ヤマネコ目線

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内閣府の生活満足度調査について

 お盆休みに入った直後あたり、内閣府による調査で生活満足度が過去最高だったことが話題だった。

(記事題:生活満足度が過去最高 3年連続上昇、内閣府調査)

実感に合わない調査

 この報道に対して私が観測する範囲では、「納得がいかない」という声が多かった。

 まず生活満足度が上昇した一因として、コロナ禍からの脱却が挙げられている点に注意が必要だろう。確かに以前ほどコロナウイルス云々による抑圧は無くなったので開放された感はあるが、それをもってして「生活満足度が高くなった」という言い方は何か引っかかるものがある。コロナ禍の影響を正確に差し引くことは不可能だろうが、だからこそ安直に生活満足度が過去最高ですという言い方は不正確ではないか。

概要3ページより抜粋

 過去最高と言うが全体の推移を見て見るとメモリが細かいだけで、2019年から見て0.11ポイントの上昇、それまでで最高だった2020年と比べるとわずか0.06ポイントの上昇にとどまっており、モノは言いようだなと思う。こんなの誤差の範囲では。メモリが細けぇ。上の図も上限と下限で差は1も無い。

 小数点第2位まで使用しているがこれが少しでも数字を高く見せるための小手先のテクニックに思う。桁が1つ増えるということは精度として10倍違うということ*1なのだが、そんな精度がこの調査で出せるのだろうか。

www5.cao.go.jp

 また、当の調査に関する内閣府のサイトを見ると調査方法はインターネットで約10,000人を対象にし、内約5,500人は前回に引き続き同じ人を対象にしたと記載されている。

 はて、インターネットで調査と言うがそのような調査、見かけたことは無いのだが。調査対象に作為は無いのだろうか。インターネットにおいて個人は検索内容等を追跡されており、いつ何を検索していてどの程度の経済状態にある人物かを絞り込むことは簡単に出来る。貧乏人向けにタワーマンションの広告なんか出ないのと同じで、検索傾向から調査対象を意図して絞り込むことは容易だろう。

 そもそも時間を割いて生活満足度の調査などというものに回答してやろう、という人間はある程度の余裕がある層でもある。余裕が無い人間は口では「こういう調査が来たらボロクソに書いてやる」、とは言いつつもいざ調査が来たら面倒になって回答しない。調査方法自体にあまり信頼性が感じられない。

概要3ページより

 満足度上昇の原因をもう少し詳しく見ると、雇用形態別で非正規雇用の満足度が大きく上昇している。資料ではコロナ禍の影響からの立ち直りが要因として挙げられている。2020年から見れば0.07ポイント上振れしているだけであり、どちらかと言えば以前の水準に戻ってきた感がある。

概要3ページより抜粋

 年齢層別のグラフを見ると65歳以上が一番上、次点で39歳以下、一番下が40~64歳で氷河期世代が一番多く含まれている層になっている。極端な話、ランダムに選ばれる枠に以前より65歳以上が多くなるだけで満足度は上振れするのでは。

概要6ページより抜粋

 次に重視事項と評価の割合を見てみよう。高評価が多いのは「身の回りの安全」、「健康状態」、「自然環境」、「生活の楽しさ・面白さ」あたり。逆に「低評価のみ」が多いのは「政治・行政・裁判所への信頼性」がダントツで厳しい現実が見えて来る。ほかに高評価が少ない上に低評価が多いのは「介護のしやすさ・されやすさ」、「子育てのしやすさ」、「雇用環境と賃金」。一概に生活満足度と言っても項目によって大きなばらつきが見られる。

 このような細分化された内容をさておいて「総合的に生活満足度が過去最高になりました」、などと言う結論を出すことにあまり意義を感じない。

 様々な不満はあるとは言え日本は世界的に見ればまだまだ暮らしやすい国ではあるので、今回の調査結果はその辺りに対する評価であると見るべきだろう。日本人は何だかんだ言ってそれは自覚しているし、人が良いのでいざ調査で聞かれれば無難な回答をすることが多い。特に「生活は楽しいですか」といった曖昧な訊き方をされると上のグラフのような結果にもなるだろう。本音と建前の社会においてアンケートはあまり参考にならない。

概要7ページより抜粋

 概要7ページ、満足度の過去・現在・未来の動向の冒頭に要約として上記のように書かれている。「5年の間に結婚した人のうち5割の満足度が上昇」とあるが、「継続調査している内に結婚して満足度が上がった」というのは生活満足度の調査としてどうなのだろうか。これもある程度の経済力がある層に絞って調査をしていれば上がって当然と言えはしないか。

 また、将来的な満足度の予想は下がっている。

 報告書分割第2章を見ると以下のような内容もある。要約すれば「回答者に偏りがあるとされているので今回から住民基本台帳からの無作為選出も行いました」という話。あれ?厳密に言えば今回から調査方法変わってるよね?その結果をそのまま過去の結果と比較して良いのだろうか。

56ページより抜粋

  無作為抽出した人数は最後の方に3,000人と記載されている。が、有効回答数は1,166人と半数にも満たない。対象とした都道府県も上に抜粋した通り3府県だけである。調査対象約10,000人のうち本当に無作為に抽出したといえるサンプルが1,166で良いのか。それも限られた都道府県の中から。

 第2章最後の方に詳しいサンプル特性が載っている。男女比はほぼ半々としてネットでの調査ゆえか年齢層は大きく偏りがある。統計の専門家では無いので年齢層の比率は何らかの理由があるのか知らないが、15ー39歳が含まれる割合が多ければ「結婚によって生活満足度が上がりました」とする人の割合もそれなりに増えるのでは。「健康状態」の項目で一番満足度が高かった、「介護のしやすさ・されやすさ」、「子育てのしやすさ」で無回答が多かったのも納得。

 肯定的に見れば若年層の生活満足度を重点的に調査している、という捉え方も出来なくはない。あまり65歳以上を増やしても参考にはならないだろう。一方でWebアンケートに回答できる65ー89歳と考えると属性的には社会的に上位であると予測できる。年齢層別の生活満足度でこの年齢層が一番高かったのも不思議ではない。

至極個人的な感想

 そもそも私は内閣府の調査という時点であまり信用する気になれない。いつぞや内閣府の研究会とやらが「少子化対策のために学校で壁ドンや告白の練習をさせよう」などと言ったことがあった。内閣府の研究会と言えど要はその程度。

www.asahi.com

 今回、話題になった生活満足度の調査も結局は「私たちの政治によって暮らしは確実に良くなっています」、という大本営発表をしたいだけではないのか。正直それ以上に何の意味も感じない。平均的な満足度が0.いくつ上がっただとかどうでも良い。個々人の生活満足度は個々人で決める。内閣府が調査で決めるものではない。

 下らない事をやってないでもっとやるべき事をやって欲しいし、社会的な課題は山積している。政治不信を広げながら憲法改正だのとふざけた事を抜かすことが許せない。その証左に政治・行政・裁判所への信頼は最低レベルではないか。その現実をちゃんと受け止めてるのか。受け止めていたとしても何もしないよな。

 言ってしまえばこうした調査自体、老人政治家が自分たちの価値観=今のままでも日本は十二分に良い国で結婚・子育てしないのは若者が悪い、というのを補強したいがために命じ、下の役人たちやら学者やらがその価値観に迎合するためにせっせと0.01単位で都合の良い結果が出るように”工夫”したものではないのか。

 このような調査にもお金と人的リソースがかかっている筈だが、そんな無駄なリソースがあるなら是非ともほかの問題解決にまわして欲しいものである。そもそも問題解決能力が無いのでこのような調査などやっているのだろうし、能力が無いので何をやっても無駄だと思うけど。

 とにかく何事も順番が逆。「愛国心があるから良い国ができる」のではなく「良い国で育つ人間に自然と芽生える環境への感謝が愛国心になる」。「生活満足度が高いから良い国」ではなく「良い国であれば生活満足度は自然と高くなるし調査などするまでもない」。逆にこうした調査をすること自体、生活満足度が低い自覚はあるのでは。

 私の政治に対する満足度は下がる一方です

*1:0.1mmまで測れる定規と0.01mmまで測れる定規を考えると分かりやすい