ヤマネコ目線

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日本は型落ち兵器を買わされているのか

 X (旧:Twitter)にて、ひろゆき こと西村博之氏の投稿に総ツッコミが入っていた。別に日本政府の予算の使い方を批判するのは一向に構わないが、特に引っかかったのは「日本政府はF-22を売ってもらえなかったから型落ちのF-35を買わされた」とか、「トマホークのような型落ち兵器を買わされた」とかそういった、とにかく日本がアメリカから型落ちの兵器をボッタクリ価格で買わされたかのような言い回し。語弊があるというか、素人の思い込みでしかない。

F-22よりもF-35のが新しい

 まずF-22を売ってもらえなかったから型落ちのF-35を買わされた」、というのは間違い。あたかも「他の国は購入出来ているのに日本だけは売ってもらえなかった」かのような言い回しだが、F-22はそもそもアメリカ国外に販売された事が無い。運用しているのはアメリカだけ。イスラエルへの販売の話がちらっとあったが、ステルス技術の漏出を恐れて議会がストップをかけている。

 そして「型落ちのF-35」というのも間違いで、航空機は一般的に数字が大きいほど新しい機種。F-22よりもF-35の方が新しい。F-22が初飛行したのは1997年、その実験機であるYF-22にいたっては1990年と実に33年も前になる。かたやF-35は初飛行がA型、B型、C型によって異なるものの、いずれも2006年以降である。実験機であるX-35の初飛行は2000年なので実際の配備までは少々時間が空いているが、何にせよ「F-35は型落ち」というのは誤った認識である。

 次に「F-22を売ってもらえなかったからF-35を」という言い回しも誤り。素人目には戦闘機などどれも戦闘機に変わり無いかも知れないが、F-22F-35では戦闘機の枠の中でも設計・運用思想が違う。ではどう違うのか写真を見ながら簡単に説明しておこう。

F-22量産型1号機:Wikipediaより

 F-22アメリカ空軍が空を支配するために作られている。言ってみれば空戦特化型。代わりに対地攻撃性能は低い。スリムな分、搭載できるミサイルや爆弾の大きさや数が限られている。

 また、前述したように運用しているのはアメリカだけ。アメリカ空軍が空軍最強であり続けるために作られた機種と言える。

F-35 Wikipediaより

 かたやF-35。兵器を搭載できるスペースを増やすために機体を大型化させた結果、F-22よりもずんぐりした体型をしている。爆弾やミサイルはレーダーに引っかかりやすいので、機体内部に収納しなければステルス性を保つことが出来ない。逆に言えば多くの兵器、大型の兵器を搭載しようとすればするほど”ガワ”が膨らんでずんぐりしてしまう。

 F-22が空戦特化型なのに対し、F-35はマルチロール機。空対空戦闘、対地攻撃などさまざまな任務をF-35の1機種だけでやってしまおう、という思想のもとで作られている。さすがに欲張りセットにも程があると言うか、完全に1機種に統一できずにF-35の中でもA型、B型、C型の3種類があるという素人目にはすごく紛らわしいことになっている。

 運用などの面でもF-22とは違い開発・製造・運用それぞれで複数の国が関わっており、日本も製造の一部と自衛隊での運用を行っている。

 以上のことから、「F-22を売ってもらえなかったから型落ちのF-35を買わされた」という表現は明らかに誤った表現である。そもそも同じ性質のものでも無ければ、型落ちなわけでも無い。名目上は「戦闘機」に違い無いが、出来ることが違う。

 型落ちという表現に「F-35自体が世界的に見て古い機種である」という意味が込められている可能性もあるが、2023年現在で配備されている戦闘機の中でF-35は決して型落ちとは言えないだろう。それよりも新しく、量産配備されている有人戦闘機があれば逆に教えて欲しいくらいだ。中国の戦闘機ならあるのかも知れないが、そんなの日本が買えるわけも無いので論外。

トマホークは確かに古い兵器ではあるが

 ひろゆき氏はトマホークについても型落ち兵器と批判している。確かにトマホークの初代が実戦配備されたのは1984年、実に40年ほど前になる。ただし日本が購入する予定の機種はそこから改良に改良を重ねられて来たブロック5と呼ばれるモデル。決して40年前の水準の古い兵器ではない。

 兵器は1つの種類の中でも、実際に運用される中でどんどん改良されて来るものである。車で言えばマイナーチェンジをし続ける感じ。たとえば戦闘機でも製造された時期によってブロック~と少しずつ違いがある。第二次世界大戦のドイツ軍戦車だってA型から始まってJ型まであったりする。トマホークミサイルが登場してから40年経った今、技術の進歩から考えればフルモデルチェンジされていると言って差し支えない。運用目的・体制が変わっている。

 「速度の遅い巡航ミサイルそのものが時代遅れ」という意見ならまだ理解できるが、極超音速巡航ミサイルを配備するまでの”繋ぎ”くらいにはなるだろう。日本政府は国産ミサイルを長射程化して巡航ミサイルにしようとしているようだが、それでも40年前のトマホークミサイルの射程に及ばない。自国で開発もままならない、してこなかった、今使えるトマホークよりも有用なミサイルが無い以上、トマホークミサイルを配備することは悪い選択肢では無い。速度は確かに遅いとは言え撃墜するのだってコストは掛かるわけで、トランプ元大統領がシリアに59発撃ち込んだように飽和攻撃に使うという手もある。

 「じゃあトマホークミサイル以上のミサイルを国産で開発しよう」と言うと開発にも配備にも信じられないくらいお金がかかるし、トマホークミサイルに関するネガティブキャンペーンをしている連中はそれにも反対するのだろう。お話にならない。

 型落ちを買わされるのが嫌なら自国でちゃんと開発すべき。高いのが嫌なら輸出を解禁して量産して単価を下げるべき。国民がそれを嫌だ嫌だと言うならアメリカから言い値で買うしかない。どちらも嫌は通用しない。

 むしろ先日、報道があったように防衛省の最高機密が中国人民解放軍にまんまと抜かれるような国、兵器を売ってもらえるだけでもありがたいレベル。自分がアメリカの立場だったら日本にF-35だのトマホークだの、売りたく無い。もっとも、戦後の話でいえば日本が独自に戦闘機を開発するのをアメリカが圧力をかけてやめさせて来た経緯があるので、その辺はF-35くらい売ってもらわないと、という点もあるが。

武器・兵器は型落ちかどうかで有用性を量れない

 ひろゆき氏を始め一部のネガティブキャンペーンでしきりに言われる「型落ち」という文句だが、戦争はそうしたカタログスペックだけで決着がつくわけでも無い。さすがに古すぎるのは考えものだが、運用コストや体制、目的などを考えれば古い兵器でも十分に活躍の場はある。

trafficnews.jp

 たとえばこれは2018年の記事だが、現代にレシプロ戦闘機など素人目に見れば明らかに時代遅れで何になるの?という感じだろう。が、最新鋭ステルス戦闘機は運用に非常に金がかかる。今年、アメリカが中国の偵察気球を撃墜したニュースがあったが、ちょっとF-22を飛ばして気球を落とすだけで使用された費用はおそらく億を超える。

 そんな金がかかって仕方ない戦闘機をちょっとした任務で飛ばしていては財布が持たないし、貧乏な国は戦闘機を買うこと自体が不可能。なので使う目的や場所によっては重宝される。一般人の感覚での古い、新しい、使えそうかどうかなどでは量り切れない部分があることも理解すべき。

 ほかに具体例を出せば今、ウクライナへ供与されているドイツ軍の主力戦車レオパルト2A6は初期型の開発が1970年代。レオパルト2A6への改修でも2001年~と実に20年以上前になる。同じくイギリスのチャレンジャー2戦車は開発が1986年、生産開始が1993年。ウクライナへ供与されたアメリカ軍のM2ブラッドレー歩兵戦闘車に至っては初期型の量産開始が1982年である。一般的な感覚で見れば戦場は古い兵器だらけ。

 特に銃はシンプルな分、完成された設計のものは長く使われる傾向にある。有名所で言えばM2ブローニング重機関銃は制式採用が1933年と実に90年前。ドイツ軍が採用しているMG3は制式採用こそ戦後だが、第二次世界大戦中に開発されたMG42がベースとなっている。MG42の量産開始は1942年なのでこちらもなかなかなお歳。

余談:F-35に複座型は無い

 一部の陰謀論者の脳内では「自衛隊の運用するF-35が4機も墜落して7名のパイロットが亡くなっている。欠陥機だ!」、という話が流れているらしいが、そもそもF-35は1人乗りなので4機落ちて7人のパイロットが死ぬことはありえ無い。1人乗りの戦闘機を単座型、2人以上乗りのものを複座型と呼ぶが、F-35に複座型は無い。陰謀論者は「いや、ある!あるのを知らないだけ!」と言うらしいが、じゃあ写真でも出してくれないかなと思う。あったらあったで面白い。教習用としてはあるのかも知れないが、今どきは訓練をシミュレーターでやるのと、教習用ばかり少なくとも3機が墜落することは考えづらい。

 なお、今まで墜落しているのは青森での1機なので4機墜ちているというのがそもそもの誤り。1機墜ちてるのかぁ・・・。

www.nhk.or.jp

 F-35が型落ちだの7人死んでるだのの無知の妄言はともかくとして、F-35にケチつけるとすれば稼働率の低さだと思うけどね。大急ぎで改善してるだろうけども。

trafficnews.jp

 あと型落ち批判するとしたらAAV7へのそれはまだ正当性があると思う。自国で開発できないから仕方ないと言われればそれまでだけども。EFVが中止されたのがいけないんじゃ、アメリカ議会が米軍最大にして最強の敵なんじゃ。分かる人は分かる。