ヤマネコ目線

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核抑止論は破綻したのか

 ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、一部から「核兵器による抑止力の論理は破綻した」という言説が聴こえてきた。本当にそれは破綻したのだろうか。

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前提条件を忘れるな

 核兵器による抑止力の論理は、その前提に「互いが核保有(あるいはその同盟国)であること」がある。その点、ウクライナは1994年にブダペスト覚書によって核戦力を放棄させられており、ロシアによるウクライナ侵攻をもってして「核抑止力の論理が破綻した」というのは無理がある。意図して前提条件を無視しているのであれば、それは詭弁に他ならない。

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 第二次世界大戦後から冷戦時代を経て今までの世界を見れば、そうした前提条件に当てはまらない場所で戦火が上がっていることが分かる。主だったものを挙げれば

など。いずれも核戦力を保有した国同士の戦争では無い。代理戦争という形こそあるが、核戦力を保有した国同士の直接的な衝突は避けられてきたと言える。

 なお、イラク戦争で問題となった「大量破壊兵器」は核兵器ではなく化学兵器である。大量破壊兵器核兵器化学兵器生物兵器の3種。それぞれの頭文字をとってNBC兵器*1などとも言われる。軍用車両などのNBC防護はそれらの兵器に対する防護性能のこと。

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 自衛隊もそうした脅威に対抗した車両を保有している。残念ながら、我が国は世界で初めての地下鉄における化学兵器テロ事件が発生した国でもある。

これからの核抑止の論理

 何も考えずにただぼんやりした日本人的な平和観から、核抑止論を否定することを良しとは思わない。とはいえ、米中対立を見ていると核兵器による抑止の論理に限界を感じざるを得ないことも事実。結局、人類は争いをせずには居られないのだなと感じる。習近平がどこまでのことを考えているのか知らないが、ああいった独裁者には合理性やそれに基づいた判断が期待できない。歴史上の多くの暴君はそれを欠いて自滅して来た訳で、米中による核戦力を行使した武力衝突が起きる可能性も否定できない。

 一方ロシアは今のところ、世界からの非難を恐れてか報復を恐れてか戦術核の使用も行っていない。ひとたび核兵器を使えば世界全体が敵に回る、という恐怖から核兵器は実質的に使えない兵器とも取れ、それが核による抑止力の破綻を意味しているのなら、破綻論も分からなくはない。そうなれば結局、核兵器はあくまで後ろ盾として通常戦力で殴り合いを始めることになるのだろう。

 では日本としては何をするべきか。いずれ来てしまう戦争に備えて通常戦力を整えておくしかない。「核による抑止力の破綻」は、核という恐怖に抑圧されて戦争が抑制された状態が破綻するということ。通常戦力による武力衝突などいくらでも起こる世界へ逆戻りする。先に挙げたようにこれまでも代理戦争という形での武力衝突はあった訳で、特に核兵器の無い場所/国が戦場となる。日本とて例外ではない。

 とは言え、いくら日本が頑張って通常戦力を揃えようとしても数では中国に敵わない。いずれ質でも負けそうなレベルである。白人国家でもキリスト教国家でも無いので、いざという時にウクライナのような手厚い支援が期待できるかも怪しい。政府は防衛増税だと抜かしているが、現実はまず経済を良くしなければいずれ守る国が無くなるレベル。国産兵器の価格の高さも何とかしなければいけない。

 前々から書いているがその点、安全保障では国内の米軍基地に核戦力を配備してもらうのがもっとも効果的であると考える。米軍基地内であれば日本にして日本にあらずと政治ロジック的に非核三原則を回避しつつ、日本を実質的な核保有国もどきにすれば通常戦力増強とはレベルの違う抑止力が得られる。もっとも国民の賛同を得られるかどうかがまず問題であり、中国からすれば中国版キューバ危機ともなりえる訳だが。しかして習近平の暴走を止めるにはそれくらいしないと効果が無いだろう。

 核戦力はただ保有するだけでなく、その後ろ盾としての在り方を今一度見直す必要がある。抑止力が抑止力たり得るための配備、運用体制が重要だ。

 唯一の被爆国として~というお気持ち論理も分からなくは無いが、一方で戦後、アメリカの核戦力の傘の下で具体的な平和像を抱くこともなく、中国の脅威がここまでなるまでぼけっとしていた国はどこか。国民は誰か。いい加減に現実を直視すべき時。出遅れた時間は取り戻せない。そのツケをどう支払うか考えなければならない。



*1:Nuclear, Bio, Chemical