安倍元総理の銃撃事件をきっかけに、メディアはまた愚かにも3Dプリンターを悪者にしようとしている。
3Dプリンターは確かに便利ではあるが
3Dプリンターは試作品製作においてかなり便利なもので、銃を作ったとの報告も確かにある。しかし3Dプリンターで一般的なFDM方式は熱で溶ける樹脂を積層して造形物を形作る。このため完成したものは常温でこそ強度があるものの、熱に弱く下手すれば炎天下の車内に置いておくだけで柔らかくなったりする(耐熱温度は材質によるが、一般的な家庭用3Dプリンターで使用される材質であれば100℃もいかない)。
当然、そのようなものを銃の素材に仕様するのは不安がある訳で、大抵の3Dプリンター製の銃は銃身だけ金属パイプになっていたりする。連射機能やマガジン(弾倉)に必要なバネなども3Dプリンターで作ることは出来ない。正直、私なら強度が不安で使えない。グリップ(持ち手)なども作れるだろうが、それなら市販のエアガン用アクセサリーパーツを買えば済む話。実際、私も3Dプリンターを持っているが何だかんだ言って既製品を使う方が安いし早いし確実。
何より、今回の銃撃事件の犯人のように本当に強い意思をもって人を殺そうとする人間に3Dプリンターがあるか否かなどは関係ない。使う人間の問題であり、3Dプリンターを規制するのであればホームセンターでの鉄パイプ販売も規制すべきである。もっと言えば、何も銃でなくとも最近規制されたボウガンのようなものを製作しても、殺傷力のある遠距離武器は実現可能。むしろ日本において銃を製作しようとする場合、問題なのは弾薬と銃身の強度計算。
実際、テレビなどでも解説されているが今回、使用された銃は銃身が鉄パイプ、それをダクトテープか何かでぐるぐる巻きにして水平2連ショットガンのようにし、パチンコ玉か何かをおそらく黒色火薬で発射している。発火装置はライターの点火装置でも使えば良いだろうし、3Dプリンターは本質的にほぼほぼ関係ない。結局、殺る奴は殺る。
こういった事件ですぐ安易に3Dプリンターを悪者にし、規制強化を働きかければドローンの二の舞いになる。せっかく便利なものが登場したのに、それを活かすことが出来なくなる。文化的、技術的にどんどん遅れていく。結局、道具は使い方次第、使う人間次第であり、最初から殺傷目的で造られた銃などではない以上、安易に規制に走るべきではない。そんなことをし始めればキリがない。何なら安倍氏が演説していたのは駅前ロータリーであり、車で突っ込むだけでも殺せる可能性は高い。もしそうなっていたら「自動車を規制しよう」という話が出ていただろうか。いや無い。
ネット情報の規制は必要か
山上容疑者がネットの動画などを参考に銃を製作した、と供述していることから、ネットの情報を規制する方向への動きがあるが、正直あまり賛成は出来ない。安易な情報統制を許すべきではない。
まず今回の件で規制を強化すべきは遠因ながらも元凶となったカルト団体であり、そこへの締付けを強化すべき。おそらく自民党の政治家にはまだまだ統一教会との関わりのある人間が多いのだろうが、まずそこを叩かなければ国民は納得しない。教団そのものが犯行を指示した訳でもないが、霊感商法の弁護団が指摘する通り、これまで名前を変えながら様々な問題を引き起こして来たのは事実。安倍元総理、岸信介氏がどういう関係だったかは詳しくは知らないが、今回の事件はそういったカルトとの関係が最悪の形で裏目に出たと言える。
警備体制も見直すべき点の1つ。海外の専門家が指摘する通り、何かあってから救急車を呼ぶのではなく最初から救急車を待機させておく。第一に素人目に見ても警備が薄かったのも事実。奈良県民としては、元内閣総理大臣があんな所であの程度の警備で演説していればそりゃ「狙い目」だわな、としか思えない。良くも悪くものどかな所なので、SPや県警もまさかあのようなことが起こるとは思わなかったのだろうが、それはプロとしては失格な訳で、今さら言っても後の祭りでしかない。
銃そのものの構造はそこまで複雑なものではない
武器製作に関する情報を規制するとは言うが、まず問題なのはその線引き。銃本体の構造はそこまで複雑なものではなく、それこそ戦国時代から日本に銃はあった訳で、今回の手製銃のように単発で撃てさえすれば良いならそれこそ鉄パイプと発火装置くらいで事足りてしまう。情報を規制すれば、というのはそういった本質が見えていないし、カルト団体の規制強化への流れから目を反らすための誘導でしかない。
一般的に「銃」と言われて想像される銃が複雑に見えるのは、現代の軍用銃が
- マガジン(弾倉)式で連発可能であること
- 有効射程が数100m以上で精度が高いこと
- セミオート(単発)、フルオート(連射)の切り替えが可能であること
- 場合によってはバースト(数発だけ連射)機能を持たせる
- 迅速なマガジン交換のためのボルトストップ機能を持たせる
- 2万発以上発射しても機能を保つなどの耐久性
- 泥、砂塵、水、冷凍に耐えられる信頼性
などの厳しく、かつ戦場において実用的で高水準な機能を要求されているためである。これらは絶対ではないが概ね現代の軍で要求される内容と言えると思う*1。中には銃の役割にもよるが「銃身が素手で簡単に交換できること」、「ハンドガードがレバーで着脱できること(ドイツ軍)」、「ストックに頬付けの高さ調整機能を付けること」などの追加の要求がある場合もある。
それでも、構造そのものは信頼性を高めるためにシンプルなものが多い。複雑化の一番大きな要因は連射機能で、それが無ければ構造はかなりシンプルになる。結局、今回の事件のように「単発で1度限りの使用で良い」のであれば作ろうと思えば作れる範囲。
日本において銃を作ろうとした時、一番の問題は先述した通り弾薬の調達である。猟銃用の弾薬はまず猟銃免許そのものの取得でハードルが高いし、そうである以上は既製品の弾薬を買うのが難しい。となれば市販の花火などを分解して黒色火薬を取り出す、あるいは調合するしかない訳だが、それはそれで細心の注意を払わなければならない。静電気にも注意すべき。
弾丸そのものはパチンコ玉だろうが釘だろうが至近距離で使う前提なら適当で良い。何なら石でも良い。そうして弾薬を用意したとしても、構造上の弱点があれば下手をすると銃身そのものが爆発し、射手自身が死ぬこともある。
ちなみにアメリカ軍の銃として有名なAR-15(M16, M4)でも構造上、水没させてから発砲するとアッパーレシーバーが吹っ飛ぶ可能性がある。それで射手が死ぬ可能性あり。YouTubeに実演動画がある。
何にせよ
自民党の高市早苗氏は武器製作に関する情報の規制を、と言っておられたが、それよりもまず規制を強めるべきは今回の事件の遠因となったカルト団体である。それとも、高市さんも統一教会とズブズブのご関係なのだろうか。そこから目を反らすために情報規制だのと言っているのだろうか。しかし今回のような事件が起こり、数々の問題が浮き彫りになったからには何らかの措置が必要である。
*1:バーストは廃れたが