ヤマネコ目線

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5Gでアタマは焼けない

 「Wi-Fiの周波数は電子レンジと同じだからアタマがチンされる」、この手の与太話は昔からあるが、5Gでもそれは変わらないらしい。周波数や電波といった分かりづらいものを「分からないまま」にし、あえて得体のしれない脅威として煽る事で、自分は他の人間とは違い見えない脅威を知っている特別な人間なんだ、と思いたい無知で怠惰な人間が好む話題である。

そもそも5Gは使用周波数帯が違う

 5Gの使用周波数帯はこれまで言われてきたWi-Fiの周波数と異なる。どの周波数帯が主流になるかはまだ確定していないようだが、国内で言えば3.7GHz、4.5GHzおよび28GHz帯である。従来の陰謀論者というかエセ科学信者の主張では、Wi-Fiなどの電波でアタマが焼ける理由は電子レンジと同じ周波数、2.4GHzが使われているからとの事だったが、周波数が変わっても彼らの主張はなぜ変化しないのだろうか。

 さて、ここでなぜ電子レンジが2.4GHz帯を使っているのか(Wi-Fiと同じなら下手すれば電波干渉するのに)を考えてみよう。理由は単純で水分子を振動させるのに都合が良い周波数だからである。ご存知の通り、電子レンジは食品に含まれる水分子を電波で揺らし、エネルギーを与えることで加熱している。古い電子レンジではターンテーブルのような台が付いているが、あれは計量器になっていて、食品が加熱される→水分が加熱され蒸発→食品が少し軽くなる、というのを検知して食品がきちんと加熱されているかを確認するためのもの。

2.4GHzは水に最適化された共振周波数ではない

 さて、ここまでが一般的な話だが、2.4GHzという周波数を使うのは水の共振周波数だからという訳でもない。エネルギーを水に与え、かつ波長が短すぎない(=食品の奥まで入りやすい)波長で、マグネトロン(マイクロ波発生器)で発生させやすい周波数だから、といった理由であると思われる。

 逆に5Gで使用されるより高い周波数(=波長がより短い)は、電磁波として物体の奥まで入り込む力が劣るため、電子レンジの原理で考えるならむしろより安全である。

 ここで周波数と伝搬について書いておくと、一般的に周波数が低い(波長が長い)波は遠くまで届き、物体の内部にもより通りやすい。周波数が高い(波長が短い)波はその逆で、遠くまでは届きづらく、物体の内部までは通りにくい。プールの中を進む人をイメージしてもらうと分かりやすいと思う。

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模式図 伝搬

 上の模式図のように、プールの中を人が赤い線に沿って進む場合を考える。振れ幅(振幅)は同じで周波数(波長)だけ違う。人を物質の中を伝搬する電磁波とすると、どちらが先に疲れ果てるだろうか。同じような体力の人同士なら、もちろん細かく右往左往しなければならない方(=波長が短い方)が先に疲れて動けなくなる。

 つまり、周波数が高い(波長が短い)とエネルギーは高いがそう長くは伝搬しないし、物体の奥まで届く力も弱い。

エネルギー密度

 波長云々はさておき、Wi-Fiでアタマがチンみたいな話で肝心なのはエネルギー密度だ。Wi-Fiのような通信に使用される電波はそもそも電子レンジほどの出力を扱っていない。ましてや空間を伝搬する電磁波は距離の2乗に応じて減衰するため、電波の発信源から離れれば離れるほど強度は弱くなる。放射線についてもこれは言える。Wi-Fiはもともと電子レンジよりずっと弱い出力なのに、更に離れた場所にある人間のアタマを加熱など出来はしない。徐々に加熱、などと思ってる人間も居るかも知れないが、ごく微弱な熱を徐々に加えても物体は沸騰しない。それなら太陽光を浴び続けるだけで死ぬ筈である。

 電磁波のエネルギーは周波数だけで決まるほど単純ではない。もし周波数だけで決まるなら、あらゆる周波数を含む太陽光は大きな脅威だろう。電子レンジは使用する周波数だけでなく、あの装置の内部でエネルギー密度が高い空間を作り出しているからこそ、食品を加熱出来るのである。レーザー光も危ない理由はエネルギー密度で、周波数だけで言えば可視光と同じ(赤や緑)のものがある。レーザーが危ないから赤や緑の色が危険だ、などと言えば笑いものになるのに、なぜ電子レンジの周波数と同じだからWi-Fiは危険、なんて平気で言えるのか。騙されないで欲しい。