日本維新の会が打ち出した医療制度改革が話題だったのでネタにする。
(記事題:維新・高齢者の医療費の窓口負担 現役世代と同じ「原則3割に」医療制度改革案を発表 診療報酬の変動制導入など)
この医療制度改革は罠
現役世代に重い負担としてのしかかっている社会保険料、これを少しでも減らそうと言うのは理解できるし、そのために高齢者にも3割負担を求めるというのは一見支持しても良いような内容に思う。が、維新の打ち出した医療改革はそれだけではない。フリップが見づらいので拡大したものを以下に示す。
1は現役世代にも支持する声がある訳だがお年寄りが皆、金持ちな訳ではない。世代間対立を煽られている感じもする。1割負担だからと不必要に病院を受診してもらった薬を配っているような輩は排除すべきだと思うが、お金を稼ぐことが出来なくなった後の保障を薄くすればその報いは必ず後で受けることになる。
一番問題だと思うのは2の「高額療養費制度の見直し」。見直しとあるが縮小・廃止に向けて動くであろうことは間違い無い。
高額療養費制度について簡単に説明すると医療費の自己負担は3割が基本だが、治療費があまりに高額になった際には3割といえど支払う金額は大きくなる。そこで自己負担すべき金額の上限を所得にもとづいて設定し、1月あたり一定額を超えた分を健康保険から支給する制度。大きな病気にかかって治療費が高額になってしまっても負担を大きく軽減できる。
その高額療養費制度を見直す=縮小・廃止する事は将来の健康に対する不安の増大に直結する。アメリカほど極端でないにせよ、今よりも医療費で人生が詰む事例は増えるだろう。社会保険料の負担が大きいのは事実だが、だからと言ってこうした部分を削るのは金のために命を削るに等しい。
高額療養費制度を廃止する代わり?として4で「低所得者等医療費還付制度の創設」を挙げているが、ここで言う「低所得者等」とは一体どのような層を想定しているのか。まったくの未知数であることに加え、先程も書いたようにそもそも高額療養費制度における月額負担限度額は所得に応じて決まるので、わざわざ現行制度を廃止して低所得者限定の医療費還付制度を新たに設ける意味が分からない。この辺り、どうせ維新のことなので既存の制度を破壊し、維新と懇意の企業に業務委託した制度再構築のための改革なのだろう。
3の「終末期医療の在り方」については議論の余地があると思う(尊厳死等)一方で、「高額療養費制度の見直し」と「低所得者等医療費還付制度の創設」の間にわざわざ関連性の低い項目を挟むあたりが何かいやらしい。考え過ぎだろうか。
5の「後期高齢者医療制度の税財源化」は現役世代からの支援金を廃止して現在1割負担のところを3割負担とし、保険としてではなく税財源による構造へ移行させるとのこと。内容としては1「高齢者医療制度の原則3割負担化」と被る点があるが、高齢者医療制度は前期高齢者医療制度と後期高齢者医療制度2つの総称なので適用範囲は狭い。
とはいえ税財源化すると言うことは結局、その負担は現役世代にかかってくるのではないか。健康保険の枠組みから出した所で財源が保険料か税金かの違いでしか無い、お金が取られることに変わり無いなら意味が無い。何のための改革なのかがイマイチ見えて来ない。
6の「こども医療制度の創設と出産費用の無償化」もなかなか臭うものがある。健康保険には扶養制度があり、小学校入学前の子における自己負担額は2割である。わざわざ子供向けに新たな医療制度を設け、運用し、そのための財源を取る必要は無い。出産費用についてはどのような形で無償化されるのかが非常に気にかかる。無償化とは言い換えれば税金化である。無償化のための財源をどのように確保し、どのように病院へ支払うのか。出産にかかる費用のどこからどこまでが対象となって適切な費用の算出がなされるのか。医療業界への利益誘導にならないか非常に疑わしい。
少子化対策の一環として、という面もあるのだろうがやはりやる事が自民党と大差ない。結局は結婚して子供が生まれることが大前提の少子化対策でしかなく、それでは少子化対策にはなり得ない。
そもそもの話として
健康保険は別に多少取られても構わないと私は思っている。それで大いに助かることも多いからだ。下手に手を入れる必要性は感じない。せいぜい高所得の高齢者に3負担くらいして欲しい程度。健康保険制度の破壊を目論む政党を許すことは出来ない。むしろ私が許せないのは厚生年金保険料で、健康保険料よりも負担が大きい上に払い損と言われている。
以前にも触れたが、これは協会けんぽの保険料額表。右の赤枠で囲った部分で厚生年金保険料の等級が途切れている。これがいつまで経っても意味分からん。健康保険とせめて等級をそろえろ。というか健康保険も厚生年金保険も報酬月額1,355,000円以上で頭打ちになるのはおかしいだろ。はるかに貰ってる奴に相応の保険料を払わせるべきだ。
維新はやっぱり維新
以前、奈良県の広域防災拠点計画が維新系知事によって潰された話について書いた。ひとたび実権を握らせればこのように好き勝手なことをして、強引に自分たちが思うように事を進めるのが「良い改革」だと思っている。
改革にはパワーが必要だし、時にそういった強権的な指導者でうまくいく場合もあるにはあるのだろうが、維新についてはそうは思えない。彼らは無駄を削るフリをして必要な部分を削り、本当に削るべき無駄はそのまま、あるいはさらに無駄な歳出を拡大させる。無駄ではなく我々の足元を、命を削りに来る。少なくとも私にはそう見える。大阪万博なんか見てもそれは明らかだ。彼らは自民党と一体何が違う。むしろ自民党より悪いまである。
元はと言えば橋下徹氏が自民党維新の会を引き連れて独立した政党、そのカリスマももう政界から引退し、ワイドショーで失言を繰り返しながら未練たらしく下手な政治への口出しを続けている。奈良県では維新の山下知事が各地で進められていた事業を自治体との対話なく一方的に中止しようとして大きな反発を生んでいる。彼らは自民党に代わる政権与党にはなり得ないし、なるべきともなる見込みも無い。
余談:強権的な指導者
フィリピンの前大統領、ドゥテルテ氏は強権的な政治手腕でうまく行った稀有な例といえる。中国系の血が入っており、中国への擦り寄りなどマイナスの面もあったにせよ、麻薬や汚職に対する極めて強い姿勢は国内の治安を回復させ、未だ根強い支持がある。
改めて調べていて氏の逸話があまりに苛烈で面白いので少し紹介したい。良い内容ばかりでは無いが。
- 10代で喧嘩に明け暮れ、16歳で相手を刺殺(本人談)
- 大学生時代に少数民族の出自をからかわれ、大学の廊下で相手に対して発砲
- 市長時代に警察官に手本を示すため自らパトロールし犯罪者を殺害
- 大統領に選ばれる前年のクリスマスにビデオメッセージで「犯罪者たちよ、これがお前たち最後のメリークリスマスだ」と発信
- 大統領になった直後から麻薬密売人や強盗などの犯罪者に対し、事実上人権を無視して対応にあたることを宣言・実行(フィリピン麻薬戦争)
- 麻薬王の1人に面会し、面と向かって「処刑するよ・・・?始末するよ・・・?」「殺すぞ」と威圧
- 汚職の疑いで捜査を受けている警官102人を宮殿(日本でいう首相官邸)に呼びつけて「犯罪行為を続けるなら殺害する」と威圧
- 息子の麻薬密輸関与疑惑に関して息子だろうと麻薬に関与するなら殺害も構わない旨を表明し、息子に対しても麻薬が理由で殺害された場合は殺害した警察官を守ると警告
- オバマ元米大統領を「売春婦の息子」と侮辱
などなど。大抵の指導者は映画1本取れるレベルだがドゥテルテ氏は3部作くらい作れそうなキャラの濃さ。これくらい強い指導者が出て来ないものか・・・しかしそれで上手くいくとは限らないか。