ヤマネコ目線

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【レビュー】トップガン マーヴェリック

 映画「トップガン  マーヴェリック」を観て来たので感想文。詳細は公式サイトあるいはWikipediaで。

topgunmovie.jp

総評 85 / 100

 全体的にいかにもアメリカン!ハリウッド!な映画。前作で残した遺恨の解消、戦友との再開、胸が熱くなるような展開と、全体を通して明るい雰囲気に元気をもらえる。いろんな意味で安心して見られる映画。

 私はアジア映画の暗い画づくりやドロドロの心理描写が苦手なので、そういった点が一切感じられないハリウッド映画はやはり良い。何と言うべきか、作中に登場する軍人たちはみな厳しい状況下やわだかまり、不仲さはあったりしながらも、その中でも真正面からぶつかり合って成長して行く、わだかまりを解消していく姿がとても良い。自分もこういう人間であれたら良かったな、と思わされる面がある。

 そして何より轟音で空を切り裂く銀翼F/A-18E/Fスーパーホーネットがカッコ良い!大画面と重低音の迫力で映し出される戦闘機は映画館で見る価値がある。時おりやり過ぎとも思える衝撃のような轟音があるが、戦闘機を見る映画はこうあるべきという感じで文句はない。むしろもっとやれ。

 戦闘機を繰るマーヴェリック役、トム・クルーズも相変わらずカッコいい。一方で酒場でペニーと会話している時に見せる少年のような目つきは可愛げすらある。ペニー・ベンジャミン役のジェニファー・コネリーも51歳という年齢ながらお綺麗。

 この映画はアメリカ海軍の宣伝映画と言っても良いだろう。冒頭の空母からの発艦シーンは絶対的に映画映えするものであり、パイロット志願者が増えること間違いなし。

 純軍事的に言えば気になる点がいくつかあるが、あまり細かい事を気にせず見るべき映画ではある。逆にどうしても気になる人、許せない人はどこかで醒めるかも知れない。

 ちなみに私は字幕で観たが、吹き替え声優はぱっと見ただけでも森川智之(マーヴェリック)、宮野真守(ルースター)、中村悠一(ハングマン)、内田真礼(フェニックス)、水瀬いのり(アメリア)、内田雄馬(ファンボーイ)などなかなか豪華な声優陣である。

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>>-----ここまでネタバレ・批判なし-----<<

マメチ(兼ネタバレ記載までの緩衝地帯)

 マーヴェリックはトム・クルーズ演じるピート・ミッチェル大佐のコールサイン。マーヴェリック空対地ミサイルの事ではない。コールサインは単純に言えば本名を隠匿しつつ、お互い認識しやすいニックネームを付けている感じ。

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 冒頭に登場する架空の航空機ダークスターはほぼCGで、ステルス機っぽい見た目をしてはいるがそれっぽい形状なだけ。一瞬エースコンバットかと思ったがそれはさておき、機体の設定としては戦闘機ではなく純然たる実験機と思われる。要はマッハ10での有人飛行を達成するためだけの飛行機。

 現実における世界最速の航空機はSR-71ブラックバードであり、それでもマッハ3が限界なので、マッハ10はなかなかファンタジックな設定とも言える。現実的に可能かどうか正直怪しい。マッハ3.2で飛行中に空中分解したという話もある。

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 ミッション本番で使用されていた爆弾はおそらくペイブウェイだと思うが確証は持てない。レーザー誘導で形状が特徴的なのでおそらくペイブウェイだと思うが、ガチガチの専門家でも無いので自信はない。冒頭のブリーフィングで説明されていたように思うが、GPS誘導爆弾が敵の妨害で使用できない(命中精度が低下する)のでレーザー誘導爆弾にしたのだろう。

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 ミッション本番で敵国領土内に配備されているSAM(地対空ミサイル)はぱっと見、ロシア軍の9K37ブークに近いものを感じる。おそらく固定砲台的な架空のミサイルなので、あくまで近いだけ。

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>>-----ここから正直気になるところ-----<<

>>-----!ネタバレあります!-----<<

冒頭の映像

 冒頭で空母の発艦シーンが流れるが、主演の顔見せもなくただ空母の発艦シーンを映しているだけ。そのまま何か始まるのかと思いきや黒い画面へ一旦フェードアウトする。最初が一番盛り上がる?のは前作リスペクトかも知れないが、どうしても盛り上がりが尻すぼみ感ある。どうせならミッション本番の発艦シーンに回して欲しかったし、素人考えだがその方が盛り上がったと思う。F-35も登場するが本当にチラ見せ程度なので、正直出さなくても良い。どのみち主人公チームが乗るのはF/A-18なのだから。

マッハ10のくだり

 実機のモックに近いものまで作ったという話もある冒頭の極超音速機ダークスター、ぶっちゃけあのくだり要る?結局、マーヴェリックが無茶して空中分解させてしまうので、後々活躍するなんて事もない。作中ではたびたび「10.0」みたいな数字を見せつけて来るが、ミッション中の加速度単位Gにおける「10.0」と、速度の単位マッハにおける「10.0」がどう繋がるのかも不明。ぶっちゃけ予算不足で余計なシーンを入れたのでは?とも思う。まあ戦闘機飛ばすのもお金かかるし。F-35が使用されなかったのも予算の関係ではないかと思う。F/A-18は現役なのでその点は問題ない。F-35はヘルメットからして特殊なので、俳優の顔が分からなくなる面も大きいか。

 飛行前に健康診断っぽい事をして、宇宙服のようなスーツを着ている点はリアル。前述したSR-71ブラックバードも同じような事をする。ただSR-71の場合でも時間をかけて血中の窒素を抜く作業が必要になる*1ので、気軽にバイクで駆けつけて少ししたら面倒な少将が来る前に飛ぶ、みたいな事は本来であれば出来ない。

 マッハ10.0を出す直前に旋回していたのは別に間違いではない。極超音速で飛行しているため、アメリカ領空から出るのもすぐに出来る。なので領空侵犯しないようにどこかで引き返すのはあり得る。マッハ7、8であの旋回半径で済むかは疑問だが描写としては間違いでもない。それよりマッハ10も出した際のソニックブームは大丈夫なのだろうか。科学的にガチで検証するとどうなのか気になる。

 そもそもマッハ10.0で飛行中に空中分解して生還できるか?というのも甚だ疑問ではある。こればっかりは実際にやった人間がいないので分からないが、通常の戦闘機であっても、空中で緊急脱出した際には体に大きな負荷がかかり、パイロットとしての寿命が短くあるいは無くなるとも言われる。「映画の中のトム・クルーズだから大丈夫」?そりゃそうだな。

マーヴェリックの教官着任

 マーヴェリックは命令を無視し、その責任を負って軍を辞めさせられそうになる、そこをアイスマンに救われる訳だが、正直「トップガンのレジェンドを教官として呼びたい」という筋書きであれば、マッハ10のくだり関係なくアイスマンの命令でとすれば済む話。

作戦内容

 作中でクライマックスになるウラン濃縮施設破壊ミッションだが、F-35で済みそうなところをあえてF/A-18で突っ込む事にして任務の危険度を上げ、そこから全員生還してHappyEnd、とつなげるために無理やり設定された作戦内容の感が強い。作戦自体の難易度や仮想敵国側の動きもふくめてそれを感じる。半分ミッション・インポッシブル。

 レーダーを回避するために超低空で侵入するのも、谷間を縫うように飛ぶのも実際にある話ではある。現実のイラク原子炉空爆事件では防空レーダーをかいくぐる為に低空で侵入していた筈。ただあれだけ入念にSAM(地対空ミサイル)を配備している仮想敵国が、なぜ谷間をカバーするような配置をしないのかは謎。谷間があるのは分かっているのに。

 爆弾を投下して帰還する際もミサイルの挙動がおかしい、というか甘過ぎる。実際にあの数があってあれだけ撃墜できない事は無いし、対空ミサイルは直撃さえしなければ大丈夫という訳ではない。特に対航空機用のミサイルは散弾銃のように破片を撒き散らして攻撃するので、チャフ・フレアでギリギリ爆発させれば良いという訳でもない。

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 本番直前のブリーフィングで判明する「敵基地にF-14がある」というのもよく分からない話。仮想敵国はおよそ中国とロシアを合わせたような感じではあるが、そういった国にアメリカがF-14武装付きで払い下げている世界観がよく分からない。現実ではイランに販売された機体もあるので、そういった国を経由して、と無理くり辻褄合わせが出来ない事もないが、第5世代戦闘機を配備している基地にそれなりに古いF-14を間に合わせ程度であっても配備する必要性は不明。熱い展開に必要だからあった方が良い?それはそう。

 作戦開始直後には友軍の戦艦からアホみたいな数の巡航ミサイルが発射され、敵基地へ飛んでいくシーンもある。ぱっと見、トマホーク巡航ミサイル。ただトマホークの実際の発射シーンを見れば分かるが、あれだけ多くのトマホークが編隊飛行するレベルでほぼ同時に発射される事は無い。ロボットアニメじゃねえんだから。なお、トマホーク巡航ミサイルの飛行高度は数十から数百メートルとかなり低高度で速度もそんなに速くないハズだが、作中では先に飛び経ったF/A-18より上の高度をより速い速度で飛んで行っている。トマホークっぽいだけでトマホークとは違うミサイルなのだろう。映像としては正解なのだろうが。というか基地潰しも大事だけど地対空ミサイルにも撃ち込めよ。偵察衛生で基地にある戦闘機まで分かるんなら、配備されている地対空ミサイルの場所だって分かるだろ・・・となるともう、作戦内容が根本から変わって来る。

 ウラン濃縮施設の破壊に関しては、あれだけ近づくのにそこまでレーザー誘導にこだわる必要があるのか、という疑問もある。一応、通気孔を正確に狙わなければいけないという縛りはあるので妥当なのは妥当なのかも知れない。無誘導でもあれだけ近ければ何とかなりそうな気がしなくもないが・・・。というかそれなりの距離まで空母で近づいて、ウラン濃縮施設を空爆するってほぼ宣戦布告だよなあ。世界大戦の幕開けかな?

 F-14に乗ってからの戦闘で、第5世代戦闘機の後ろを取った際になぜかステルス機を普通にF-14でロックオン出来ているというのも微妙。好意的に解釈すれば後ろを取っているので、赤外線誘導のAIM-9サイドワインダーミサイルであればエンジン排気に向かって飛んでいく、と言えるかも知れないがレーダー探知出来ない点でやはり微妙。その点で言えば最後の最後、ハングマンがカバーで敵機をミサイルによって撃墜出来たのも怪しい演出ではある。

 とまあここまで文句をつけたが総じて見ていて楽しい、清々しい映画ではあった。細かい事が気にならない人なら十分楽しめるだろう。

*1:でなければ窒素が気泡となって血流を塞ぎ死に至る