ヤマネコ目線

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「忍者爆弾」は爆弾とは少し違う

 面倒臭いオタクの戯言にはなるが、下の記事の見出しにある「忍者爆弾」は厳密には爆弾ではない、という話。どうでもいいが今回のアルカイダ指導者殺害を主導したのは米軍ではなくCIA。アメリカには違い無い。

news.yahoo.co.jp

じゃあ一体何なんだよ

模式図 from US Army

 単純に言えば上図のような刃が展開するミサイルで、着弾しても爆発はせず標的のみを切り刻む兵器。ロケット燃料は搭載しているが爆薬は搭載していないし、そもそもミサイルなので「爆弾」とは定義上、少し違う。爆弾は推進力を持たない兵器に使う名称。

 ベースとなっているのは有名な対戦車ミサイルヘルファイア”であり、これはその派生型と言える。初配備は2017年で公に使用(されたと思しき被害)が確認されたのが2017年3月。その後もたびたび使用されており、下のツイートで紹介されている写真を見る限り、アルカイダの重要メンバーが乗っていたらしき車にキレイに直撃している。

 ベースであるヘルファイアミサイルにはこの他にも様々な改良・派生型がある。中にはスウェーデン軍によって改修されて対艦ミサイルとして運用されているものもあり(RBS-17)、2022年6月に同国からウクライナへ支援として提供されている。元が対戦車ミサイルで射程が短く、あまり役に立つとは言えなさそうだが・・・。

人道的兵器

 この忍者ミサイルは見た目こそ凶悪なものの、ほぼ狙った標的だけに被害を与える人道的な兵器と言える。人道的兵器と言うと「兵器はそもそも非人道的だろ!」と脊髄反射で言い出す人間がいるが、そういう話はしていない。あくまで兵器の中で人道的な部類か否かを論じているのであって、兵器そのものの是非は関係ない。

 これまでアメリカはテロ組織の要人暗殺などに通常のヘルファイアミサイルを使用して来たが、その過剰な威力から多数の巻き添え被害を生んで来たのは誰もが知る通りだろう。いくら現地に狙撃手を送り込んだりするのが難しいからとは言え、そもそも1人の人間を殺害するのに対戦車ミサイルを使用して来たアメリカが異常なのだが・・・。

 それはそれとして、巻き添え被害の多さをアメリカが問題視して来なかった訳ではない。非対称戦争、従来の軍隊VS軍隊ではなく軍隊VS市民に紛れ込むテロリストでは、これまで用意して来た兵器がどうしても使いづらい、余計な被害を生んでしまう面があり、そういった巻き添えを極力抑えるべく開発されて来たのが精密誘導兵器でありこういった兵器である。

 第二次世界大戦の頃を振り返れば、ある程度の場所の絞り込みこそすれとにかく絨毯爆撃、それこそ巻き添え被害など気に留めず(気にしたところで技術的に精密爆撃など出来ないので)ポンポン爆弾を投下していた訳で、それを思えば精密誘導兵器の登場そのものがある程度、人道に配慮していると言えるだろう。今はレーザー誘導ならば推進力のない爆弾であっても、走行中の車に直撃するだけの精度がある。

 R9X以外で巻き添え被害防止を考慮した兵器言えばGBU-39 SDBはそれに近い。初の実戦投入は2006年とそれなりに前だが、興味がない人は知らない人も多いだろう。こちらの方が"Ninja"っぽいと思うのは私だけか。

ja.wikipedia.org

 一応、こちらはSDB(Small Diameter Bomb, 少直径爆弾)の名称通り爆弾で、爆薬を搭載している。もちろん爆発するし被害範囲はR9Xより広い。ただ従来の爆弾らしい爆弾よりは破壊力があえて限定的なものに抑えられている。破壊力が小さくて良い(=重量やサイズを抑えられる)ことがメリットを生んでいる点もある。

 主な特徴は投下時に上図のように翼が展開すること。これにより揚力を得て長距離を最大100km以上も滑空しながら目標へと向かうため、ただ投下される爆弾よりも目標から離れた位置で投下できる(=投下にあたる航空機の安全を確保しやすい)。この手の爆弾は「滑空爆弾」と呼ばれる。滑空翼を搭載しない爆弾よりは確実に長い射程を持ち、比較的軽いので滑空可能距離も長い。

 また、小型で威力を抑えるようにした結果、F-22の胴体に収まるように設計されたことも相まって戦闘機に搭載できる数も従来の爆弾よりは多い。精密誘導で確実に標的を破壊できる場合、持ち運べる爆弾の数が多ければ多いほど一度の出撃で多くの目標を攻撃できる。

 Wikipediaの記事「性能」の章にも記載があるが、小さいながらも貫通能力と信管のモード切り替えも搭載されている。「着発モード」では従来の爆弾と同じく着弾時に信管が作動し爆発する。「遅発モード」では貫通能力を活かすため、着弾から少し遅延を挟んで爆発する。

 遅発モードは堅固な標的(トーチカや掩蔽壕に格納された兵器など)に対して使用される。下の動画は遅発モード。見事に掩蔽壕を貫通している。

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 なお、Wikipediaには記載が無いが確か空中炸裂モードもあった筈、と思って動画を漁ったら一応出てきた。空中炸裂モードは標的に着弾する前に空中で爆発させ、あえて広範囲に被害を与えるためのモード。目標周辺の歩兵を一掃したい、兵器や構造物に広く損害を与えたい場合に使用される。

 開発中止あるいはオミットされたのだろうか。それともただWikipediaの書き忘れか。

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 ヘルファイアと同じくSDBも複数の改修・派生型があり、SAABがM26ロケットシステムのコンテナからロケットモーターで地上から発射する派生型GLSDB(Ground Launched~)を開発していたりする。M26ロケットはMLRSウクライナへ提供されたHIMARS(ハイマース)に搭載可能なので展開力は上がる。実際に使われるかは別として選択肢が増えるのは良いこと。