ヤマネコ目線

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ドローンは砲兵の代わりになり得るか

 面白い話題だと思ったので乗ってみる。一部ではFPVドローン*1(以下「ドローン」で統一する)が砲兵による砲撃の代わりを果たせるのでは、という素人意見があるようだが、それについて。

結論から言えば

 ドローンによる攻撃、野砲による攻撃どちらもそれぞれのメリット・デメリットが存在するため単純比較するべきものではない。どちらが優れているともどちらがもう一方の代わりになるとも言えない。

威力

 これが一番違うところ。M795 155mm榴弾の場合は重さが1発約47kgある。人間(日本人)で言えば12歳8ヶ月の男児の平均体重程度。この場合、高性能爆薬が約10kgも入っている。弾薬にも種類があるが、ドローンよりも破壊できるものが多いことは間違いない。

 かたやドローンの搭載量は一般的なもので2kgを超えない。つまり投射可能な弾薬のレベルは従来の火砲に比べてかなり限られる。ウクライナ軍が行ったロシア軍への攻撃映像を見ても、投下しているのはおそらく迫撃砲弾か手榴弾ばかり。

 ドローンの中でも大きい荷物を運ぶことが出来るものは開発されてはいるが、運べる荷物の重さと機体の大きさは比例する。機体が大きくなればなるほど発見、撃墜される可能性は高まるので、単純に機体を大きくすれば良いという訳でもない。使い捨てにすることを考えても機体そのものにそこまでコストは掛けられない。

射程と速度

 M777榴弾砲の場合、砲弾の種類によるが射程は24~40kmとそれなりの距離がある。砲弾の速度は砲口初速が827m/s=マッハ2.4程度で、曲射(砲弾が山なりの軌道を描く)かつ徐々に速度が落ちるとは言え、ドローンよりは確実に速い。

 一方でドローン兵器の射程は電波が届く範囲がボトルネックとなる。行動可能範囲はせいぜい4km程度であり、重量物を乗せた場合や電波妨害がある場合、地形によってはさらに短くなる。速度もそこまで出ない。現在最高速を出せるドローンの速度は時速300kmに達するが、それはそれ専用の設計をした上で何も載せない場合。実際の映像を見てもそこまで速度は出ていない。

ドローンはどれくらいまで飛行できるのか古宇利島で限界に挑戦 | DRONE PILOT AGENCY株式会社

 「でも米軍のドローンは遠くから操作してるじゃないか」という人がいるかも知れないが、最初から軍用に作られたMQ-9リーパーなどのドローンはクアッドコプター型(=一般人がドローンと言われて思い浮かべるプロペラ4枚で飛ぶやつ)でも無ければ、機体の大きさは段違いで通信方法も衛星経由である。

命中精度と使い道

 砲弾はただ火薬で飛ばすだけなので精密な攻撃は期待できない。GPS誘導砲弾もあるが妨害電波を使用されればズレる。低い命中精度を発射する数や砲弾自体の種類*2で補うのが基本。

 ドローンは高い誘導性能を持つ*3ので、車両の弱点*4、敵の塹壕の一番狙われたくない所などをピンポイントで狙うことが出来る。搭載できる武器の威力は低くても少しずつ確実に相手に消耗を強いることが可能。

 従来の火砲は大規模かつ長距離から壊滅的な被害を与える用途に向いており、ドローンは短距離で味方を支援する役割に向いているといえる。また、ドローンは偵察にも使えることを忘れてはならない。遠隔で映像を見られるので片道切符前提で飛行させ、行きがけの駄賃代わりに敵陣地に突っ込ませることも可能。嫌がらせにはうってつけの兵器といえる。安全な遠隔地から放棄された装甲車の空いたハッチめがけて手榴弾を投下し、丁寧に破壊することも可能。

 その点、従来の火砲にはないタイプのプレッシャー、恐怖心を敵に与えられる点もドローンのメリットか。いつどこから手榴弾を落とされるか分からないとなればおちおちトイレにも行けない。それだけでなく映像が残るので攻撃の映像をSNSや動画サービスなどで流すことも出来る。それを見れば誰しも「これからの戦争ではドローンに殺されるかも知れない」と思わざるを得ないだろう。別に銃弾1発だろうが砲弾だろうが結果は変わり無いのだが、逃げようとする兵士めがけて突っ込みながら起爆するドローンの実際の映像を見てしまうとそれらには無い感情が出てくる。

必要な人間の数と攻撃速度

 一般的な比較対象としてアメリカ軍が使用するM777 155mm榴弾砲を見ると必要な砲兵の数は5名。1分間で発射できる砲弾の数は最大5発、持続射撃時で2発。

 ドローンは人間がカメラからの映像を見ながら手動で誘導を行う。なので単純計算で1発に1人の人間が必要になる。クアッドコプター型のドローンは火薬で発射される砲弾よりはずっと遅い上に、重い迫撃砲弾等を搭載して飛行するとなると離陸から命中まではそれなりに時間がかかる。

 単位時間あたりの攻撃回数で言えば一般的な火砲に軍配があがることは想像に難くない。ドローン操縦中の兵士は無防備になりがちなため、護衛は最低でも1人欲しいところ。

余談:これからの展望

 以上のことを踏まえて見えて来るのは「ドローンで火砲が代替できる」などという単純な話ではなく、戦場においてはまだまだ使い勝手の良い武器・兵器が求められているということ。ドローンはそのうちの1つに過ぎない。

 また、ウクライナ軍はドローンによって実際に戦果を上げられることを世界に知らしめた。これには飛行するドローンだけでなく船舶型の特攻ドローンも含まれる。船舶型ドローンに爆薬を詰んで突入させることでロシア軍の艦船を撃沈している。

 これから先、今まで以上に無人兵器の開発・発展・活用は激化するだろう。ひょっとすれば火砲で発射されて終端誘導だけAIで自立飛行、画像認識で標的へ突っ込む砲弾型カミカゼドローンなんかも出てくるかも知れない。あるいは空中から小型のドローンを投下する空中ドローン空母なんかもあり得る。物資を運ぶドローンや負傷者を運ぶドローンは既に実験が行われている。陸上で偵察・戦闘をアシストするドローン(UGV)、海上あるいは海中で活躍するUSVも登場して久しい。日本はその流れにどこまでついて行けるのだろうか。

 私が兵士ならドローンで一方的に殺されるなんか御免被る。同じような手段で対抗したいし、ドローン対策も欲しい。歩みを止めれば負ける。

 

*1:搭載されたカメラから映像を見ながら操作できるドローン

*2:クラスター弾で広範囲を攻撃する等

*3:操縦手の腕によるが

*4:燃えやすい外部燃料タンクやタイヤ、履帯など