ヤマネコ目線

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戦車は不要になるのか

 ウクライナ戦争の戦況から戦車不要論が再燃している。ドローンやジャベリン対戦車ミサイルなどによって、ロシア軍の戦闘装甲車両が数多く撃破されているからだ。戦車不要論は昔から戦場が変わる度に出てくる論理だが、果たしてそれは現実になる日が来るのか。

ウクライナ戦争は戦車にとってあまりに状況が悪い

 今回の戦争でロシア軍が主に使用しているのはT-72。近代化改修もされてはいるだろうが、1973年に製造が開始された実に50年モノの機種である。プーチンウクライナを甘く見ていたのか、それとも単純にそれより上位の機種の稼働率が悪いのか、要は今の戦場には古い戦車と言わざるを得ない。実用レベルで最新機種のT-90Mも撃破されているので、投入されてはいるようだ。最も新しい戦車であるT-14アルマータは生産数が少ないとされており、戦力の温存かどこのニュースでも見かけない。

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 対するウクライナ軍が使用するのは戦車で言えば同じくT-72だが、アメリカやイギリスから尋常ではない量の対戦車兵器が提供され、一躍有名になったFGM-148ジャベリンに至っては1発約3,000万円が使い放題のようなもの。ジャベリン以外の対戦車兵器もあるので実際に戦車にとっての脅威はジャベリンだけではない。独自開発の対戦車誘導ミサイルもあれば、トルコから購入した軍用ドローン(バイラクタルTB-2)もある。

 一般的に、攻撃する側は守る側の3倍の兵力を必要とするとされている。兵力だけならロシアが圧勝であろうが、戦車だけ見ても古い戦車VS最新鋭のドローン対戦車兵器の構図は明らかに分が悪い。ロシア軍の戦車はヨーロッパの広大な平原を想定して設計されているが、ウクライナで投入されたのは機動力を活かせず、歩兵が隠れられる場所の多い市街地。どこから対戦車ミサイルが飛んで来てもおかしくない。それも制空権を握り切れていない地域に投入されドローンの餌食、補給が追いつかずそこでも叩かれるなど、戦車の古さもあるが何より戦略面でのミスが大きい

 このため、ウクライナ戦争だけで十把一絡げに「戦車がもう現代の戦場で役に立たない」と結論づけるのはあまりに乱暴である。逆に言えば運用方法を間違えば、陸軍大国であるロシアであっても苦戦を強いられる事は必至。ウクライナが反転攻勢に出るために要望している兵器の中には戦車も含まれているので、戦場ではまだ必要とされている事に違いはない。そもそも先に述べた対戦車兵器は戦車を一方的になぶり殺しにできる兵器ではない。ジャベリンだろうと何だろうと歩兵携行の対戦車兵器は相手からの反撃のリスクを大いに伴う。表に出ていないだけで、ロシア軍戦車を撃破しようとして反撃され殺害されたウクライナ兵はどれだけいるか分からない。

ジャベリン万能論の間違い

 FGM-148ジャベリンは今や万能の対戦車ミサイルのように一般的に受け止められている、ように見える。確かに高性能で素晴らしい武器である事に疑いは無い。ただ何もかもジャベリンで解決するような武器でもない。そもそも論として万能な兵器は存在しない。これは少しでも軍事について学べば分かる常識レベルの話であり、ある武器を万能としてもてはやすのは「最強論争」と同じくらい不毛。ジャベリンが真に万能ならば他の兵器は今頃存在しない。

 まず歩兵携行の装備としては高価であること。アメリカがウクライナへ湯水のごとく提供しているのでその程度が実感しづらいが、最新型の値段は1発約25万ドル(1ドル130円として日本円で約3,250万円)である。3発買えばもう約1億円になる。おそらくこれは照準装置も込みの値段なのでミサイル単体ならもう少し安くなるだろうが、それでも高価なのに変わりはない。あの軍事大国アメリカですら訓練ではまずシミュレーターを使用し、成績が良かった者にだけ実弾訓練をさせる。

 次に飛翔速度。ジャベリンミサイルの飛翔速度は約450km/hで甘く見積もってもマッハ0.4、一方で戦車砲弾の飛翔速度は約マッハ5程度とされる。誘導・無誘導の違いこそあれ、敵めがけて弾薬を発射してから命中するまでの時間差でどちらが有利かは明白。なおかつ戦車砲は連射が可能。ジャベリンミサイルは基本的に1発1発が使い切りであり、発射後は照準装置を分離して新しいミサイルを装着する必要がある。重量もそれなりにあるので連射性は劣る。

 射程距離も圧倒的に有利とは言えない。ジャベリンのロックオン可能距離は歩兵携行で2.5km以内。三脚等の架台を使えば最大4kmらしいが、現実問題として約2.5km以内での使用が多いだろう(運用する歩兵が敵の接近に気づくか否か等の問題で)。一方でT-72戦車の主砲は射程約2.1kmとここだけ見ればまだ希望が見える。が、T-72Bは主砲から射程5kmの対戦車ミサイルが発射できる。なのでいついかなる時も一方的に戦車をジャベリンで破壊できるとは限らない。ロックオンしようとしている所を見つかれば、戦車砲や機銃で反撃されて死ぬ可能性は大いにある。そういった反撃の中でロックオンして発射できるほど戦場は甘くない。

 ジャベリンミサイルの誘導方式は赤外線画像で、ロックオンの過程で破壊したい対象の赤外線(=熱源)にロックし誘導する。これは逆に言えば高温の物体以外には使用できない事を意味している。エンジン稼働中の戦車相手になら使えるだろうが、これからウクライナ軍が反転攻勢に出る際は今までのようにいかないかも知れない。戦車はエンジンを切っても手動で砲撃が出来るように設計されていたりする(全てではないだろうが自衛隊の10式にもその機能はある)。掩蔽壕などでエンジンを切って待ち伏せされた場合はそもそもロックオンできない可能性が高い。

 対して戦車の主砲は誘導性こそ無いものの、高精度な射撃管制装置のおかげで命中率は高く、熱を発しない標的であろうと好き勝手に狙う事が出来る。歩兵だろうが建物だろうがなんだろうが関係ない。T-72に関しては間接射撃であれば射程10kmまでの砲撃が出来る。使用する弾薬も対戦車はもちろん、対歩兵、対装甲車、対構築物などの切り替えが効く。

財務省のアホンダラ

 財務省は事もあろうに、ウクライナ戦争に関連して防衛省に対し、「戦車作るよりジャベリン買いまくった方が安くて良くね?」などと言い出した。どこまで本気かはともかく、歩兵と戦車の違いをまったく理解していない。単純な金勘定だけでモノを考えるのもいい加減にして欲しい。もしそうするとしても、無能政府のせいで円安に振れている中で今さらジャベリンを買おうにも必然的に割高になるだろうし、ウクライナへの供給が優先されるのは明白。

 確かに歩兵による対戦車兵器の脅威は大きく、実際に戦車を破壊する事も可能ではある。しかし命がけで戦車に近づき攻撃を命中させても、それが戦車に対して致命的なダメージを与えられる保障はない。古いT-72相手ならともかく、相手がアメリカのM1エイブラムス戦車に匹敵する戦車であれば致命傷を与えるに至らず反撃される可能性は大きい。ウクライナ戦争での映像を見ても、数発の対戦車ロケットを打ち込まれてなお砲塔が動いている戦車の映像がある。戦車の乗員はそれだけ強固な装甲に守られており、戦闘を継続する能力が高い。

 一方でジャベリン等を運用する歩兵は防御力といってもごく限られたもので、近年、防弾ベストの技術が発達して来てはいると言っても、戦車などの車両に搭載される機銃を防ぐ事が出来るものは存在しない。ましてや30mm、40mm、120mmの砲弾など防ぎようがない。機動力でも戦車に劣るのは明白であり、場所にもよるが戦車に目を付けられれば助かる可能性は低い。ウクライナは市街地とはいえど開けた道路や平原、農地などもあり、そういった場所で戦車に見つかった場合は考えたくもない。装甲で守られているかどうかで戦闘継続能力、兵員の生存性は大きく違う。いつでも安全に歩兵だけが隠れて戦える場所がある、などと想定するのはド素人も通り越してただのバカだ。

 ドローンに関しても活躍出来ているのはロシア軍が制空権を握り切れていないからであり、制空権を握られればバイラクタルTB-2のような活躍は期待できない。そもそも制空権を握り切れていないのに戦車を投入しているのが悪手。

 Twitterではマクナマラと揶揄する声があったが、分かる人はどれだけ居るのだろうか・・・。要は役人が計算だけで戦場を推し量るという事を批判しているのだろう。「何mmの弾薬をいくらで何個買えば敵を何人殺すことが出来る」、そういった浅はかな計算で戦場を完全にシミュレートする事など出来ない。事実、それをやってアメリカが失敗しているのだから、我々はそれに学ばなければならない。もし役人の計算通りに戦場が動くと思うなら、財務省の役人がウクライナへ行って試して来ればいい。そして二度と戻って来るな。財務省を解体するのが一番コスパ良い。戦車叩くならまずレールガンを叩け。あれこそ無用の長物だ。できるならまず財務省にジャベリン撃ち込んでやりたいよ。いや、ジャベリンでは生ぬるい、5,000ポンドJDAMが良い。

戦車のこれから

 戦車がこれからの戦場から消える事は無いだろう。無人化される可能性こそ高いものの、地上戦力で戦車以上に強力なものは無い。破壊されづらく、かつ相手の兵器を破壊出来る兵器を突き詰めて行った結果が現代の主力戦車なのであって、その真価が揺らぐ事はない。もちろん無人化によってその形態や配備の割合が変わる事はあるだろうが、それでも無くなる事はない。

 全ての戦車が無人化されるかと言われるとそれも無いと思う。ある地域を実効支配するという事は、どのような形であれ「人を入れる」という事である。それが兵士であれ何であれ、支配しようとする地域に人を入れなければ支配は完了しない。逆に言えばどのような形であっても戦場には人を送らなければならず、そこでは必然的に有人兵器が必要になる。であれば、攻撃・防御で地上最強の陸戦力に人を乗せない選択肢は無い。

 空の支配が必要なのは大前提として、その上でこれからの陸戦力を具体的に考えるならば中核に有人の戦車・兵員輸送車等があり、それに先んじて敵兵器を撃破する無人戦車・装甲車が来るべきだろう。将来の戦争は核兵器の使用が無い限り、陸海空問わず無人兵器同士による前哨戦でほぼ決着がつくと私は予測する。それに備えるならば、日本は自国の防衛に特化した無人兵器の開発を進めるべきだ。レールガンだのマイクロウェーブだのと一周遅れでアメリカのマネをしている場合ではない。それとも我が国は、無人機を開発できる能力すら失いつつあるのだろうか。まあ、装甲車開発から国内企業が撤退していたりするしな・・・。

「戦車不要論」はゲームで良いから戦車に出くわした時の絶望感を味わってから言え。それで100%勝てるなら続けて良いぞ。