ヤマネコ目線

大体独り言、たまに写真その他、レビュー等

震災対応、「なぜ出来ないのか」について考える

 X (旧Twitter)で政府行政への震災対応批判を見ていると、物事を単純かつ簡単に考え過ぎな批判が目立つように思う。そこで目についたものに関して書いておく。もちろん、今出来ないことで不満があることは将来的に改善されれば良いと思う。が、それでも解決が難しいことはある。その辺りも含めて簡単に考え過ぎている人が多い。

もっと迅速な人員・物資展開が出来ないのか

 地形の問題に尽きる。能登半島はほぼ山間地であって通っている道も少ない。

能登半島 地形図(GoogelMapより)

 同じ縮尺で能登町付近、仙台付近のGoogleMapを見てみると下図のようになる(これが全ての道路という訳ではない)。左が能登町付近、右が仙台付近。仙台、石巻あたりであればそれなりに広い平野部があるが、能登半島能登町輪島市、島の先端が少しなだらかかな、という程度で人員展開のハードルは元から能登半島のほうが高い。少ない道路、それも山あいを縫うように走っている道路が多い中では使用不能なルートから迂回するにしても選択肢が少なくなる。崩壊した道路の復旧も容易ではない。

主要道路比較 GoogleMapより

 下手に現地入りしようとするなと政府行政が呼びかけるのもうなずける。自衛隊の車両が列をなしているのも報道されていたが、それだけ移動にハードルがある地域なのだ。ヘリで空輸するにしても限界はあり、救援物資の数や着陸できる場所、被災地のニーズなど考慮するべき要素は多い。

 ヘリでの展開や救助、支援物資の配送をもっと出来ないのかという声もあるようだが、ヘリならばどこでも着陸できるという訳でも無いし、着陸地点から物資を輸送するには結局陸路の輸送手段も必要になる。人員輸送もただ輸送すれば良いという訳ではなく、どこまでの能力のある人をどの場所に送り届けるべきか、というのをとっさに判断するのは難しい。ここはゲームの世界では無い。

 極端な話、医者をけが人・病人がいない場所へ送り届けても意味が無いし、自衛隊員を病院へ送り届けても意味は無い。迅速さは求められるがただ早ければ早いほど良いという訳ではない。

熊本 主要道路(GoogleMapより)

 東京新聞熊本地震に際しての自衛隊の動員人数を単純比較しているが、地形図を見ても部隊展開の難易度の違いは一目瞭然。熊本市能登半島では地形的な立ち位置が異なっており、そこで「熊本地震の時は~人だったのに能登半島では~人しか展開していない!」、などと怒りを煽るような記事は悪質である。

 人員の投入方法についても「戦力の逐次投入は~」という批判があるが、それが悪手とされるのは戦争、戦闘行為における話であり災害対応においては必ずしも誤りという訳ではない。言っている人間はそれっぽい事を言って批判したいだけなのだろうが、戦力の逐次投入が悪手とされる理由は

  1. からしてこちらの動きが読まれやすくなる
  2. 状況に対応するための情報収集・分析が追いつかなくなる
  3. 相手の方が強い場合、こちらの戦力がすり潰されるだけになる

 などで、いずれも軍隊あるいは武力集団を相手としての立ち回りの話。災害対応における話とは通じない。強いて言えば情報収集が追いつかないうちにむやみに人員を投入するべきではないというのはあるだろうが、東京新聞から批判されるレベルで情報収集・分析を上回るような人員配置はされていない。

なぜ別の場所での訓練にCH-47を回すのか

 「使えるCH-47があるならなぜ全部被災地に回さないのか」という意見だが、使えるからと必要以上に戦力を投入するのはそれこそ悪手である。別の場所で別の災害が発生する可能性もある。素人が自衛隊の運用に口出ししても無意味。

報道ヘリから物資を投下できないのか

 何かしら大きな災害の時に言われる言説の1つで、根底には「どうせヘリを飛ばすならついでに支援物資も運べよ」といったタダ乗り根性気持ちがあるのだろう。

 しかし、報道ヘリの役割はあくまで報道のための映像を撮影することであって、使用されるヘリ自体が期待されるような物資輸送に適したものでは無い。お気持ち程度の物資を届けようと下手に低い高度を飛べばドクターヘリや自衛隊の輸送ヘリの邪魔になる可能性がある。実際、映像だけ見ていると分かりづらいが報道ヘリは高い位置から高性能な望遠レンズとジンバルでの撮影を行っている。

 どのような物資をどのような手段で、どこまで輸送するかの立案はそれこそ災害対策本部や自衛隊の仕事であって、その辺りについて素人同然の報道機関にヘリでの物資輸送を求めるのはお門違いである。

重機を大型ヘリで輸送できないのか

 油圧ショベル(パワーショベル、いわゆるユンボ)を自衛隊の大型ヘリCH-47で輸送できないのか、と考えている人はそれなりにいるらしい。確かに空輸できれば道路の状況うんぬん関係なく瓦礫の撤去・救助に役立ちそうではある。

 しかし油圧ショベルのクラス分けを確認すると、ミニショベルと呼ばれるもので一般的には6t未満。土木工事で広く使用される中・小型クラスとなれば30t未満といくら大型ヘリでもそのまま吊り下げて輸送するのは難しい重量となる。

 資料(後述)によれば「自衛隊保有する大型ヘリコプター(CH-47)は吊り能力が 6t 程度ある」とされているが、これでは期待されるような大きさの油圧ショベルを空輸することは難しい。先の記事でも書いたがそれよりも水、食料、毛布等の優先するべき物資がある中ではさらに優先度は低い。

 「吊り能力が6t」とあってCH-47の最大積載量約10tとは差があると思う人もいるだろうが、「載せることが出来る」のと「吊り下げられる」は違う。機内にダンボールの物資を載せるのと、機外のフックに荷物を吊り下げるのでは当然ながらフックの強度面で吊り下げ可能な重量のほうが少ない。

 また、「吊り下げられる」のと「安全に運べる」も別問題である。空を飛ぶので基本的に機体は不安定、それも機体の下に重機など吊るせば風の影響などもあってどうなるか分からない。安全性を考慮した上での吊り下げ輸送能力はカタログスペックよりは低くなるだろう。

 災害時における重機の空輸は、政府行政も検討して来なかった訳ではない。詳細は下記資料が詳しい。CH-47の吊り下げ能力を最大限に生かした場合でも油圧ショベルは7分割と想定されており、組み立てるのもそれぞれのパーツの重量を考えると容易では無い。別の重機が必要なレベル。実際、下記資料の組み立ての章では小型クローラクレーンが使用されている写真がある。

空輸対応型建設機械の効率的な運用に向けた取り組み 

https://www.skr.mlit.go.jp/kikaku/kenkyu/h26/pdf/03.pdf

  どんな重機がどれだけの重さがあって、自衛隊のCH-47がどれだけの重さを安全に吊り下げ空輸できるのかなど普通は知らない、というのは理解できるが、それを知らないままで批判するのはいかがなものか。

ドローンで物資を配送できないのか

 日本においてはドローンに面倒な法規制が敷かれており、ドローンを使用したサービスなどに平時から高いハードルがある。飛行禁止エリアの設定はもちろんのこと、人や物件などと30m以内で飛行させるためには地方航空局からの承認が必要となる。その他、目視外を飛行させたり物資を投下するためには同様に承認が必要であり、被災地支援をするためには運用上の限界が大きい。

飛行の方法に関する規制 (drone01.com)

 搭載可能な重量や航続距離の問題もあり、むやみにドローンを飛ばすよりは空域をすっきりさせた状態で通常のヘリによる物資輸送のほうが効率的だろう。

あれを増やせこれを増やせ

 一部で「オスプレイや旧式戦闘機なんかに税金を無駄遣いしてないで、LCAC(大型ホバークラフト) のような最新装備に金をかけろ」という批判があるようだ。しかしLCACの方がオスプレイより古い。LCACの調達開始が1982年に対し、V-22オスプレイの量産が認められたのが1994年である。

 旧式戦闘機が何を指しているのか知らないが、そうした方々にとっては「視界に映る目新しいもの」が「最新式」らしい。一般的な「最新式」は”自分にとって新しいもの”では無い。

 また、その手の都合の良い批判をしている方々と近しいと思われる日本共産党LCACを侵略的兵器だとし、取得に反対してきた。共産党 LCAC」で調べれば訓練までしっかり批判している記事が出てくる。都合に応じてある時は兵器を買うな訓練するなと言い、またある時はもっと増やせと言う。一体どっちなのか。愚かなクレーマーの言う事を聞いていてはろくな事がない。何も前に進まないし困った時には立ち尽くすしかなくなる。

 同じようなものでレッドサラマンダー(全地形対応車)ももっと増やせという声があるようだが、あまり出番がなく「宝の持ち腐れ」と揶揄されてきた経緯がある以上、おいそれと増やせまい。増やすと言ってもタダでは無いし、モノ自体は海外製で軍用レベルの代物なのでおそらく費用はバカ高い。もちろんそれだけの価値はあるだろうが、いざという時に使えるような配備、維持、訓練にはあらゆるコストがつきまとう。それも込みで増やせと言っているのか甚だ疑問である。

trafficnews.jp

news.yahoo.co.jp

余談:橋本琴絵氏によるデマ

 氏いわく「自衛隊車両を緊急車両に指定できないのはおかしい。これは反日勢力のせい」らしいが、自衛隊車両は道路交通法施工例第13条(緊急自動車)の二

 自衛隊用自動車(自衛隊において使用する自動車をいう。以下同じ。)のうち、部内の秩序維持又は自衛隊の行動若しくは自衛隊の部隊の運用のため使用するもの

 とある通り自衛隊車両は緊急車両に指定可能である。また、同法第13条の2に

 前項に規定するもののほか、緊急自動車である警察用自動車に誘導されている自動車又は緊急自動車である自衛隊用自動車に誘導されている自衛隊用自動車は、それぞれ法第三十九条第一項の政令で定める自動車とする。

 とある通り、緊急自動車に指定されていない車両でも緊急自動車に誘導されている車両であればそれと同様の扱いを受ける。

elaws.e-gov.go.jp

 なお、第三十九条第一項は緊急自動車の通行区分等。詳細は下記参照。

道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)関係規定(抜粋)|厚生労働省

 

 国保守を標榜していたずらに危機感を煽るために平気で嘘をつく、デマを流す、それを間に受けて同調し、「国を憂う志の高い者」としての自分に酔っている無知蒙昧な連中、心底軽蔑する。