ヤマネコ目線

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日本保守党は何者か

 作家(現在の肩書はYouTuber)の百田尚樹氏が新しい政党を立ち上げ、注目を集めている。日本保守党という政党名からしてなかなかに香ばしいが、彼らは一体どういう政党なのか。

政党としての主張

 後でこれについて書こうと思っていたのだが、公式サイトを見ても党員募集のお知らせやメンバー紹介などがあるだけで、具体的な政策が記載されていない(2023年10月2日現在)。まだ発足したてという事もあるが、やりたい事があるから政党を立ち上げたのでは無いのか。政策提言も無しに党員3万人が集まるのだから悪い意味で大したものである。一体何を見てその是非を判断しているのか。

 そも党員3万人という数字は凄い数字ではあるが、有名なYouTuberだと登録者10万50万行く訳で、それを考えるとまだ「多数の支持を集めている」とは言えまい。ちなみに新国立競技場のキャパで最大8万8千人。「保守的な野党」という立ち位置は目のつけどころが良いと思うが。自民党はもはや安全保障くらいしか良い所が無い。逆に言えば野党の弱点は安全保障である。

 はっきり言って、この政党は右翼層の不満に訴えかけてマーケティング的な成功を収め、国会議員となってそれっぽい事をしながらお金儲けをしたいがために創設された政治団体ではないのか、と思う。あくまで私がそう感じるだけだが、参政党だのN党だのと似たような感じ。そうでなくとも大衆に支持され得る政党とは考えづらい。こうした政党が大衆に支持され始めたら、次は国家が危うい。

 後述するが百田氏はたびたび問題発言、差別的な発言をしており、仮に政党が大きくなったとしてもその辺りの認識を問われる日が来るだろう。そこで「いつまで終わったこと言ってるんだ」という擁護は通用しない。擁護にすらなっていないが、野党議員に対してはいつまでも終わった事を掘り起こして責める人間がそのような事を言って開き直るのはただのダブルスタンダードである。

メンバーと推察

 公式サイトより確認できるメンバーは下記の2名のみである。

 百田氏は放送作家、小説家としての肩書の方が有名か。代表作は「永遠の0」、「海賊と呼ばれた男」。日本における「保守」の典型的な主張をしている人物でもある。たとえば2014年2月には田母神氏の選挙応援演説で以下のように述べている。

「戦後69年、問題が山のように出てきている。原因は何か。日本が戦争に負け、GHQ(連合国軍総司令部)が徹底した自虐思想を植え付けた。これは東京裁判のせい」「米軍は東京、広島、長崎の悲惨な状況を見て、やりすぎだと思ったのだろう。東京裁判はこれをごまかすための裁判だった」

 極東国際軍事裁判(通称:東京裁判)は数々の戦争責任者が裁かれた裁判であり、その裁判そのものを否定しようとする氏の発言には当然批判が集まった。が、百田氏は「私は言論封殺と断固戦う」としている。言論封殺うんぬん以前に的外れな言いがかりだと思うのだが。戦後の日本国民と自民党による失政の結果をGHQ統治時代にまで遡って責任転嫁するな。

 「自虐思想」あるいは自虐史観という用語は保守層の間でよく用いられるもので、自国に対する批判的・否定的な態度について批判的に用いられる。特に太平洋戦争における日本の過ちに関して、「反省の名のもとにあらゆる点において否定的になり過ぎた」というニュアンスが強いだろう。

 確かにあまりに自虐的、否定的になり過ぎるのも考えものだが問題はその先で、この用語を使う者は自国への肯定感を取り戻したいという気持ちの大きさ、大日本帝國という”強い国家”への憧憬からか、今度は「かつての日本は間違っていなかった」、「あの頃の日本に戻れば再びこの国は強い国になれる」というような復古主義的な思想を抱くようになって来る。これが太平洋戦争における日本の正当性主張や、東京裁判の否定となって表面化するのである。

 氏はこの他にも沖縄に関して「米兵が起こす強姦よりも沖縄人が強姦を起こす率がずっと高い」、などとも述べており偏見を隠そうともしない。むしろ偏見に対する正当な批判を「言論封殺」と呼んで封殺している。耳を塞いでいる。SNSでのエコーチャンバー現象からどんどん偏っていく人間にありがちなパターンである。

 ほかにも「韓国人はクズ」、「韓国とは国交断絶して戦争したい」など、外国人に対する差別的な発言もたびたび行っている。韓国の国としての姿勢(特に反日)にうんざりする気持ちは理解できるし、あまり協力的な関係になるのもリスクがあるというのは理解出来るが、公人として、政党の代表者として許される範囲を逸脱している。

 以上から、百田氏が立ち上げた政治団体復古主義的、かつ戦後からこれまで様々な不満によって醸成された右翼集団の幻想、思想を掲げるものであることは容易に推察できる。誤りを指摘されている日本国紀の内容を頑として修正しようとしない点からも、そうしたある種、古の美しき日本への幻想に囚われていることが分かる。誤りを認めて修正することができないという点のみにおいても、政治家としての資質に疑問を呈さざるを得ない。

 2人目のメンバー、有本香氏は奈良市生まれのジャーナリスト。チベット問題や中国の社会問題、インドの社会問題などを扱っている。出演する番組はワイドショー(TVタックルそこまで言って委員会等)、著書は中国に批判的な内容が多い(一定の正当性はあると思われるが)。百田氏との共著に「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史、「日本国紀」の天皇論がある。

 特段、政治に対する目立った発言は無く、ただビジネスパートナーとして参加しているだけではないか。ワイドショーなどではその場でウケそうな発言をしているのだろうが。

余談:国が傾けば保守は増える

 国が傾くと右翼的あるいは保守的な人間が増えるのは当然である。その国そのもの、文化が危機に瀕すればそれをどうにか止めようと守りに入る。それが過去の体制への回帰思想であったり、外国人の排除であったり、政治体制への働きかけであったり。

 政治が全体的に正しい方向で動いているうちはそれでもまだマシな方向へ行くのかも知れないが、日本のような与えられただけの実態の伴わない民主主義の下、失政と無関心の中でさらに時代に逆行しようというような動きは決して良くは無いだろう。

 それにしても、右翼は安倍元総理を信奉してアベノミクスの成功を疑わず、彼のおかげで国が良くなったと信じてやまない訳だが、そうした右翼の増加が何よりこの国が傾いている、悪くなっていることを証明しているのは何たる皮肉か。

 自称保守というだけで支持する訳にはいくまい。