ヤマネコ目線

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震災対応、素人アドバイザーに反論するPart3

 前回、前々回記事の続き。

前々回記事

manuller416.hatenablog.com

前回記事

manuller416.hatenablog.com

「水陸機動団を投入しろ」に対して

 水陸機動団とは2018年に編成された陸上自衛隊の部隊。至極簡単に言えば尖閣諸島などの島への侵略を想定し、水陸両用車等で海上移動、上陸、陸上での戦闘を行えるように編成された部隊。アメリカ軍で言えば海兵隊のようなもの。歩兵、水陸両用の装甲車(AAV7)、ヘリ、オスプレイなどから成る。

 これが不幸なことに「目についたもの何でも被災地に行けman」の目にとまってしまったようで、水陸機動団という文字だけ見て「なぜ投入しない」と言い出してしまった。しかしヘリはすでに投入されているし、オスプレイは安全のため今は飛ばせない。

 水陸両用の装甲車 AAV7 で物資を運べとでも言うのだろうが、AAV7は兵員輸送のための車両であって大型ヘリほど荷物は載らない(4.5t)上に、水上航行速度は"最大で"時速13kmと笑えるほど遅い。加えて能登半島沖は荒れる冬の日本海AAV7はカタログスペックでは3mの波の中でも航行できるとの事だが、安全に上陸できるかどうか。下手をすれば死人を増やすことになる。だったらLCAC(大型ホバークラフト)で装軌車両を投入する方がまだ現実味があり安全性が高い。実際にNTTの通信復旧車両や自衛隊のトラック等はホバークラフトから上陸している。

 「装軌車両(キャタピラがついた車両)ならばどんな場所でも走破できる」、と考えている人もいるだろうが全くそんな事は無い。下の画像、左がAAV7、右がレッドサラマンダー(無限軌道災害対応車)。見比べると分かる通り、AAV7は船のような形状で水上航行に適した車体をしている。その分、車体が前方に張り出しており凹凸の激しい地形には対応しづらい。

 右のレッドサラマンダーは全地形対応車というだけあって障害物を乗り越えやすいようなキャタピラの形状、配置がされている。車高もAAV7より高い。

左:AAV7  右:レッドサラマンダー

AAV7の画像の引用元:AAV7 - Wikipedia

レッドサラマンダーの引用元:

国内に一台のみ!? 九州北部豪雨で活躍した「レッドサラマンダー」って?|CarMe[カーミー] by 車選びドットコム

 加えてAAV7の車重は空荷で約25t、幅は3mオーバーとこれで上陸してそのまま山道を行けというのは無理。それが出来るならとっくに陸上から装軌車両で展開している。

ヘリ空母からヘリを離発着できないのか」に対して

 「ヘリ空母をここで使わずしていつ使う」との事だが、下図の通り近くに能登空港がある。地方の空港とはいえ、ヘリ空母の甲板よりも面積の広い滑走路があるのは言わずもがな。陸地なので物資の集積も容易で自衛隊の大型ヘリ、CH-47チヌークでここから被災地全域をカバーできる。ヘリ空母を展開させる必要性が無い。

能登空港: GoogleMapより

 なお、護衛艦いずもの甲板面積は長さ245m×幅38mで約9,310m^2。能登空港滑走路だけで長さ2,000m×幅45mの約90,000m^2とほぼ10倍広い。付属の施設や敷地も合わせるとヘリ空母がどうのなど、お話にならない。

「あれが出来ないこれが出来ないと自衛隊を低く言い過ぎ」

 と言う人たちがいるが一体、自衛隊の何が分かっていると言うのか。部隊運用の手法や航空機運用の実情、人員配置や各人、各部隊の技量、どこまで分かっている?はっきり言ってバカじゃないのかと思う。無理な命令をして自衛隊に死者が出て初めて「必死で救援活動にあたっている」と認識するのだろうか。ドが10の8乗個くらいつくブラック思考にドン引きする。まるで大日本帝國の軍部だ。

 「やればもっと出来るはず」、「出来ないのは根性が足りない」、「工夫が足りない」、「闘魂が足りない」、「死ぬまでやって初めて全力」・・・不思議なことに普段は左寄りに思われる人々が、自分自身の見当違いアイデアを実現できると盲信するあまりそのような言い方をしている。皮肉にも彼らは彼らがもっとも忌み嫌うであろう人種と同類になっている。

 今、重要なのは余計な死傷者が出ない範囲で支援活動にあたることであって、空挺降下だの物資のパラシュート投下だのわざわざ危険かつ非効率的な手段をなりふり構わず全力で投入することではない。「人殺しの準備のほうに忙しい」などと失礼な批判をする連中がいるが、そういう無知無能で人に無理を強要する人間はまた別の意味で人殺しである。

「ヘリ800機を政府が借り上げて投入しろ」に対して

 竹中平蔵氏が提案した話。氏いわく日本は世界有数のヘリ保有国で、全国にあるヘリ800機を政府が借り上げて投入すれば良いのでは、とのこと。

 しかし、ヘリコプターは必要があってそこに配備されているのであって目的や機種を問わず全国から集めさえすれば良いという訳ではない。元あった場所で必要とされるタイミングで使えない可能性があるし、用途に適さない機体もある。

 格納庫や駐機場所が不足することは容易に予測でき、機体を野ざらしにすれば飛行前の安全点検に支障が出かねない。ヘリコプターは飛行時間25時間ごとに点検・整備が必要となるが、その点においても1箇所にそれだけ集めたところで追いつかない。

 また、着陸できる場所も少ないとされる中でむやみに数を増やしても着陸できず戻ってくるヘリが多くなる=無駄足が増える可能性が高い。自衛隊は普段から厳しい訓練を積んでいるが、民間パイロットは違う。任務(仕事)の内容や飛行する場所、着陸する場所の経験が違う。操縦手の技量の違いを考慮に入れていない。

 大体、そんなに数を増やして空域管制はどうするのか。さすがは歩く人災、Mr.見当違い、言うことが違う。金で何でも解決できると思っている。想像力が無い。世の中は氏の言うことの反対をやれば大体うまくいく筈だ。

能登半島の復興を諦めて移住するべき」に対して

 能登半島に限らず日本にはあらゆる辺境に村落があり、地震陸の孤島となる可能性がある。そんな場所に住むのはやめて、どこか地方都市へ集中的に移住すれば良い、という意見がある。正直、私もそう考えたことはある。

 確かにそれは合理的ではあるが、人間はおいそれと住み慣れた地域を離れることは出来ない。まず人間的な感情への配慮が欠如している。憲法に記載されている通り人間には居住の自由があり、どこへ住むかは自分で選ぶ権利がある。そこで合理性にもとづいて移住を強制ないし強要することは出来ないし、それに応じないからと災害支援を停止することは非人道的。

 また、その地域に根ざして生計を立てている場合は移住する=失業するであり、年齢や経験によっては移住前と同等の収入が見込めない、就職自体が困難となる可能性がある。たとえば能登町の産業紹介を見ればブルーベリ―や能登牛が特産品、稲作、定置網漁、イカ釣漁業が盛んとある。いずれも能登半島から離れて維持することは不可能。移住すれば職のみならず土地などの財産も放棄することとなる。他人事だと思って簡単に移住と言うが、それで発生する損失の補償を誰が出来ると言うのか。

 「離れても土地は土地で権利がある」と思う人間もいるだろうが土地、特に山や農地は人の手で維持管理してこそ価値が維持される。所有権は残るかも知れないが資産価値が落ちるのは確実。

 第一、地震から逃げることだけを優先すればアフリカなりどこなり、地震のない国へ移住するべきだ。しかし、なかなかそこまでは出来ない。なぜか。結局我々はこの国の生活に慣れている。この国の生活水準を捨てられないからである。それがなぜ地方都市相手だと捨てるべきと言えるのか。

余談:地方を空にするということ

 どこかの地方都市をゴーストタウンにしたと仮定しよう。果たしてそこはいつまでもゴーストタウンのままだろうか。ひょっとすると不法滞在の外国人が町を”居抜き”するかも知れない。事実上占拠してしまえば人道上の問題からおいそれと強制退去もさせられない。日本版ファベーラの誕生である。

 蕨市などの一部自治体ではすでに外国人が幅を利かせるようになっており、非現実的とも言えないだろう。一部だけでも国土をカラにするという事は、今やそうした危険も孕んでいる。

 震災対応を口実にさっそく予備費を倍増などと言い出したのには閉口した