ヤマネコ目線

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続:インボイス制度について

最初に:いまだに「私、カンケイ無いわ」と思っている人々がいるが、消費税に関係する話というか実質的な消費増税なので、関係無い人などほぼ居ない。小売店で1,000円の買い物をして追加で100円を支払うのは誰か。消費税を払わなくて済むという人なら別だが。

 インボイス制度について「免税事業者が免税分で不当に利益を得ているという批判は免れ得ない」という趣旨の記事を見かけたので書く。細かい話はすっ飛ばして、今回はインボイス制度の一体何が問題なのかについて。

 インボイスについては過去何度か書いているので詳細は下の記事で。

manuller416.hatenablog.com

免税事業者という区分の存在意義

 以下、消費税・インボイス制度における免税事業者を単に免税事業者と書く。外国人への販売を目的としたいわゆる免税店とは似て非なる話なので注意*1

 某記事では「免税事業者が消費税分の得をしてきた事への批判は免れない」、「それよりは発注元が強い状態で結局は下請けが損を強いられる構図が強まるのが問題」としている。後者の指摘は確かにもっともであるが、それは従来の消費税率を変える増税においても問題であっただろう。

 問題は前者で、果たしてそうであろうか。免税事業者は消費税の納付義務が無いのに、請求に消費税を上乗せしてその分の得をして来た、確かにそうした見方もあるだろう。が、ではなぜ免税事業者という区分が存在しているのか。それを考える必要がある。

 免税事業者は課税売上高が年1,000万円以下の事業者であり、そうした小さい事業者は人間でいえばまだ子どもの段階にある。免税事業者という区分は、そうした小さい事業者がやがて大きな事業者へと育つまで手心を加えるために存在する。そこでは純粋に金銭的な負担のみならず、納付すべき消費税を計算するための経理作業の負担の軽減なども考慮されて来た。

 逆に言えばこれまでもこれからも、課税売上高1,000万円を超える事業者はどう足掻いても免税事業者にはなり得ない。何となーく、不当に大儲けしているような印象を抱いている人間がいるかも知れないので一応書いておく。消費税率分(今では10%)の得をしようとしても、課税売上高1,000万円という縛りを考えれば年間最大100万円の得にしかならない。

 誤解しないで欲しいが100万円というのはあくまで最大値であって、個人としては大きな金額だが事業者としてはそうでもない。事業にかかるあらゆる経費を鑑みれば、その程度の補助はあって良いのではないか。発注元との力関係を言えば、そうした利益込みで価格交渉が行われていることも留意すべきである。

 確かに、消費税分の利益ありきであえて免税事業者の範囲内における事業活動をする人間もいるだろう。そうした人間には同情の余地は無い。が、どのみち大した額ではない。話は違うが、東京五輪をめぐる汚職や政府の金遣いの荒さに比べればまさしく子どもと大人、いやそれ以上に程度が違う。サービスデザイン推進協議会はどうなった?結局我々は、お上の手のひらの上で庶民同士の足の引っ張り合いをさせられているに過ぎない。

 何にせよ、免税事業者という区分を(実質的に)無くそう、消費税をより厳格に取り立てようというインボイス制度は、人間で言えばまさしく子どもから住民税を取るようなものである。益税うんぬんの話でもお気持ちうんぬんの話でもない、ただただ厳しさに度が過ぎる。

実質的な消費増税をする是非

 免税事業者という区分を許すか許すべきでないか、という話はともかくとして、それ以前にこのご時世に実質的な消費増税をすることの是非を問いたい。

manuller416.hatenablog.com

 

 これまで免除されて来た所に10%の消費税が発生する、となれば、今まで益税込みで価格交渉をしていた下請けは「免税事業者のままで10%分の値下げを飲む」か、「課税事業者となって本来の消費税10%込みの額を請求する」かの二択を迫られる。

 前者はただでさえ利益構造がカツカツな事業者が多い中、10%もの値下げを発注元から要求される訳であるから当然ながら今まで以上に厳しい。廃業を予定しているという業者があるのはそのため。「そんなレベルなら元からビジネスモデルとして間違っている」と言うことは簡単にできるが、我々1消費者が求めるモノの安さは「そんなレベル」に支えられて来ているので、あまり他人事のように思わない方が良い。

 他方、課税事業者となる道を選べば当然ながらそこでコストアップは避けられない。今までは利益に出来ていたお金が利益に出来なくなる。ならば当然ながら利益を確保するために値上げせざるを得ない。となれば、あらゆるモノの生産にかかるコストは上がることとなる。当然ながら小売価格も上がる。

 ただでさえ原材料費の高騰からの物価高、スタグフレーションが起こっている中での実質的な消費増税インボイス制度は物価高に拍車をかけるような政策と言える。そこで苦しむのは誰か。1消費者としての我々にほかならない。特に消費税が逆進課税である以上、貧しい人ほど生活は苦しくなる。

 インボイス制度を擁護する人々は、喜び勇んで「もっと消費税を取ってくれ」と思っているのだろうか。万年不景気でアベノミクスも不発、むしろスタグフレーションという状況で、逆進課税である消費税を上げることに賛成なのだろうか。それは良い選択とはとても思えない。格差拡大、少子化にも確実に悪影響を及ぼすだろう。インボイスで得をするのは政府だけであり、我々に得は無い。

余談:インボイスという名前のいやらしさ

 インボイス制度だのと中身を誤魔化すための横文字を使ってうまく隠しているが、結局その中身は「消費税をより厳密に取り立てよう」である。それは実質的な消費増税にほかならない。そこで「実質的な消費増税を行います」と言えば確実に反発を招くので、「インボイス」というぱっと見では分からない横文字を使い、免税事業者という”敵”を作って制度を進めている。そのやり方がとてもいやらしい、狡猾だと思う。

 その思惑にまんまと引っかかり、このご時世で消費増税をすること自体の是非や政府の税金の遣い方への批判を忘れ、ただ庶民同士で足の引っ張り合いをさせられている様は愚かとしか言いようが無い。なぜ、今この時期に消費税を上げる必要性があるのか。それを我々は甘んじて受け入れるべきなのか。政府の税金の遣い方は果たして妥当なのか。

 「お金足りないからくれよ」と言われて国民がバカ正直にお金を渡し続ける限り、外ヅラが良いだけの飲んだくれDVクソ親父のような日本政府が変わることは永遠に無い。景気が良くなる事も国が良くなることも永遠に無い。黒田前日銀総裁は「デフレは脱却できた」などと誇らしげだったが、デフレではなくスタグフレーションになっただけである。デフレよりまだ悪い。

 今日はミャンマー国軍が民主派勢力の祭典を空爆し、少なくとも50人以上が死亡したことが報じられているが、日本はそのミャンマーODAを続けている。今年1月にはそのODA下請け企業からミャンマー国軍へ億単位の資金が流れているとも報じられており、そうした点を見てもこんな政府にほいほい金を渡していてはロクな事が無いと感じる。

 

*1:海外からの仕入れは関係あるが本題から反れるので割愛する