ヤマネコ目線

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脱退一時金が外国人特権とか笑わせんな

 デイリー新潮が年金制度における脱退一時金について、「外国人だけ年金を定期預金のように解約可能な制度になっている」、と誤った認識とヘイトを広めるような書き方で報じている。

www.dailyshincho.jp

バカ言うんじゃねえよ

 まず書いておくが脱退一時金はそれまでに払った年金保険料が全額返って来る訳では無い(試算は後述)。残念ながら年金を”解約”しても外国人にとっては払い損であるし、当然ながら脱退一時金として還付を受けた分の年金については受給資格を失う。

 そもそもこの制度、日本で数年間働いてから帰国する外国人に対して金保険料の掛け捨てを救済するための措置である。外国人が年金を”解約”することが許されているのは彼らが母国へ帰るからであって、それを「外国人にだけ認められた特権」と言うのは語弊がある。勘違いも甚だしいというか悪意をもってヘイト誘導しているとさえ感じる。

 日本で日本人と同じ仕事、何なら最低賃金で働いて、その中からキッチリ社会保険料も税金も支払って、帰国してから将来受け取らない分の年金をいくらか返してもらうことの一体何が悪いのか。デイリー新潮のような媒体は低俗であることが分かり切っているが流石に頭に来た。

 脱退一時金の制度は救済措置でもあるが、見方を変えればこれまでに日本に来た外国人労働者、何万、何十万、何百万人に払い損を強いて来た制度でもある。帰ってもらう前提であれば最初から年金を徴収しないのが筋だろ。特権も何もそもそも強制徴収してるのがおかしいんだよ。せめて選択式にすれば良かったのにそうでもないし。

記事の内容について

 記事には脱退一時金の計算過程として「月の給料が28万円で30万円の賞与を年2回受け取っていたと仮定すると」などとあるが、技能実習生をはじめ外国人労働者の給与がこの水準だと思うのだろうか。外国人労働者に賞与まで出している企業はどれだけあるのだろう。

 脱退一時金の額を少しでも大きく見せるためにこの数値なのだろうが、人件費を削るために外国人を雇っていることを忘れたのか。そしてこれだけ稼いでいたとしてもそれに応じた保険料を支払い、帰国した後でその一部を返してもらうことの何が悪いのか。

 「出国したかどうかを行政がきっちり確認していない」という点が指摘されているがこれは一理ある。自治体からの転出届をもって帰国と判定している訳だが、虚偽の届け出をして実は隣町に引っ越していました、という場合は追跡できない。出国前でも脱退一時金の申請は可能なので、国内にいながら脱退一時金を受け取ることは可能。

 しかし監理団体や企業の目を盗んで帰らずに一時金申請は難しいのではないか。普通は出国まで面倒見るのが仕事。実習期間が終わると企業は転出や社会保険の資格喪失手続きをし、航空券も取って荷物をまとめさせ、空港まで送っていく。少なくとも弊社はそうだ。出国ゲートまで見送るのでそこから帰らず密かに国内に戻る、というのは難しい。母国の送り出し機関も帰国した筈なのに帰国していないとなれば問題視しそうなもの。

 もし帰国したフリをして国内にとどまったとて、在留資格は何になるのか。というかマイナンバーで追跡だの何だのと言う前に出国確認をしっかりするべき。それをして来なかった、出来ないと言うのは行政の怠慢。

 記事の最後では、帰国せずに年金の還付を受け続けた外国人が高齢化すれば年金も働く能力もなくなるので将来的に生活保護を受給する外国人が増えるのではないかという危惧が提示されている。

 ただし、この想定がどこまで現実的かは怪しい。関係各所にバレずに都度、帰国したフリをしながら申請できるかどうかがまず課題。もしそれが無理でも彼らは子孫を残す。子や孫に助けてもらえるのでその心配は薄い。日本人が心配するべきは自分の人生。結婚できますか?子孫は残せそうですか?私は諦めました。

 なお、永住者や難民認定者など定住性のある在留資格であれば生活保護の受給は正当な権利である。逆に生活保護受給中の永住権申請は不可。何にせよ、歪な労働環境を維持するために外国人労働者に頼って来たツケは何らかの形でいつか払う日が来る。それが外国人に対する生活保護であってもそれは我々の自業自得。気に食わないなら政治を変えろ。変えられないなら受け入れるしかない。

脱退一時金の試算

 バカな基準での試算は無意味なので改めて試算しておく。最低賃金社会保険料は過去まで遡るのは面倒なので今のものを使用。

 まず最低賃金の中央値が934円程度なので、ざっくり940円として計算しよう。1日8時間労働で月の労働日数が平均して22日とすると、

 これが外国人労働者というか、技能実習生の賃金の一般的なラインだと思う。手当類も無いだろうから、これが総支給額とすると厚生年金保険料は15,555円*1

 この額面から厚生年金保険料だけでこれだけ取るのマジでクソだなと思うのは一旦置いて、これを技能実習の5年間*2払い続けたとしよう。そうすると払った保険料の総額は

 さて、これを脱退一時金の計算式(下図)にあてはめるとする。

 平均標準報酬月額は165,440。支給率は下図から被保険者でった期間に応じた数字を使用する。

 今回の場合、5年で仮定しているので60月以上→5.5が支給率。

https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042803.html

 いずれも上記URLより。これを計算すると

 これが脱退一時金(額面)。支払った保険料全体との比率で言えば約97%と思ったよりは返って来ている。が、ここから更に所得税として20.42%が差し引かれる。

 所得税が差し引かれた後の金額は太枠の中。支払った総額に対して見ると約77%。そもそも課税外の保険料を返すのに所得税かけるって何だよと思うのだが。それも20%も。クソだよなあ日本政府って。

 さて、お気づきの人はお気づきの通りだが、この計算に使用する支給率は上の表によれば60月で打ち止め=5.5固定である。と言うことは、5年を超えて厚生年金保険料を払えば払うほど払い損が拡大するとも言える。返ってくる年数に上限があるのだ。

 少々乱暴だが先ほどの内容で10年在留し、帰国して脱退一時金を受け取ると仮定しよう。すると上図のように半分も返って来ない。払わせた保険料の一部を返さずに年金制度の財源にし、ちゃっかり所得税までぶん取っていくスタイル。外国人の特権が何だって?

 これを年金制度の穴と言うのなら他にも酷い箇所は沢山ある。年金制度そのものがクソ。私は日本人だが払い損世代なので解約できるものなら解約したい。させてくれ。

余談:外国人は増えやすい

 同じ日本国内に住んでいても、日本人より外国人の方がどんどん増える。それは彼らの地元よりは生活水準が高いというのもあるが、それよりも日本国内における外国人の中で格差が少ないことが理由として考えられる。

 たとえば日本国内で働くベトナム人。多少、賃金格差はあれど日本人の中の格差ほどは酷くない。難のある言い方になるが、賃金面では日本国内のどのベトナム人と結婚してもそう大差は無い。逆に言えば賃金格差を気にせず相手が好きになれるかどうかだけで決めても良い。恋愛が非常にしやすい。下らないマウントのことで頭がいっぱいになる事もない。

 彼らは価値観として「これくらいなら結婚、子育てしても良いかな」という基準を満たしやすく、同じ日本に住んでいても日本人よりも恋愛・結婚・子育てが容易である。もちろん、それらに求める将来設計の基準が日本人ほど高くないという面もあるが。

 また、外国人労働者は主にSNSを通じてコミュニティを形成しており、言葉の通じづらいこの国で同じ国から来た者同士の団結力は必然的に強くなる。近くの企業の実習生同士で付き合ったり、観光に行ったり、マッチングアプリではないが出会いの場もそれなりにある。

 デイリー新潮の記事では「帰国というくせもの」などと書いてあったが、帰国してもらわなければ外国人は日本人をずっと上回るペースで国内で増えていくだろう。いや、今まさに増えている。そうして外国人が増え続ければいずれ、政治的にも彼らの声を無視出来なくなる。

 自民党政権下では実質的な移民政策が着実に進んでおり、外国人参政権もいずれ認めざるを得ないような状況に追い込まれているのが現実。それを好ましく思わないのであれば、手遅れ感はあるが政治を変えて行かなければならない。政治を変えなければ少子化も含めて将来は暗い。

 日本政府に対する批判をするとすぐ「嫌なら出ていけ」などと言う人間もいるがそれは思考停止。嫌なこと、ダメなところを改善してより暮らしやすい国にすることが主権者たる国民の責務、幸福を追求する権利であり、それを放棄して”お上”の言うことに逆らわない、逆らえない、逆らう者は許さないような時代錯誤の帝國臣民こそこの国から出て行くべきである。

 

*1:協会けんぽ奈良県の料率の場合

*2:実習期間は1号で1年、2号で2年、3号で2年