ヤマネコ目線

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技能実習生の今後と実態

 技能実習生制度が変わりつつある。と言っても今年や来年に変わる訳ではなく、しばらくの猶予期間を経て新しい制度へ変わることが見込まれている。予測では2027年あたり。

 以前書いた記事 ↓ もあるが少し内容が変わる。

manuller416.hatenablog.com

「コストカット」から「人材確保」へ

 これまで、技能実習生はコストカットのために雇われることが多かった。少しでも安くしなければ日本人は商品を買わない。安ければ安いほど売れる。そのために外国人を最低賃金と悪待遇に置き、転職も認めない技能実習生制度は現代の奴隷制であると国際的に非難を浴びて来た。これを変えることが制度改革の大義名分と言うべきか、理由である。

 一方で日本円の価値が落ち続け、賃金が低い上に待遇も悪い日本はオーストラリアや韓国などに優秀な人材を取られつつあることが現状であり、その中で待遇を改善してより国際的な人材=出稼ぎ労働者、労働力を確保しようというのが制度改革の本当の目的と言える。今さら改革に乗り出したのはそうした実利の面が大きい。

 実際、令和4年賃金構造基本統計調査(下表)を見ると平均とは言え技能実習生で月収約 177,000円。特定技能に至っては月収 200,000円を超えて来ている。もはや下手な日本人のパートよりも高い。

 注目すべきは金額だけでなく対前年増減率(%)≒賃上げ率で、いずれも5%オーバーと高い水準となっている。参考までに2024年1月配信の記事、春闘での賃上げ率について報じた記事では「平均で3.85%と、30年ぶりの高い水準となった去年を上回る見通し」とある。外国人労働者は元が低すぎたゆえか、日本人よりも高い賃上げ率となっている。

www3.nhk.or.jp

 つまり外国人労働者をコストカットのために雇うのではなく、単純に、純粋に少子化や待遇の悪さ故に敬遠されている業界の人手不足を解消するために雇うケースが主流となりつつある。人手不足解消のためという理由は以前からもあったが、これからの制度設計ではよりその側面が強い。

 ちなみに出入国管理庁によれば、令和4年末には既に在留外国人は300万人を突破している。永住者は+約 32,000人。

https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00033.html

「出稼ぎ」から「永住」へ

 これに伴って外国人労働者の将来設計も変化しつつある。これまでは技能実習という期限付きの都合の良い労働力であったが今、議論されている制度改革内容では母国へ帰らず永住することも十分視野に入るからだ。日本人が減り続け、待遇の悪い業界では人手不足が状態化している。そこで数年で帰る訳ではなく恒久的に働き続けてくれる労働力が日本全体として求められている。

特定技能とはどんな在留資格?制度や技能実習との違い、採用方法をわかりやすく解説 | 外国人採用サポネット | マイナビグローバル より

 上図を見れば分かる通り、特定技能2号まで行けば在留期間の制限が無くなる。図には無いが家族の帯同も可能。永住権は就労可能な在留資格を持ちながら10年間日本にいれば申請できる*1ため、在留期間に制限のない特定技能2号が一般化すれば永住権の取得は今より容易になる。現在も技能実習制度と特定技能を合わせて10年日本にいれば永住権の申請が可能*2であり、それを前提として来日している外国人もいる。

 技能実習生制度について無関心で未だに外国人労働者は期限つきの都合の良い労働力、日本に定住して増えたりする訳がない」、などと考えている者がいるならそれは大間違いと言っておこう。もはやこれは実質的な移民政策でもある。

 加えて外国人労働者にはキャリアアップのための制度設計も用意される。と言ってもこれは企業側が「用意せざるを得ない」よう制度的に誘導されるという話だが。外国人は育成就労( 3年、今の技能実習)あるいは特定技能1号として来日し、特定技能2号を目指すことになる。

 育成就労から特定技能1号へ、特定技能1号から2号へランクアップするためには試験を受けなければいけないが、その試験の合格率が企業別に公開されるため、当然ながら合格率が低い企業は敬遠されることになる。あるいはろくな人材が集まらない。となれば、日本人が来てくれない企業は人材確保のためには否が応でも外国人のキャリアアップのための教育体制を整えていくしかない。そうしなければ外国人にすら選ばれない企業になるから。

 逆に考えれば在留のためのハードルは今よりも上がる見通し。と言っても育成就労から特定技能1号へは技能検定随時3級と日本語の基礎的な試験で上がれるので、基本的には育成就労3年+特定技能1号5年の計8年間のキャリアが積める。日本語能力試験の合格基準も設けられるので、あまりに日本語が出来ない外国人は弾かれる・・・はず。

 さて、こうしたキャリアパスが明確になっている日本人労働者は一体どれだけいるだろうか。明確になっている、なっていて当然と言えるのは恵まれた部類ではないだろうか。制度改革の有識者会議が打ち出した改革のための3つのビジョンは

  • 外国人の人権保護
  • 外国人のキャリアアップ
  • 安全安心・共生社会

であるが、もはや日本人の待遇改善よりも熱心に見えてしまう。人権保護は当然ながら必要だが、ここで言う人権保護は主に職業選択の自由=転職の自由であることは留意すべきであろう。これはかねてより欧米からの批判が強い。

 とは言え韓国や台湾などの技能実習と類似の制度でも転職は原則不可であり、日本だけがことさら厳しい訳ではない。文句を言いやすいから日本に文句を言ういつものパターンな気もする。そこであえて欧米に寄せて転職の自由を認め、外国人からして少しでも魅力ある制度設計にすることが人材獲得競争においては有利に働く面もある。

 転職は制限付きで認められる見通しで、育成就労(現在で言う技能実習)の場合は就職後1年~2年は転職不可。1年にすべきか2年にすべきかは揉めている。と言うのも就職して1年で転職を可能にしてしまうと、外国人はさっさとより賃金の高い都市部の企業へ流れてしまう=地方の人手不足が解消しないから。なので最低でも2年は居させるべきとの声が強い。

 何にせよ単なる出稼ぎ労働者の確保ではなく、永住を視野に入れた人材確保・移民政策へと本質がシフトしつつある。少なくとも私にはそう見える。

その他の内容

 特定技能は限られた産業分野にしか認められない方針だがそこに林業・木材産業・鉄道業・運送業を追加することが検討されている。このうち運送業については運転マナーを懸念せざるを得ない。日本に来る外国人はベトナムインドネシア、中国、インド、カンボジアなどでいずれも運転マナーが良いとは思えない。当然ながら企業として講習は行うだろうが、中にはあえて日本語の通じにくい外国人に過積載で運送させるような悪質な業者も出る可能性があるのではないか。それにしても警察も大変だ。違反で停止させたらあまり日本語が通じない外国人だった、という事が起こり得る。いや、警察官も外国人がやるのか・・・?通訳は必要か。

 育成就労(技能実習生制度)については別の面でも環境が厳しくなる見通し。と言うのも外国人労働者が日本へ来るための費用を企業が負担するべきという指摘があり、その一部を負担することとなる可能性が高い。加えて在留条件が厳しくなって転職も可能=送り出し機関が変更される可能性がある以上、送り出し機関は少しでも利益を確保しようと管理費用を上げたり一括請求するようになる。総合すると

  • 敬遠されないように高い賃金を提示し
  • 来日のための費用を一部負担し
  • 送り出し機関にも今より高い管理費用を払い
  • キャリアアップのための教育体制を構築

する必要がある。もはや人手さえあるのなら日本人を雇った方が遥かに楽(でも来てくれないものは仕方ない)という感じ。なお、ここまでして受け入れた外国人がさっさと転職しても労働基準法第16条によって違約金等を請求することは出来ない。

 厳しいと言えば厳しいが、唾棄すべきブラック企業がこうした制度設計によって駆逐されそうなのは喜ばしい点でもある。まっとうな企業にならなければ選ばれない、定着しない、事業が存続できない。もっとも、安く買い叩く消費者心理も変わらなければそういった企業も無くならないのだが・・・(怪しい外国人労働者斡旋の業者の電話とかたまにあるし)。

余談:将来への危惧

 日本国内に永住する外国人はさらに増えるものと思われる。今以上の治安悪化は当然あり得るし、宗教絡み(特にイスラム教)のトラブルも増えるだろう。何より数が増えてくれば彼らの政治に対する意見を無視することはますます難しくなる。そうなれば限定的であれ、外国人参政権を認めるべきという動きは確実に出て来るだろう。そうなった時に日本の政治はどこへ向かうのか。良い方向へ向かう可能性も無くは無いが(そもそも日本人が舵取りを間違え過ぎているし修正できる見込みも少ない)、懸念すべき面がある。

 日本という国が何をしたいのか、政府がこの社会をどうしたいのかも危惧せざるを得ない。現状を客観的に見れば日本国民を苦しめて少子化へ追いやり、一方で人手不足を口実にどんどん外国人の流入を推奨している。はっきり言ってこれは日本国民、主権者に対する敵対行為ではないか。日本人絶滅計画とまで言わないまでも、それに近い所がある。

 いわゆる保守、エセ保守はそれでも自民党を支持し、高市早苗あたりを持ち上げて復古主義的な社会を目指すのかも知れないが、他ならぬ自民党が一番この国を壊し続けていることにいつ気づくのか。外国に媚を売って自国民を苦しめ、保守的に理想の正義感など一片たりとて持ち合わせていない。裏金問題でも政治家連中には潔さの欠片も無いではないか。野党が弱いのは理解できるし消去法で自民党、という意見も多いとは思うが、このまま自民党に任せ続けてもろくな事にはならない。

 若者に「政治に興味を持て」と言うのであれば興味が持てるような政治にするべきであるし、興味を持っていてもどんなに悪政を敷かれてようが政治を変えようとしないのは「興味が無い」のと何ら変わりが無い。

*1:審査はあるが素行が悪くないこと、納税をしていること等、普通に生きていれば通る

*2:就労可能な在留資格で10年が永住権取得の大前提