ヤマネコ目線

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人材の空洞化

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資金不足に悩む研究者 / 出典 : いらすとや

 2019年8月、文部科学省 科学技術・学術政策研究所は米国や韓国など研究開発費の多い7ヶ国の内、日本だけが人口あたりの博士号取得者の減少傾向にあるとの調査結果を発表した。

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日本は研究者にとって魅力がない

 そのニュースを見た時、そりゃそうだと思った。今この国では技術立国の標語に反し、科学研究を軽んじる風潮がある。特に「すぐには役に立たない研究」が軽視され、研究予算を削られる、停止される傾向がある。博士号を取ってもやりたい研究が出来るとは限らず、そもそも自分の研究室を持てるかどうかすら怪しい。もてはやされるのは「すぐに役に立つ研究」である。

 しかし研究とはそう上手くは行かないもので、理論はあくまで理論、実際にやってみないと分からない事は多々あるし、その中で「すぐにでも世の中の役に立てます!」というものはそうそう無い。何でも理論通り、すぐに世の中に役立てられるような研究を狙って出来るなら誰も苦労しない。「すぐに何かの役に立つ」という研究はあるにはあるが、それは言ってみればそう苦労しないで辿り着ける範囲、ぱっと見で「あ、これは役に立ちそう」と分かる範囲なだけであって、本当に革新的で世の中を大きく変えられるような研究はそんな範囲にはない。

 そこで何が起こるか。「すぐに役に立つ」研究にしか予算が投じられないとなると、研究者は予算がないと研究が出来ないのでその風潮に合わせて「すぐに役に立つ」ような浅い研究しかしなくなる、出来なくなる。結果として研究者は自分が本当にしたい研究が出来なくなり、長い研究期間を必要とするような大きなテーマに関する研究は少なくなる。それも日本では高齢の研究者が予算も地位も握っているため、研究者になったとしても自分の研究室を持てるかどうかすら分からない。

 一方で中国は研究者の育成、誘致に力を入れている。待遇も給与も良く若い研究者でも自分の研究室を持つ事が出来るし、本当に研究したいものを研究することが出来る。博士号取得者が増えている国ではそもそも扱いが違うのである。もし自分が研究者だったらどうだろうか。日本で研究者になろうとして博士号を取得しても給与は低い、予算はない、そもそも自分の研究室を持てるかすら分からない。研究をしたいから、何かを追い求めたいから研究者になったのに、肝心の研究が出来ないのでは意味がない。そこで他国の研究者の扱いを知ったら、中国だろうと米国だろうと本当に研究がしたいのであれば海外に行くしか無いのである。そこで「じゃあ海外へ行きます」と言えるような研究者はどんな人材か。当然、優秀な人材である。そういう人材に限って海外へ出て行ってしまう。

研究者以外も出ていく

 以前、国内のプログラム大会で優勝した人がアメリカHP(ヒューレット・パッカード)に引き抜かれたという話を聞いた。要は研究者に限らず、海外に行けるだけの実力がある人材は海外へ出て行ってしまうのである。特にIT技術者はその傾向にあると思う。それもそうだ、海外で活躍でき得るような実力があるならば待遇の悪い日本企業で働くより、海外の企業で働く方が明らかに実入りも良いし能力を発揮出来るだろう。Googleは新卒初任給1,000万円を出すというニュースが数年前。その時、日本企業は人材獲得競争で絶対に勝てないと多くの人が感じたのではないだろうか。

 今や地球は平面、グローバルな時代で、海外で活躍しやすいならどんどん人材は海外へ出て行ってしまう。その中で日本政府、企業はどうするべきか。クールジャパン戦略なんてお笑いに予算を割いている場合ではないと思うのだが、技術立国だのロボット大国だのといった過去の栄光に眼が曇って何も出来ないのか。

人材の二極化と空洞化

 今の日本は中間層が子供を作りづらい環境にあると感じる。将来への不安、今現在の生きづらさを考えるととても「最低でも3人」などと抜かせるような状況ではない。子供を作れるのはそこそこ社会的地位のある人か、何も考えずに腰振りたいだけ振って子供を作った感じの人ではないか。そうなると予想出来るのは生まれの二極化。教育に十分お金をかけられる家庭と、塾の月謝はおろか給食費も払えないような家庭、そのどちらに生まれるかと言うような格差の拡大、生まれながらの格差。その格差はそのまま人材の二極化になって表れると予測する。方や単純作業しか出来ない人間、方や高度な技能を備え海外でも通用するような人間、そこで後者が海外へ流出し続ければどうなるか。起きるのは人材の空洞化である。いや、もうそれは起きていて、それが加速し悪化すると言った方が正しいかも知れない。

ではどうすれば良いか

 日本が現状から立ち直り、先進国としての地位を意地でも保つためには、今まで続いて来た技術者軽視、研究者の軽視を止めなければならない。それは言うほど簡単ではないし、どちらかと言えば変わらない可能性の方が高いと思うが、それでも人材の流出を止めなければ日本は先進国ではなくなるだろう。賃金も他の先進国に比べて低い水準のままで、将来、日本人が海外へ出稼ぎに行かないといけない時代が来るかも知れない。そもそも「日本企業は待遇悪いのが当たり前」という現状がおかしい。そんな状況で良いのか、経営者は悔しくないのか、恥ずかしくないのかと思う。つい最近、富士通が優秀な技術者には最大4,000万出すとしてニュースになった。しかしそれを見て感じるのは羨ましさより恐怖感だ。「日本企業でそれだけ出すなんてどれだけ働かされるのだろう」という恐怖感。昔と今は違うが、高校の化学の先生の兄はM電機で技術者として働いて、過労で血反吐を吐いて倒れたそうだ。そんな話を聞いているとなおさら思う。

 そして安心して子供を産み、育てられる社会の構築も必要になる。はっきり言って今のこの国はそんな状態にはない。別にテロだの紛争だのは無い訳だが、それ以外の不安が多すぎる。不安というのは厄介なもので、一度抱いてしまうとなかなかそれは離せない。「大丈夫」と言われても信用出来ず、むしろ不信感すら覚えてしまう。小泉進次郎氏は令和初の参院選で「年金は大丈夫」と言っていたが、あんなの何が根拠でそう言えるのか。無責任にも程がある。そういった中では子供という最高にお金も手間もかかるものを持つことはリスク以外の何者でもなく、人々はそのリスクを避けようとする。

 そういったリスクを考えられるような層の不安を解消し、出生率を上げなければ人材の二極化は避けられない。中間層が産まないのであればそうなるのは必然なので、保育の無償化よりも数を増やすといった現実的で堅実な政策が求められる。与党が現状イマヒトツで野党も頼りない中、なかなか絶望的な状況ではあるが。