ヤマネコ目線

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少子化の原因に対する考察

 書き散らし。以前、「生きる目的が多様化したから少子化になっている」という意見に対する反論を書いた。今回はそれに限らず、より広い範囲から少子化の原因について書いてみようと思う。

経済力が無い

 まずこれが一番大きな問題なのは言うまでもない。日本人の多くが非正規雇用の拡大などで貧困化してしまった。非正規に限らず実質賃金は下がっている。格差拡大という言葉で誤魔化されがちだが、金持ちと貧乏人に二極化するのであればそのバランスは当然ながら一握りの金持ち、大勢の貧乏人である。貧困が広がれば広がるほど、それに応じて子供を作ろうと考える人間は減る。「アフリカは貧しいのに子だくさんだろ」?ここはアフリカでは無い。

 婚活女性は20代で年収500万、600万の男を求めるが、そんな男が世の中にどれだけ居るというのか。20代の貯金中央値がゼロとも言われる中で結婚相手として求められる理想に対し、現実はかなり厳しい。多くの人間が学生以上、大人未満という収入のレベルに陥り、ライフステージが上がらない状態になっている。

 経済力が無いとはどういう事か。まず結婚できるだけの年収が無い。運よく結婚できても子供を作るだけの余裕が無い。あったとしても1人か2人。夫婦2人からでは最低でも3人生まれなければ人口は増えないが、今どき3人以上の子供を作れるのはよほど余裕のある家庭か、よほど子供が欲しいという気持ちが強い場合か、考え無しに腰を振るサルくらいだろう。

「まともに育てられるか」問題

 子供は作るだけなら何とかなるかも知れない。しかしあらゆる面で満足に育てようとすれば、そこにはかなりのお金がかかる。前述したように若年層にお金は無い。食事だけでなく衣服、おもちゃ、教育、どれだけのものを子供に与えられるか。親になるのであれば子の幸せを思うのは当然のことだが、それを考えれば考えるほど経済力が無いゆえに

「満足いく育て方をしてあげられないなら子供が可哀想だ」

「そんな不幸な子を自分が無理してまで作る必要はない」

「自分の人生は自分のためだけに使う方がマシ」

という発想になっていく。

 今の若者は後述するように不景気の中に生まれ育ち、堅実な価値観を持っている。そこで妙な楽観主義は通用しない。むしろ価値観としては拝金主義に振れつつすらある。

不景気に育った者の価値観その1

 不景気に育った人間にとっては「ムダ」というのは悪と同義である。ムダを許容する余裕のない環境で育った若年層はお金のムダ、時間のムダにかなり厳しい。いまやタムパ*1と言って単位時間あたりの利益すら気にしている。動画の倍速視聴がその好例だ。

 それだけムダに厳しいことは一見、良いことに思えるかも知れない。しかし過ぎたるは及ばざるがごとし。「ムダかどうか」、「自分にとってどれだけ利益たり得るか」というのが行動原理となり、その中での「ムダ」の範囲に恋愛、結婚、子育てが入ってしまっている。ように私は見える。当然その「ムダ」は削るべき悪とみなされている。究極的な話、「子供を作ったらそれだけ寿命が延びる」とかでも無い限り、もはや今の若年層は動かないかも知れない。

 そも人間、多少のムダは許容できるだけの余裕がなければならない。ムダというのは裏を返せば豊かさであり、あらゆる事に関して効率化、省力化を突き詰めざるを得ないという状況は豊かさの対極に位置する。不要なものだけをムダと認定するレベルならまだ良い方で、近年の違法ダウンロードや転売ヤーの流行などを見るにもはや必要な道徳、倫理観といったものまで「ムダ」と認定されるレベルになりつつある。貧しいなら頭を使え。どんな手を使ってでも金を稼いだものが勝者、金が全て。人々の心がどんどん貧しくなりつつある。

不景気に育った者の価値観その2

 不景気に生まれ、日本社会が下り坂を転げ落ちる中で育つということは自分が子供の頃=日本が一番良かった頃という大人を生む。よくクレヨンしんちゃんのひろしが話題にされるが、かつて平凡なサラリーマンの象徴だったキャラクターが今や”ハイスペック男子”と呼ばれるまでになっている。自分が子供の頃に描いていた「大人像」が、いざ自分が大人になった頃には手の届かない存在になってしまっている。

 しかし価値観はそう簡単には変えられない。昔は当たり前だった筈の生活水準が今は実現できないというのは相当なストレスになる。それに結婚や子育てなどが絡むとなるとなおさら。高い理想の前に厳しい現実が突きつけられればどうなるか。そこには失望、絶望、諦めが広がる。

メディアの中の価値観

 クレヨンしんちゃんのひろしに触れたが、クレしんに限らずその他あらゆるメディアにおける価値観もあまりアップデートされていない。あるいはアップデートが追いついていない。

 となれば、そうしたメディアに価値観を醸成されて育った人間が現実を見てどうなるかはお察しである。アニメもマンガもドラマも恋愛至上主義TikTokFacebookを通して見るキラキラした世界。そうしたものを見て育った人間が世の中の現実に気づいた時にはまたしても失望、絶望、諦めが待っている。

 たまに聞く「アニメキャラと結婚する」という発想は、そこで起きる一種の現実逃避と考えるべきであろう。お金も無いのに無理をしてあんまりな現実を受け入れるより、幻想に脳をひたしていた方が楽であり楽しい。という訳である。

育児環境としての日本

 世界的に見れば日本はまだ恵まれた環境と言えるのだろう。が、人々から経済的・精神的どちらの余裕も無くなり社会全体が不寛容になりつつある。公園ではあらゆる行動が禁止され、ベビーカーを公共交通機関に乗せれば白い目で見られる。ムダを許容する余裕がないという事は、それだけ他者に対する余裕、許す余裕が無いことを意味する。

 そして子供に関わる人間がいつまでも低賃金・長時間労働で苦しんでおり、保育所も教員も不足している。最近では2人目が生まれて育休に入ると強制的に退園させられる制度が話題になった。子育てに関するリスクはまだまだ大きい。そうした状況を若者は見ていないようでちゃんと見ているし、育つ過程でそれを肌で感じ取っている。ただでさえ余裕が無い中で頑張って結婚、子供を授かっても、その先がまだまだ暗いというのが見えている。「子育て罰」なる言葉が出て来るような国に未来は無い。

 たまに他の地域・国家の環境を引き合いに出す人間がいるが、日本国内の話と世界のその他の地域の話はまったくの別問題であって、そこで「(国名・地域名)よりマシ」などという論法はまったく意味がない。根本的に環境が異なる地域とは社会的な問題の内容も根底も違う。

都市部一極集中

 東京や大阪といった都市部に人口が集中し過ぎていることも少子化の一因ではないかと思う。単純にそれだけ人が多ければ人口減に対する危機感は覚えないだろうし、物価は地方より高くなるのでただでさえ経済的余裕が無いところに更に余裕は無くなる。地方は地方で単純に人が居ないのでどんどん寂れていく。地方には仕事が無いというのは問題なのだが、逆に言えば人が居ないから仕事がない、仕事が無いから人が出ていくという負のループに陥っている。

 特に東京は年間約40万人が地方から移住すると言われる。明らかに人口過密であり、それも移住するのが地方で生まれた若者であるからには、日本全国から活力を奪っていると言っても過言ではない。たまに「東京だけでGDPは小国に匹敵する」などと言うがそれは当然の話。基本的人権に関わる話なので難しいが、都市によっては人口制限、移住制限も視野に入れるべきではないかと思う。その中で小池都知事が打ち出した子供1人あたり月5,000円の政策は、むしろ東京一極集中を加速させかねない。

生まれながらの格差

 格差が拡大するということは極端な話、世に生まれて来る子供が「少数の恵まれた子供」と「大勢の貧しい子供」に二極化するという事。そこには生まれながらの格差が存在する。昔からそれはあっただろうが、Z世代などを見るにその格差は世代を追うごとに悪化して来たのではと思わざるを得ない。私はそれが起きるのはもう少し先だと思っていたのだが、既にそれは起きているのだろう。

 となれば何が問題か。少数派の富裕層がいくら子供を作ってもその数は知れている。一方で多数派の貧困層は子供を作らない、何なら結婚もできない。数のバランス的に子供など増える筈がなくなっていく。

 私が子供の頃はまだ大人になることに希望が抱ける時代であったが、これからの時代は多くの子供が子供時代からして社会に絶望、失望を抱きながら年齢を重ねていく。それはとても恐ろしい話であり、これまでに述べた「不景気に育った人間」の価値観をさらに酷くした人間がこれからの世代になってくる。少し前に話題になった「片親パン」*2だの「アフガキ」*3だのと言ったような言葉が子供たちから出て来るようでは本当に先が思いやられる。そこで悪いのは子供たちではない。そうした言葉が子供から自然と出てくるような社会である。

余談:下の世代を理解できない上の世代

 上の世代が言う「最近の子はすぐに諦める」、「根性論が通用せず行動にきちんとした理由が必要になる」と言うのは、前述した「ムダ=悪」の価値観を理解すれば少しは分かりやすい。

 そこには「してもムダな努力は最初からしても意味が無いので時間のムダ、切り捨てるべき悪」、「ムダの無い行動のためには明確な根拠が必要であり、感情的なもの(=精神論、根性論)に左右されてムダな行為をするのは悪」、という思考回路がある。良く言えば合理主義的。悪く言えば非・人間的な行動原理。もっとも人間である以上、そこから感情的な要素が排除し切れる訳もなく。前に書いたスマホゲーに課金する心理などはまだまだ人間的。

 どうして「子供はコスパ悪い」と思うかって?我々が自分自身を見れば分かるのさ!ガハハ!

 

*1:タイムパフォーマンス

*2:片親の子供がよく食べているパン

*3:アフリカの子供のように貧しい子供