ヤマネコ目線

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インボイス制度が始まって面倒臭くなったこと

 愚痴半分。インボイス制度が始まる前から手間が増えることは分かっていたが、それにしても余計な手間が増やされた。それについて実例を交えて書いておく。

何より面倒くさいこと

 何が適格請求書に該当するのかの確認、あらゆる取引先・サービスにおける適用状況の確認、例外処理、インボイス制度で新たに必要となった書類の発行、帳簿の入力方法など、地味だが日常的に繰り返し必要な動作に手間が増え、面倒になった。「それに対応するのが仕事」と言われればそれまでだが、誰だって自分の仕事に余計な手間を増やされるのは面白くない筈だ。それも税金をよりみっちり徴収するためのムダの多いシステムのため、となれば。

VISAカードAmazonから備品購入

 上司がVISAカードAmazonから備品を購入することがあったが、これがAmazonの個人アカウントを使ったがために面倒なことになった。Amazonビジネスであれば適格請求書発行事業者番号(以下、「インボイスNo」)はAmazonのもので発行される(媒介者交付特例)。

 が、個人向けアカウントを使用するとインボイスNoのある出品者からの出品かが分かりづらく、媒介者交付特例も使用できないので出品者からインボイスNo入りの領収証あるいは請求書をもらう必要がある。Amazonから手軽に出せる領収書にはインボイスNoは記載されていないので、それを保存するだけでは仕入税額控除が認められない。出品者からインボイスの発行を拒否されると仕入税額控除不可は確定。というかされた。個人が立替支払いで発注して後からお金をもらう場合も要注意。

 個人用アカウントからではインボイスNoの有無が一目では確認できない。それを自力で確認するとなると、まずAmazonで出品者の情報から「特定商取引法に基づく表記」を確認→国税庁の法人番号公表サイトにアクセスし、企業の法人番号を確認→インボイスNoを検索できるサイトにアクセスし、法人番号を入力して適格請求書発行事業者としての登録があるかどうかを確認、という手順が必要になる。面倒くさい。心底面倒くさい。インボイス制度なんか考えたヤツ、手間をかけてゆっくり◯したい。

 もちろん、こうした手間はAmazon以外の通販サービスにおいても同様である。モノタロウ、ASKUL、ヨドバシ.com、楽天市場etc.、通販サービスによって対応も異なるのでそれぞれ把握し、発注者がインボイスNo入りの領収書をオンラインで発行して経理に渡すなどの手間が発生する。NP掛け払いで後から請求が来た場合は?そのうえ500円の値引きがあった場合は?その値引きは税込みか税抜きか明記されてない場合は?対応に迷う。いちいち調べないといけない。

出張にかかる交通費・手当などの処理

 3万円未満の公共交通機関の利用費や出張にかかる宿泊費、日当は出張旅費等特例で帳簿記載のみでの仕入税額控除が認められている。それは良いとしてインボイス制度が始まってから帳簿に「出張旅費等特例」と併記する手間が増えた。

 公共交通機関の利用料等、インボイスの交付が困難と認められる取引については特例として帳簿の記載のみでの仕入税額控除が認められている。裏を返せばその対象となる以下の特例を把握し、その都度で例外的に処理することが求められるので面倒くさい。

  • 3万円未満の公共交通機関の利用にかかる費用
  • 従業員等に支給する通常必要と認められる範囲の出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当)
  • 入場券等が入場の際に回収される取引
  • 古物営業を営む者からの古物の購入*
  • 質屋を営む者からの質物の購入*
  • 宅地建物業を営む者からの建物の購入*
  • 再生資源あるいは再生部品の購入*
  • 出荷者が卸売市場で行う生鮮食品の販売
  • 生産者が農業協同組合、漁業協同組合または森林組合等に委託して行う農林水産物の販売(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うもの)
  • 自販機あるいは自動販売サービスからの購入
  • 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストから差し出されたものに限定される)

*適格請求書発行事業者でない者からの購入に限り

 出張以外で関係ある部分は少ないかも知れないが、逆にたまーにこうした例外的な処理が出てくると正しく処理できない可能性が出てくる。それをするのが仕事だ、と言われても人間はミスをするもの。例外処理の多いゴミ制度を作る方が悪い。

 また鋭い人(あるいは出張が関係ある人)はお気づきかも知れないが、出張旅費に含まれる項目には手土産代が含まれていない。その他の特例にも記載は無い。手土産は交通費ではなく接待交際費である。それも大抵は食品=軽減税率8%の対象なので帳簿上ではその他10%対象と区別して記載する必要がある。何にせよ手土産を購入した際、そのレシートが簡易適格請求書になっていなければその分の仕入税額控除が出来ないだろう。出張者自身が手土産を買う場合が多いと思うが、出張者がそこまで確認してくれるかどうかは怪しいのでこれも経理担当が逐一確認して記帳する必要がある。はー、ほんまゴミ。

振込料・値引きの処理

 一般的に、振込支払いの場合に請求額から銀行の振込手数料を差し引いて支払う商習慣がある。当初、政府は振込手数料を差し引いた場合にその分を請求書等に反映した適格返還請求書を発行するよう求めていた。たかただ660円とか880円の振込手数料の話でいちいち請求書等を再発行せよ、と言うのである。

 さすがに反発が大きかったのかその後、1万円未満の値引きについては適格返還請求書の発行義務は免除されることとなった。振込手数料を差し引いての支払いでの面倒が増えることは回避された。が、取引先の経理処理の方式によっては「立替金精算書」の発行を求められたりと対応が変わることがある。もうどうしたら良いんですか?どこまで手間を増やしてくれるんですか?振込手数料1つで経理処理によって取引先ごとに対応変えないといけないって、出来ない事は無いけども外から見れば「一貫性が無い」よね?

 それ以外の値引きに関して、特に振込手数料以外の値引きに関しては支払いに際して詳細な内容を記した支払明細書の発行を求められる場合がある。1件くらいならまだ良いが10件、100件となればすごく面倒くさい話。

 「じゃあ振込手数料も値引きもしないで支払えば良いじゃん」と思う人は多いだろうが、それらを無くすことは楽である反面、コスト増にほかならない。物価高の中でただでさえ実質的な消費増税であるインボイス制度に加えて、経理処理の複雑化への対応面で物価高が加速する可能性がある。

電子帳簿保存法への対応

 インボイス制度と合わせて帳簿、領収証等の電子保存も法的整備が成されて来た。今はレシート等を制度に対応したスキャナで取り込めば電子帳簿保存法に対応した形式で保存、文字の自動読み取りで効率的に処理出来る等のサービスがある。

 それだけ聞くと便利だが問題はその専用スキャナや対応する経理サービスの導入・運用費用で、小さい事業者には相応の負担となる。電子化はメリットもあるのだが、そのためのサービス利用料や専用機器の導入など結局は効率や手間の少なさをお金で買うことになる訳で、小さい事業者にとっては「余計なお金が掛かるなら多少の手間がかかっても従来通りの処理の方がマシ」

 それでもインボイス制度などは電子帳簿保存法での効率化を合わせて設計されていくので、それが小さな事業者にとっては悩みの種。本来であれば大きなシステムは必要ない、むしろ大きなシステムの導入・運用コストが収益構造を圧迫するレベルであるにも関わらず、「電子化」「DX」の大義の下に余計なコスト増か、電子化せずに余計な手間に立ち向かうかの二択を迫られる。悪辣な制度設計にほかならない。

 書類スキャンの方法も方法で、その辺の一般的なスキャナで取り込んで名前をつけて保存する程度では要件を満たすことが厳しい。経理書類の改ざんを防ぐために

  • タイムスタンプの付与
  • クラウドシステム/サービスの利用

のどちらかが必須となるのだが、「タイムスタンプの付与」は時刻認証業務認定事業者と契約して書類1つ1つにハッシュ関数を利用した証明用の情報を付与しなければならない。その辺のスキャナでスキャンするだけではこのタイムスタンプ付与が出来ないので保存要件を満たせない。この辺り、利権が絡んでいそうである。時刻認証認定事業者はアマノ、セイコーソリューションズ、三菱電機インフォーメーションネットワークなど。

 クラウドシステム/サービスを利用すると、そのクラウドのシステムによって訂正、削除などのログが残るので利用者がタイムスタンプを付与する必要は無くなる。ただしその場合、クラウドサービスの利用料等を支払うことになるので結局お金はかかる。

 「インボイス制度によって得られる税収よりも事務処理増加に対応するための費用が大きい」、「インボイス制度で廃業を検討する事業者が多い」と言われる所以は主にこの辺りだろう。小さい事業者にとって経理事務といった言い方は悪いが何の生産性も無い作業にかかるコストが大きくなることは、収益構造において時に致命的。

余談:新聞の税率

 新聞は散々消費税10%引き上げを煽り、そのくせ軽減税率8%の適用対象となったことが記憶にあるが、新聞ならば何でも軽減税率の対象となる訳では無い。週2回以上発行されるものでなければ軽減対象とならず消費税率は10%。

 私の場合は処理にそこまで軽減税率が絡んで来ないだけマシだが、これが軽減税率と通常税率が頻繁に混在する、あるいは将来的に今以上の税率が混在するようになれば更に処理が面倒になる訳で、将来が心配になる。どうせムダに使われるだけの税金を1円でも多く搾り取るために、どうしてここまで余計な手間や費用を増やされなければならないのか。

 インボイス制度は一刻も早く廃止して消費税も引き下げるべき。