ヤマネコ目線

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技能実習生制度が変わる件

 悪名高い技能実習生制度が変わろうとしているので、それについて。

news.yahoo.co.jp

(リンク切れ対策|記事題「未熟練労働者、3年で特定技能 技能実習廃止へ最終案 有識者会議)

何がどう変わるのか

 まだ有識者会議の最終案という段階なので確定した話ではないが、ざっくり言えば技能実習生制度そのものを無くし、建設や農業などの限られた業界において「特定技能第1号」相当の人材育成のための新しい在留資格が創設される見込み。技能試験や日本語能力試験に合格すれば1号で最長5年まで在留できると記事には記載されている。

 「日本で技能を習得させて母国で活躍してもらう」技能実習生制度の建前はもはや無くなり、外国人の中長期的な就労を促し、人手不足の解消につなげる」とも。

 実態としては現在の技能実習生制度の基礎部分を維持しながらも外国人を受入可能な業界を限定し、なおかつ外国人の労働者としての保護を厳格化すると言った所だろうか。近年、技能実習生の失踪が問題視されており、そうした問題を防止するためにも制度そのものの見直しが求められていた。

 特に大きな要素は「転籍の自由」が認められることだろう。これまで技能実習生は転籍(=転職)の自由が許されて来なかった。一度入社した会社がいくらドブラックだろうと転職は原則不可。その事業所が閉鎖でもしない限り、帰国するか我慢してそこで働き続けるしか無かった。これが労働者の権利を侵害していると国際的に批判されており、次の制度から就労1年後に条件付きで認められる見通し。条件は今のところ「入社した企業と同じ業界で」「回数制限あり」といった所。回数制限や同じ業界内という縛りはまだ労働者の権利を侵害していると思うが、就労1年後の縛りはまあ、分からんでもない。いろいろと準備して受け入れてすぐ転職されては企業側が困る。

予測される問題

 こと転職の自由を認める点、これまで安い労働者の確保を目的としてきた企業、業界においては外国人がより良い待遇を求めてすぐに転職してしまうことがリスクになる。結局、人材確保のためには給与水準を引き上げる必要が出てくるので人件費が高騰し、物価高騰にはより拍車がかかるだろう。

 それでもコストカットというよりは人手の確保という点で外国人を雇いたい企業は多いだろうが、扱いの厳格化から新たな制度にかかる事務作業もより面倒になることは予測に難くない。日本語習得支援などの負担も増す。

 新たな制度への参加がそもそも認められていない業界があるのも大きい。特に繊維業界。これまで多くの問題を起こして来たため、新たな制度の対象からしばらく外される見込みが高い。衣食住の中で一番削りやすいのは衣服であり、かねてよりアパレル業界はコストカットに苦心して来た。それがいよいよ年貢の納め時という感じ。

 待遇改善となれば外国人労働者によって引き下げられていた国内の給与水準が改善されることも期待はしたいが、日本人よりも低い給与で喜んで出稼ぎに来る外国人が増えたところで一体何になるのか。日本人からすれば給与は上がらず物価は上がり続け、外国人労働者も増え続ける状況は変わらない。何なら永住者がこれまでより増えることが予測される。もはや完全に実質的な移民政策。

 なお、国内の技能実習生に多い国籍は中国とベトナムベトナムにおける日本の出稼ぎ人気は地に落ちており、中国回帰あるいはオーストラリアなどに行けなかった30~50代の外国人が仕方なしに日本へ働きに来ることが増えている。待遇悪い重税手取りが少ない上に円安と来れば人気が無くて当然。これからの人材はカンボジアからとも言われている。特に日本に来るための費用(借金、後述)はドル建てでしているらしく、円安が進む中では余計に出稼ぎ先としての人気が無くなっている。

 実際、私が関わる技能実習生も年を追うごとに人材としての質、意欲は落ちている。言い方は悪いがこれからは東南アジアの、それもかなり貧しい国からの移民を進めることになるのだろう。

これまでの技能実習生制度

 これまでの技能実習生制度についても書いておく。

 技能実習生制度の始まりは研修生制度という制度で、1960年代に日本企業が独自で始めた研修制度が発端とされる。明文化は1981年。年配の方が技能実習生を「研修生」と呼ぶのはここから。

 建前としては海外進出した日本企業が外国人を日本へ招き、現地法人で日本人が思うような仕事が出来るように研修、実習(=仕事での経験)を積ませることが目的であった。勿論それはあくまで建前であり、当時から研修生に低賃金で単純労働をさせる企業が相次ぎ問題視された。当時から待遇の悪さゆえに敬遠され人手不足に陥っていた業界に労働力確保の手段として利用されて来たという点で、技能実習制度は始まりからすでに狂っていたと言える。

 「実習」と「単純労働」はどう違うのかという話だが、ざっくり言えば研修や実習はあくまでスキルアップのための行動であり、同じ仕事を延々やらせるだけで無く、工場であれば様々な工程での作業を経験させるなどが該当する。機械を操作して製品を加工するなどの技能に関わりのある職務こそが研修としてはメインであり、シールを貼るとか袋詰するとかいう仕事は含まれない。あくまで建前での話だが。袋詰やシール貼りといった単純作業でも熟練の方が早いし正確だったりするが、そういうのはまた別の話。

 研修生制度の実態が建前と乖離してしまった上、低賃金や待遇の悪さなどの労働問題が頻発したために1991年、国際研修協力機構(JITCO)が誕生。1993年には技能実習生制度が整備された。整備された当初は最初の1年間を「研修」、その後2年間を「特定活動」と位置づけていたが、実態としては研修生制度とそう大差無かっただろう。

 驚くべきは2010年に入管法が改正されるまで研修生は労働者と見なされず、労働保護法の対象外であったことである。あくまで”研修”なので支払われるのは月約6万円の研修手当のみ。労働者では無いので残業は出来ないが、実態としてはサービス残業を強いる企業もあったようで、これが「現代の奴隷制」という揶揄を生むきっかけとなった。「揶揄」ではなく至極まっとうな批判であると思うが。

 こうした流れを受けて2010年にようやく入管法が改正され、在留資格としての「技能実習が誕生、期間労働法の保護対象となって労働者としての保護が確立された。2023年10月19日時点現在の技能実習生制度はそこから多少の変遷があれど、基本的にその流れで出来たものと言える。なお、「研修」から「技能実習」となった事で実習生は入国してすぐにでも残業をすることが可能となった。ただし、残業があまりに多い場合は実習計画にそれを反映させなければならない等の規制はある。あくまで計画を立てて行う研修、実習であるので、その計画に無い残業は改めて報告せよという建前。

 なお、残業と言うと私の世代からすれば悪のイメージしかない(サービス残業は滅ぼすべき文化)が、技能実習生として入国してくる外国人はむしろ進んで残業させろと言ってくる。建前はともかく彼らの実態は出稼ぎ労働者であるのでとにかくお金を稼ぎたい、稼げなければ意味が無い。残業すれば割増賃金を受け取れるので進んで残業したがる。彼らは技能実習生として日本に来るために送出し機関などに100万円ほどの借金(それもドル建)をして来るので、それをまず返せなければマイナスでしかない。なので必死。残業が少ないとそれに不満を募らせるまである。

 その後、第二次安倍内閣で人材不足、人手不足を補うために2019年4月に特定技能が創設された。技能実習を終えた外国人であっても移行できるようにしたため、技能実習(最長5年) + 特定技能1号(最長5年)の通算10年を就労しながら在留することが出来るようになり、永住権の申請も視野に入るようになった。特定技能2号になると家族の帯同(配偶者と子)が認められる。1号の場合はケース・バイ・ケースだが、既成事実を作ってしまえば認められる可能性が高い。

 そして2023年の有識者会議を経て、おそらく来年には新しい技能実習生制度の行方が決まると見込まれる。政府、政治家は少子化に対して的外れな認識しか出来ておらず止めるどころか加速させ、一方で実質的な移民政策を進め続けている。このまま日本人撃滅・日本の多民族国家化が進んで行くのだろう。いずれ日本人は少数民族になるのかもしれない。

 あえて書いておくが、顔見知りの技能実習生に「日本に来るためにいくら借金しているの」などと尋ねたりしないように。彼らはそういう話を決っしてしたがらない。向こうなりの恥の文化かも知れないので突っ込むのは野暮。借金返済を支援してあげると言うのなら少しは話をしても良いかも知れないが。

余談:扶養に入れられる外国居住者

 2023年以前であれば、外国に居住している親族を扶養するための条件がかなり甘かった。たとえ数万円でも送金さえしていれば送金額を問わず扶養に入れる事が出来たため、技能実習生の間では多くの親族を扶養親族として申請し、住民税や所得税を減らす節税方法が流行していた。

 これが問題視されて2023年からは扶養に入れられる条件が厳しくなり、30歳以上70歳未満の親族を扶養に入れる場合、障害者あるいは留学生でなければ1人あたり年38万円の送金をしないと扶養に入れることが出来なくなった。

 これまでの要件が甘すぎたとは言え、30歳以上70歳未満という年齢層は技能実習生の親世代を狙い撃ちという感じで非常にいやらしい。年38万円の送金という条件はなかなかに厳しく、個人的には酷だと思う。最低賃金に毛が生えた程度の賃金で働いている実習生は月の手取りが10~12万円程度しかない。それで両親を扶養するためには年76万円の送金をせよとは。76万円となれば12で割れば月約6万3千円。日本人の労働者でも厳しくはないか。

 安い労働力は欲しいが税金もガッツリ取りたい、税制において日本政府は自国民にも外国人にも血も涙も無いようだ。