ヤマネコ目線

大体独り言、たまに写真その他、レビュー等

国が書店を税金で支援する件

 経済産業省から書店を支援しようというプロジェクトが出てきている。記事や報道では比較的肯定的というか、書店に通う人たちを映すなどして同情を誘うような内容だが、私はこれが許せない。

news.yahoo.co.jp

(記事題:20年で店は“半減”――消えゆく書店を「国が支援」へナゼ 「税金投入は無駄」…ネットでは厳しい声も 書店の魅力と将来は?)

市場の流れに逆らっている

 確かに本を読むのは大事だろうし、若者の活字離れを止めたいという気持ちは分からなくもない。一方で本を買うのも読むのも今は書店でなくても出来る。そもそも知識を得るのに書籍という形態にこだわる時代でもない。書店が減っているのは町の小さな書店という業態が時代に即したものではなくなったからであり、それは言い方が厳しいが自然淘汰というものだ。

 そこであえて税金を投入して支援しようと、それもイオンの台頭によって全国の商店街がシャッター街と化した今さら言い出すあたりに、何か良くない金の動きを感じざるを得ない。また助成金事業か何かを立ち上げてその業務委託で中抜きさせるのだろう。

 で、どうして書店だけなのか。ならばほかの傾いた業界も片っ端から公費を投入して支援しなければ筋が通らないではないか。こんな事をやっているからいくら税金を取っても取っても足りなくなるのだ。ふざけた使い道をするなら減税をしろ。本当に、心底アタマに来る。

 それだけでなく、書店の中でも他の業種と手を組んで存続のための企業努力をして来た企業もあるだろう。その経営努力による差を税金投入によって簡単に埋めてしまうような政策を、よりによって経済産業省が企てていることにも怒りを感じる。政治家だけでなく勉強ができるだけの官僚も問題だ。官僚は組織内での出世のために国益を犠牲にしている。

守るべきものは書店ではない

 活字離れ、書籍離れの問題は本に対する物理的、心理的な距離の問題であって、そこで潰れることが必定の書店を税金で延命したからと言って本を読む人が増える訳ではない。こうした問題の根底として行き着く先は大抵が低迷し続ける経済である。人々に経済的な余裕が戻って来なければ、活字はもちろんのことあらゆる文化的な運動の衰退は解消しない。

 本を読むためにはそれなりに時間もかかるしお金も要る。場所も取る。実店舗であればそこへ足を運ぶこと自体がコストだ。大げさだと思うかも知れないが若い世代はこの程度のコスト計算は当然する。一方で可処分所得は減り続けており、節約節約と育てられた世代にはそれらのコストを許容すること自体が難しい。

 守るべきは書店などではなく国民の家計である。経済的な余裕が無ければいくら書店が残っていても、たまには本を買ってみようかとすら思わない。経済的な余裕の無さは精神的な余裕の無さにも繋がる。2時間の映画ですら座って観るのが苦痛という人間が出てくる社会、誰がじっくり読書で想像を巡らせるだろう。文化的とされる事がどういうものか頭で理解はしていても、それに手を出せるかはまた別問題なのだ。

情報を得る手段として

 断っておくが書店に恨みがあるとか本が嫌いだとか、そういう思いは無い。それはそれで良さがあると理解している。しかし書籍、本というのはあくまで情報媒体の1形態であって、書店はそれを扱う小売店というだけの話。それらをことさら特別視するべきとも思わないし、情報を得る手段としてこだわる必要は無いだろう。信頼性の面においてもKindleで実在の書籍が買えるし、どうしても物質的な書籍が欲しいならAmazonで紙の本を買えば良い。

 ネットの情報は情報を取捨選択できなければいけないが、若い世代にはそれが出来るしむしろそれに特化している。ネット検索で情報を見つけ出す速度が違う。信頼性が低い情報を掴まされる場合もあるがそれは情報ソースを確認・考慮しない人間が悪い。その辺は書籍も同じ。書籍も馬鹿げたことを書いているものなんてごまんとある。

 どうしても「書店」という業態にこだわるのであれば、それはそれで有志が支えれば良い話。国が税金突っ込んでまでやる事ではない。

 私自身もそう言われれば技術書以外はあまり読まない。たまに読むとしても名作はネットで無料で読めたりするのでわざわざ買わないし書店にも行かない。著者の意見が強い書籍を読むとその人の意見を自分の意見としてしまいそうな上に、安易に受け売りしてしまいそうで怖い。自己嫌悪を感じる。文学作品は単純に読むのに時間がかかり過ぎる。小説の方がアニメでは伝わらない「この登場人物はこのシーンでこんな心境だったんだ」、といった事が分かるのでより深い理解には繋がる訳だが、時間を割く以上はまず他のメディアでよほど好きにならない限り難しい。

 今の子供は思っているより多く本を読むらしく、20代以上の方があまり読まないとか。そりゃそうだ、大人になってからの方が自由な時間は少ないし、使えるお金を別のところに使おうとする。子供なら時間はたくさんあるし親によってはいろいろ買い与えるだろう。恵まれたご家庭の親なら子供が生まれた時点で文化資本を持っている可能性が高い。

 裏を返せば今は年齢的に大人とされる層に余裕が無さ過ぎる。どいつもこいつもカネかね金。転売ヤー、強盗、立ちんぼ、投資詐欺、アフィリエイトYouTube収益化。最近だと株式投資が熱いか?文化的活動どころの話ではない。金を稼ぐのと目先の娯楽を消費するので精一杯。

 活字が今の世の中で受け入れられないのは決して活字が時代遅れだからとか、若者が活字の良さを理解できないからなどではない。ただそれにかかるコストを支払えないだけ。無い袖は振れん。

余談:万博記念硬貨がヤバい

 まったく関係ない話だが単一で記事にするには弱いので。

news.yahoo.co.jp

(記事題:大阪・関西万博へ向けて 「ミャクミャク」刻まれた記念硬貨の製造スタート 自動運転バスの実験も)

 驚くべきはこの記念銀貨(千円銀貨)の値段。5万枚発行されて1枚 13,800円*1で販売されるという。一体誰がどれだけ買うのか知らないがなかなか良い商売をしている。

www.expo2025.or.jp

 公式サイトによれば純銀製で重さ約31.1g。現在の銀の価格は買い取り/販売価格の平均を取ると126円/g程度なので、時価換算で約3,900円。額面よりも銀としての時価の方が4倍くらい高いが、売値は銀としての価値の約3.5倍。

 愛・地球博の記念500円硬貨は現時点で1,000円未満くらい、1964年東京オリンピック記念1000円銀貨でも4,400円程度でそこそこキレイなものが買える。将来この銀貨がどのような価値とみなされるか。大阪万博への評価も楽しみだなあ(笑)。

 

*1:消費税・送料込み