ヤマネコ目線

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学校カメラマン日給2万円のヤバさ

 Xで「学校カメラマンはもう限界」という記事が話題だった。しかし、ひょっとすると「1日撮影するだけで2万円なんて良いじゃん」と思う人もいるのかも知れない。今回は以前読んだ記事を引用しつつ補足的な内容を書いておく。実情は以下のnote記事が大いに参考になるというかもう、下に引用した記事読めば全部分かる。

note.com

 一応断っておくが私はアマチュアでスクールフォトは1mmも関係ない。とは言え彼らを取り巻く環境には同情する。

「機材は自前当たり前」がヤバイ

 特にヤバイなと思ったのは、企業に所属しないフリーランスのカメラマンに関して。人手不足からフリーランスに依頼することも多々あるようだが、フリーランスのカメラマンにおいては「カメラなどの撮影機材や、パソコンなどの画像処理環境、撮影に絶対必要であるメモリーカードは、基本的には自分で用意するのが当たり前である。」とある。

 さて、では機材に一体どれくらいお金がかかるのか。プロならば当然フルサイズ機を使うと思うので実際に値段を見てみると、人肌の写りが良いとされるCanonに絞ってみれば最安のカメラはEOS RPで 112,000円(ただしカメラ本体のみ、レンズ無しの価格)。レンズを含めると更にお金がかかる。ある程度離れた位置から撮ることを考えると望遠レンズ、集合写真を撮ることを考えると広角~標準レンズが欲しい。となれば、カメラ本体+レンズだけで最低でも20万円程度はかかる筈。

 正直言えばEOS RPは2019年発売のエントリーモデルなので素のスペックがもう少し良いカメラが欲しいところ。Canonは値段によって機能の差別化がキッチリしているので下手に妥協できない。新しい機種かつ比較的手軽な価格のEOS R8くらいは欲しいが、そうなればカメラ本体だけで22万はする。ざっくり最低でも30万円はかかるか。

 加えて同記事では「カメラは予備が必須なので2台以上」とあり、この時点でそれなりのカメラを2台揃えるだけで初期投資40~60万円程度は覚悟しなければならない。集合写真のような動きの少ない撮影は安めの機種、運動会は高めの機種と使い分けても50万くらいはかかる。

 日給2万円のうち2万円が丸々利益になると仮定しても、この時点で機材にかかる費用を回収するだけで長い道のりになることは明らかだ。初期投資に50万円掛かったすると駆け出しの25日間は実質的に無償奉仕。参考までに私はSONY派でフルサイズミラーレス一眼を2台買っているが、α7III+FE24-105で当時の価格で大体34万円。α7IV+FE100-400で大体55万円。合計約89万円。

 カメラにかかる費用は本体とレンズの代金だけでは無い。代表例としてはメモリーカード。秒間10枚撮影可能なような高性能なカメラでは、より高性能なメモリーカードが必要になる*1。カメラ1台につき予備を含めた2枚のメモリーカードを使用するので、予備カメラ2台分つまり4枚のメモリーカードが必要になる。その他、カメラバッグや保管用ケース、メンテナンスツールなどの周辺機器。

 Yahoo!の記事では1日5,000枚撮影して日給2万円とあった。下記サイトによれば2,000万画素で撮影したRAWデータで128GBのSDカードに保存できる枚数が約4,920枚とほぼ5,000枚。

www.pioneer-itstore.jp

 UHS-II (普通のSDカードよりも書き込み速度が速い規格)のSDカードでお安めのものを探してみると下記のようなものがある。現時点では1枚7,400円。メインカメラと予備カメラ用に4枚買うと29,600円。あれ???消耗品補給でもう赤字では?

 予備カメラに入れるSDカードを諦めるとしても、2枚で14,800円となかなか日給2万円の内訳を削りに来る。フォーマットして使い回せば良いのだがプロがどこまでそれをしているかは分からないので何とも言い難いところ。私は使い回さない。SDカードは急に壊れることもある。消耗品。「1枚で行けばいいじゃん」って?万が一、撮影中にSDカードが壊れてしまったらどうなるか。撮影したデータが消えたらどうなるか。

 ところで、写真編集にはパソコンが必要であることをご存知だろうか。今どきのカメラはSNSユーザー向けにカメラから直接スマートフォンへ転送できる機能なんかもあるが、職業カメラマンはそうもいかない。現像するならRAWファイルだろうし、その編集作業を快適に出来るスペックのパソコンはそれなりにする。今なら最低でも15万くらいかかるか。

 初期投資、維持費の面1つ取ってもフリーランスの学校カメラマンとして働くことは非常に分が悪い。

それ以外もヤバイ

 冒頭で貼った記事に書いてあるが拘束時間が長い。日給2万円だろうが学校が始まる前から現地に顔を出して、下手すれば1日中撮影してその後データ納品、整理、カメラの充電・メンテナンスと。5,000枚の写真整理だけでも嫌になりそうだ。平均的な実労働時間は何時間なのだろうか。修学旅行なんかは特に拘束時間が長いらしい。

 当然ながら日給2万円のうちに機材費は含まれていないそうで、それどころか交通費も出ないとある。何なら日給2万円は良い方でそれを下回る場合もあると。

 加えてインボイス制度でこれまでの報酬が税抜きから税込みの金額になった、つまり実質的に日給が10%減っていると。外野からすれば10%分ちゃんと料金に乗せてもらえという話なのだが、それだけの交渉力がフリーランスにある筈もない。

 閑散期と繁忙期の波が大きいというのも辛そうな点。学校行事は1年を通してそれなりにあるとは言え、春休み、夏休み、冬休みなどの行事が無い期間は撮影が無い=売上が立たない。収入が安定しないのは苦痛だろう。社会保険料が引かれないのは少しうらやましいが、個人事業主なので福利厚生も無い。

 誰がやるねんそんな仕事・・・やってる方々には申し訳ないけど副業でもお断りするレベル。

それ以外

 以前、学校カメラマンを集めるとかで炎上した件があった。変な奴が多い中で子供の写真を撮る人間は、時として子供を性的な目で見る変態と見なされる事すらある。もはや良い事が無い。好きでやってる以上は確かに子供が好きなのだろうが、犯罪者予備軍扱いまでされるのは不憫。

これからのスクールフォト

 ビジネスモデルとして成立しない以上は滅ぶしか無いだろう。他人事で申し訳ないが幸い、今や小学生でもiPhoneを持っている時代。学校行事における写真は生徒に任せれば良い。教員に任せる手もあるがただでさえ負担が大きい中、そんな事までさせられまい。

 あるいは親から有志を募って撮影するか。他人の子供まで撮らないといけないとなるとそれはそれで揉めそうだが、少なくとも全くの部外者に任せるよりは安心感があるのでは。親として子供のことに関わる意識も高まるかも知れない。問題は親となる人々にそれだけの精神的・経済的・肉体的余裕が残されているかどうかだが、このご時世に結婚して子も成せるのだ。それくらい愛する子供のためなら出来るだろう。

 職業カメラマンとして用意しようとするとそれなりに金が掛かるのであって、たとえば運動会なら当日だけ一眼カメラ本体+望遠レンズをレンタルするという手もある。レンタルなら(比較的)かなり安く済ませられる。ぶっつけ本番だと操作に慣れないという問題もあるが、今のミラーレス一眼なんかだとオートでも十分撮れる。

 卒業アルバムの写真も撮影してデータ渡すくらいは出来る筈。アルバムを作るサービスもあるし、従来の卒業アルバムの形にこだわる必要は無い。カメラマンにしかるべき料金を払えないのであれば仕方ない。こうして貧しさから文化は衰退していくのだ。

人手不足は待遇不足

足らぬ足らぬは手取りが足らぬ

欲しがりません*2出すまでは

ブラックは敵だ

*1:RAWファイルで1枚35MBとすると10枚連射で秒間350MBの書き込み速度が無いといけない。UHS-IIでも最大転送速度の理論値は312MB/s

*2:お金を