結果、そういった企業はその移転先の国で労働者を募集しはじめ、わざわざ高い費用と習得の難しい日本語を学ばなくとも海外の日本企業拠点で働ける場合が増えている。そうでなくとも、中国に人材を取られつつある。
その中で日本に海外から人材を呼び込もうとする上では待遇の改善は必須であるし、そこには当の日本人が取り組んで来なかった面が含まれているだけの事。外国人は奴隷ではないし、日本人ほど従順でもなければ組織への帰属意識も高くない。取るべきものはキッチリ取るし、貰えるものは貰う。日本人労働者が悪い意味でなあなあにして来た点を外国人はそれで済ませない。本来であれば当たり前のことを今になって突きつけられているだけである。そして、外国人が企業へ当たり前の事を突きつけるためには支援が要る。
郷に入れば郷に従えという言葉もあるが、国際社会においてその言葉がどこまでも通じる訳ではない。宗教的な軋轢などはともかく労働環境においてそれは通用しないし、そこで人材が来なくなって困るのは我々である。外国人労働者がいなければ、もはやいろいろ維持できない社会になってしまっているのだから。
外国人に対する支援を批判している人々は「私たちだって有給を自由に取れないのにズルい!」、という感じに見受けられるが、なぜそこで同じ労働者という立場の相手の足を引っ張ろうとするのか。突っかかるべきは資本家、経営者側であって同じ立場の仲間ではない。
技能実習生に接して
正直言えば役職柄、技能実習生に接する機会が多いので彼らの肩を持つ意見が多めになっているかも知れない。彼らの存在が日本の賃金を引き下げている一因になっているのは事実であり、その点で疎ましく思う人もいるだろうが、それは物価抑制と表裏一体。
考えて見て欲しい。お金を稼ぐために20前後で習得の難しい日本語を勉強し、借金までして仲介業者に日本へ来るための手続きを依頼し、入国してからも厳しい研修を受け、場合によっては悲惨な日本の職場でもろ最低賃金で何年も働き、両親や兄妹に仕送りまでしている。移動は電車、自転車、徒歩。車の免許まで取ってるのはまあ居ない*1。ただでさえそんな待遇なのに、コロナ禍で仕事が減って休業やら何やらで更に思ってた以上に日本での仕事がお金にならない現実。
可哀想でなくて何なのか。しかし、我々の生活は見えない所でそういった実習生の存在によって支えられている。そうせざるを得ないように消費者としての我々が強いている面がある。どこかで、徐々にこの悪しき状況を改善していかなければならない。それが「外国人への支援」という形であっても。
余談
私はあえて実習生について「偉い」という言葉はつかわない。そういう文脈で言う「偉い」という言葉の意図が私は非常に気に食わない。私自身、農作業を手伝っている事に関してそういう言葉をかけられる事もあるが、そういった文脈での「偉い」はいわば、自分より下の人間を自分より下の立場に甘んじさせるためのおだて文句に過ぎない。「私達の生活を支えてくれる都合のいい労働力であってくれてありがとう」という意図である。少なくとも私はそういう意図に感じるし、そういった遠回しでリスペクトの無い言葉は不愉快なのでつかわない。
*1:職業的に必須なら知らんが