ヤマネコ目線

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原発処理水の海洋放出の是非

 政府は福島原発で出た処理水の海洋放出を決めた。これを巡ってネットでは賛否両論が聞かれる。

news.yahoo.co.jp

誤解と事実

 ネットで散見される意見の中に「中国や韓国、フランスが300兆~1京ベクレルといった桁違いのトリチウム濃度処理水を排出しており、日本は福島から出る22兆ベクレルの汚染水しかない、なので中韓に文句を言われる筋合いは無い」、といったものがあるがこれは誤り。処理水だか汚染水だか言い方はさまざまあるにせよ、そうした水は原発が事故を起こさないと発生しない訳ではない。問題のない原発からも発生するものである。放射性物質の塊である核燃料は停止中の原発であっても冷却し続ける必要があり、それには当然、水を使用する。なので停止させていても放射性物質を含んだ水は発生する。

 でなければ福島レベルの原発事故を起こしていない中国や韓国、フランスから海洋放出される汚染レベルが日本を優に超えることなどあり得ない。日本から出ている汚染は決して福島からのたかだか22兆ベクレルだけではなく、政府やマスコミがあえて喧伝しないだけで実際は年間約380兆ベクレルのトリチウムを海洋放出している。下記、経産省の作成した資料(PDF)、26ページにも書いてある。

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/009_04_02.pdf

 22兆ベクレルのソースは新聞だか何だかのポンチ絵だったと思うが、それを論拠にして中韓を批判する人間がいるあたり、いかに人は自分の主張にとって都合の良い情報を信じやすいか。自戒しなければならない。もちろんメディアも悪い。同じく海洋放出している立場から日本だけ非難される筋合いも無いのだが。

 イメージとして事故を起こした原発とそうで無い原発から出る処理水、汚染水という違いこそあれ、実際は今さら海洋放出がどうのと言っても遅い感じがある。福島の海産物は避けるとか何だとか言ってる人は実際にいるのだろうが、どこだろうと海水にも雨にも多少のトリチウムは含まれている。逃げ場なんか無い。風評被害だ何だと言うが逆に考えればお気持ちの問題だけである。何ならトリチウムを含んだ水は自然界にも存在するし、過去の原爆実験で発生したものも残っている。

 もっともトリチウム三重水素、水素の同位体であり、冷静かつ科学的に考えれば濃度が低い以上、あまり怖がる必要は無い。レントゲンや飛行機での宇宙線への被曝と同じでそれが健康被害に直結することは無いだろう。放射性物質といってもそのエネルギーは低く、β線が出るものの人間の皮膚さえ貫通できないとされる。知っている人は知っているが、放射性に反応する蛍光物質と組み合わせ、夜でも電池無しで文字盤が読める時計などにも利用されている。主に軍用だがトリチウムライトで検索すればキーホルダー的なものも出てくる。輸入する場合は放射線障害防止法の規制に注意。

 以上のようにトリチウムは基本的に無害と思われるが、長い目で見れば世界的に原発の建設が加速し、海洋放出されるトリチウムの量が増え続ければいずれは何かしらの影響が出てくる可能性はあるかも知れない。人類は産業革命からの大気汚染、公害の歴史から何を学んだのか。

 結論として、汚染濃度を他の原発から出るレベルと同水準にまで管理して海洋放出する分には問題無いだろう。ほかの原発から出る処理水だか冷却水だかと何ら変わり無いのなら反対する理由は無い。中韓がしているのは単なる嫌がらせ行為。日本人でも風評被害をある種の飯の種にしょうとしている連中がいるが最低の人間だ。一方で他の原発、他国も含めてそうした水を海に放出し続ける是非は考え直す必要があるのではないか。

 一部の人間は処理水を海洋放出するなと言うが、ではどうせよと言うのか。貯め続けるには限度があるし管理にもコストがかさむ。そこに地震などが来れば結局はタンクが破損するなどして水は放出されることになる。人的被害も出る可能性が高い。ならば少しずつ処理できる内に、基準内で海洋放出した方が安全かつ影響が低減できるだろう。

 中国の報道官は水を蒸発させろだのとバカなことを言っていたが、トリチウムは水素の同位体である。つまり水と変わらない。水の一部であって不純物では無いので、トリチウムを含む処理水を蒸発させたところで後にトリチウムだけが残る訳ではない。そんな簡単に分離できるなら最初からやってるわ阿呆が。

放射性物質だけではない原発処理水の問題

 放射性物質もさることながら、原発から放出される水はその温度もかねてより問題視されてきた。冷却水=熱せられた水な訳で、対策は取られているとはいえそのエネルギーは原子力由来であり膨大である。1秒間に70tの海水を7℃も温度上昇させるとされている(下記リンク参照)。

https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-059-10-03-g112 

 海水温上昇が叫ばれている中で、原子力で海水を温め続けているようなもの。これが自然界にとって良いはずが無い。対策は取られていると書いたが正直それは根本的なものではなく、取り込む水を深層水にする、漁場から離れた場所で排水する程度のもの。トリチウムよりもこちらの方が短期で見れば影響は大きいような気もする。

余談:処理水は飲めるか

 安全性の証明として岸田総理や誰かに処理水を飲めという意見もあるようだが、飲用水として作られた訳ではない以上、大腸菌など人体に害をなす要素はトリチウム以外にも多々あるため処理水を飲んで安全性をアピールというのはいささか乱暴である。そんなPRをしても危険だ危険だと騒ぎたい奴は騒ぐし漁業関係者の不安は晴れない。飲むとしても1度だけ、コップ1杯のトリチウム水を飲んだとて一体何になると言うのか。それで本当に安全だと思うのか。

 それにしてもプラスチックゴミに二酸化炭素に海水温上昇にトリチウムに、我々は本当に母なる海を汚し過ぎかも知れない。「人間にとって影響がある/ない」だけで物事を考えているが、それは見方を変えれば人間にさえ影響が無ければ良いという人間本位の考え方だ。自然界はもっと繊細で厳しい。我々はいずれ、それを嫌でも思い出させられるのだろう。