三番煎じだが会社の人に訊かれたので改めて考えてみた。もし興味があるなら事前に使っている人の意見を聴いておくことをオススメする。なお、私が使ったことがあるのはFDM方式、一般人が想像する「樹脂を溶かして積み上げていく方式」のみ。光造形は面倒臭そうで買っていない。
ぶっちゃけた話
細かい事はさておき、実際に導入してどうなのよという話を先にする。正直言ってあんまり出番無い。出来るだけ委託サービス使った方が良い。
ホビーユースというか、たとえば3Dプリントでオリジナルのラジコン作りますとかフィギュア作りますとか言うなら導入する価値はあると思う。そうで無いなら、たとえばぴったりの容器を作りたいとか、生活をより便利にするものを印刷したいとか、副業に使えそうとか考えているのであればオススメしない。
何故か。必要なものは大体、世の中で製品化されているから。何も3Dプリンターで作らなくても大体のものはちょっと工夫すれば間に合うし、そうでなくとも大抵は1回きりのものが多い。そして意外と造形物に制約が多い。思ったものを作るには3Dモデルを作成できる能力はもちろん、3Dプリンターの特性を理解した上での設計が求められる。めんどい。
メリット
とは言え、メリットが全く無い訳でもないので先にメリットを書いておく。
- 大きいモノが比較的安価で印刷できる
- 設計から物体になるまでが速い
「2個だけ?」、はい、私が思うのはこの2点だけ。と言っても場合によっては大きいメリット。
まず1について。3Dプリントの委託サービスがあるのだが、大きい印刷物となれば印刷に時間はかかるし容積も取る=他の印刷物に割ける時間が無くなる。なので委託サービスで大きいものを印刷しようとするとかなり高価になる。材質にもよるが大きめのペン立てで10万円とかそんなレベル。バカバカしいくらい高い。家庭用3Dプリンター買えるじゃん、という値段。
この点、家庭用3Dプリンターでは1度導入してしまえば大きい印刷物も委託するよりは安く作ることが出来る。2万円台のプリンターと2,000円くらいのフィラメント+電気代くらい。使う頻度が多いなら10万円台のプリンターが欲しいところだが。
次に2、設計から実際にモノを手にするまでが速い。委託サービスは材質や大きさにもよるが委託してから手元に届くまで時間がかかる。速く届けてもらおうとすれば特急料金を取られるのでそこにお金がかかる。家庭用3Dプリンターであればそのタイムラグが無い。設計から物体になるまでが速いので試作を繰り返しやすい。
デメリット
次にデメリットは以下の通り
- 場所を取る
- 印刷可能な材質が限られる
- 寸法精度を出すのが難しい
- 綺麗に造形できない形状が存在する
- 室温管理などが面倒
- 印刷中は換気必須
- インクの保管や後処理などが面倒
- 造形物が熱や日光に弱い
まず1は当然と言えば当然なのだが結構な場所を取る。それも動かさない時間の方が長いので無駄に場所を取る。某氏曰く「動かしていない原発並に邪魔」。造形可能なサイズが大きい方が良いと思って大きいプリンターを買いがちなのでなおさら。
2は家庭で扱うゆえの難点。委託サービスで使われている業務用の3Dプリンターでは様々な材質が印刷できるが、家庭用の3Dプリンターでは扱える材質が限られる。FDM方式ならPLAが主流、次いでABS、TPUなど。光造形方式ではUVレジン液が使用される。家庭用では金属の3Dプリントなどは今のところ不可能。
3は特にFDM方式に言えること。光造形方式ならあまり気にする必要は無い。FDM方式は樹脂を溶かして積み上げていく方式だが、その精度は樹脂が出てくるノズルの口径に左右される。一般的な大きさは0.4mm。積層ピッチ*1は0.2mmが標準。ノズル径以下の精度は出ないと考えるべき。業務用の3Dプリンターは1,000万円クラスで印刷方式が根本的に違ったりする*2ので、寸法精度もより正確に出てくる。
FDM方式では樹脂を高温で溶かして積み上げるが、樹脂は冷めると収縮する。それによって造形物が反る、角が膨らむといった問題もある。印刷環境を工夫したり微調整が必要。
4は3と関連して特にFDM方式について言えること。たとえば円筒を2つ並べた印刷プレビュー(下図)を見て欲しい。

3Dモデルを水平方向にスライスしてどのように積層するかを決めるため、同じ円筒モデルでもこのように横にするか、縦にするかで断面が円として綺麗に出るかどうかが変わる。積層していく都合上、形状を工夫するか分割するなどしないと綺麗に印刷できない形状はどうしても出てくる。
5はFDM方式、光造形方式ともに言えることで、適した温度でなければ3Dプリントを行うことが出来ない。私の環境では冬、室温が低すぎるのでプリント出来ませんというエラーが出ることがあった。また、室温が低いと造形物が冷える速度も速いので反りの原因になったりする。
6は特に光造形方式に言えることだがFDM方式にも言える。FDM方式では樹脂を熱で溶かすので、その際に身体に良くない気体が発生する。毒性が著しい訳でも無いだろうが換気が必要。光造形はインクとしてUVレジン液も使うし、造形物を洗浄するために変性エタノールなどの洗浄剤(有機溶剤)を使用する。換気はもちろん必要ならば保護具を着用したい。
7についてはFDM方式と光造形方式で差異がある。FDM方式で使用されるインク=フィラメント、樹脂をワイヤー状にしたものは吸湿性があり、湿気を吸うと印刷精度に悪影響が出る。なので印刷しない時は湿気を吸わないよう乾燥剤とともに保管する、湿気を吸ったものは乾燥機で乾燥させるなど保管に手間がかかる。もちろん場所も取る。
光造形方式ではUVレジンや有機溶剤を扱うため、それらの化学物質を適切に取り扱う手間がかかる。シンクにそのまま捨てて良いようなものでは無い。処理方法は各自治体の指示に従うべき。加えて光造形は造形物を洗浄する必要がある。UVレジン液の中で造形するので造形直後、造形物は硬化していないUVレジンまみれ。それを洗い落とすために洗浄剤が必要。洗った後はまだ乾いていないUVレジンを再硬化させる工程も必要。造形精度が高いがこの辺りが面倒過ぎる。
インクの取扱いについてはFDM方式の方がまだ楽ではある。捨てるのも楽。
8は地味ながら考慮すべき点。委託サービスならば熱や光に強い材質も選ぶことが出来るが、家庭用3Dプリンターはそうもいかない。特に車の中で使うモノを印刷したいのであればこれが致命的。FDM方式で使用されるフィラメントは熱で溶かして造形される。裏を返せば熱に弱く、高温の車内に放置すれば柔らかくなって変形するおそれがある。光造形はUVレジンを使用するので紫外線に弱い。塗装すればマシとは思うが塗装が必要になる。耐熱温度はFDMのフィラメントよりは高いと思われる。
その他、意外?な点としてはPLAやABSなどの接着が面倒という点もある。造形が難しくて分割した場合はここが難点。一番良いと言われているのはアクリル用接着剤だが取扱いは注意すべきである。
これらのデメリットを押してでも導入するメリットを感じるのであれば導入すれば良いと思うし、そうではない、ただ作りたいものも漠然としていて興味がある程度ならば導入はおすすめしない。
YouTubeで「3d print」で検索して出てくるものを見ると、言い方は悪いがほぼ全部ゴミ。せいぜい下らないものを作って動画ネタにするというのが大半。ゴミ製造機になるなら買わない方がマシ。
ただ時たま本当に凄いものを作っている人はいるので、何かしら作りたいものがあるなら検討しても良い。特に電子工作とは相性◎。問題はその辺の技術力があるかどうかだが・・・。
副業として
3Dプリンターで儲けるみたいな話もあるようだが私は無理だと思う。先に述べたように世の中、大体のものは既製品で間に合っている。そこで3Dプリンターで印刷できる程度のもので儲けることは難しい。依頼を受けて代理で印刷するくらいなら可能だろうが、コンスタントに儲けることは難しいだろう。3Dプリンター自体が量産向きの制作器具では無い。
光造形でオリジナルフィギュアを作って売るとか言うなら話は別。そこまでスキルがあるなら成り立つ可能性はある(割に合うかは別として)。副業として何のスキルも無くというのはかなり厳しい。