ヤマネコ目線

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農協は農家の敵なのか

 良い記事があったので最初に紹介しておく。

note.com

それはそれとして

 「農協は農家の敵である」という主張を見かけたが、元農家としてはあまり同意できない。私自身、確かに「農協は農家の味方なのか敵なのか分からんわ」という愚痴を聞いたことはあるが明確に敵視している農家はそういない。農協が農家に対してもたらすメリットも多く、持ちつ持たれつな所がある。特に個人・零細の農家。

 先の記事で紹介したようにJAはシェアリース企業を立ち上げたり、農業資材をまとめて購入して安価で販売、地域の小さい農家への農機レンタル、営農指導(技術的、経営的な面からのサポート)も行っている。

 組織として巨大化したがゆえの効率の悪さやトップダウン型のコミュニケーションなどはあるだろうが、そんなデメリットは他の組織でもある話。農協は販路の確保や価格交渉が難しい小さい事業者や個人の助けになっている。そもそも農協自体が農家の共助から生まれた民間組織。

 第一、何でも「敵か味方か」と二分するような考え方しか出来ない人間は幼稚だなと思う。お互いの利益が一致する時もあればしない時もある。そこでコミュニケーションを取って落とし所を見つけ、協力し、生活するのが平和的な人間社会だ。世の中を単純な白黒、敵味方だけで分けることは不可能。

 「敵か味方か」思考では中立的な立場や条件付きでの協力関係、利益背反と利益一致が同時に発生している状況を理解できず、自分の意見に賛成する者は味方であり善、反対する者は敵であり悪といった構図でしか物事を見られなくなり、「敵の意見など聴くに値しない」という極めて非建設的で感情的な状態に陥ってしまう。

 こうした思考回路を持つ人間は議論を妨げるだけ。議論において役に立たないどころか害悪ですらあるのだが小泉進次郎は自身がそうした思考であり、対立を煽り、拡散し、実際に農家かそれ以外かで分断を広げている。「抵抗勢力」を作り出してそれを叩き、大衆を気持ちよくさせながらろくでもない改革をする、それが小泉劇場。国会議員として、政治家として無能どころか害悪。

 農協が「農家の敵」ならば小泉進次郎自民党は国民の敵。敵味方だけに分けて考えることは不可能だと書いたが、その中に「明確な敵がいる」は両立する。

小泉進次郎農林水産大臣の越権行為Part2

 「元々は農協という組織は(中略)金融で儲けるっていう組織じゃないはずなんですよ」というのは組織の成り立ちを説明する上では正しい。しかし小泉のニュアンスには「どうして農家の互助会が金融業なんかやってんだ。分を弁えろ」くらいのものを感じる。「農家は東京にビルを持つことを求めていない」発言もあったし、少なくとも私は差別意識を感じざるを得ない。

 たかが一時の農林水産大臣が何の権利があって民間組織の不動産の立地や事業展開について文句を言えるのか。バカじゃねえの。だったらお友達の竹中平蔵にも「ピンハネ派遣業だけやって政治に口出しするな」って言えよ。前澤にも堀江にも言うことあるだろ。

 「農業は農業だけでやってろ」と言うのであれば、他業種企業が農業分野に参入することを歓迎するというのと矛盾している。結局、経済界から都合のいいように吹き込まれたことを喋っているに過ぎない。自分自身の意見に芯がないから舌がブレる。

 農協が金融業、保険業、不動産業なども行っているのは農業分野の収益性の低さをカバーするためであってある種のリスクヘッジ。民間組織としての経営努力であり、それに農林水産大臣が難癖をつけるのは道理に外れている。

 とはいえ、農業に関係のない人達は小泉劇場に騙されて農協が悪いということになってしまうんだろうな・・・。郵政民営化とやり方が同じ。悪者を作って大衆の矛先を誘導し、それを原動力としてろくでもない改革をする。

 ところで、先日記事にしたXの投稿は2025年6月23日時点でまだ削除されていない。

 重ねて書くが政治家が、それも農林水産大臣が特定企業の広告をSNSですることは不適切である。

  • 利益率や実際の数値を無視して卸売業者を「営業利益500%増」と批判
  • 新米が店頭に並び始めてなお備蓄米を無制限に放出すると表明し、緊急輸入してでも市場価格を破壊
  • JAが東京にビルを持っていることを「農家は求めていない」と批判
  • 「どうして2,000万円のコンバインなんか買うんだ。米を安くする経営努力をしろ」などという的外れなご意見表明
  • XでのYahoo!ショッピングの宣伝
  • 2,300万円するレクサスの中でテイクアウトの吉野家やおにぎりを食べて庶民派アピール
  • 炎天下の中でメモも持たず椅子を並べて農家と「意見交換」
  • あくまで民間組織であるJAの事業展開を批判する

これだけでも野球で言えばスリーアウト確実だと思うのだが、本人は「俺は大谷よりデキる人間だから」と険しくもしたり顔のような表情で打席に立ち続けている。そしてなぜかマスコミはこれらを問題視しない。前の農相は「お米を買ったことがない」という失言だけで更迭されたのに。バランスがおかしくないか?

小泉進次郎がやろうとしていること

 これはあくまで私の読みというか推測であるが、端的に言えば「水道民営化」のようなことをやろうとしている。竹中平蔵堀江貴文前澤友作、森屋秀樹などの小泉のお友達資本家から見て、農業を「儲かる」産業にするためには低価格で耐え続けている小さい農家や卸売業者、JAが邪魔なのだ。

 JAは民間組織だが、共助から生まれた組織なので公的組織の側面が無いわけでもない。なので公的組織的に、かつ金融業や保険業で利益を補いながら利益率の低い農業=低価格を実現できる。卸売業として「営業利益500%増」と小泉から批判された木徳神糧も実際、利益率1.7%と卸売業の中でも低い。安価で安定した農産物の流通は善意で成立している。

 それを今回の米騒動でうまく悪者に仕立て上げ、弱体化させてあわよくば潰し、低価格で安定供給してくれる人を排除して市場をより「開放」すれば米、ひいては農業全体で利益追求がしやすくなる。お友達の資本家の企業が参入しやすく、金儲けがしやすくなる。

 これを「農業も儲かるようになる」と言えば聞こえは良いのだが、というか元農家としてはそうあるべきとも思うのだが消費者側からすればどうか。誰かが儲かるということは別の誰かが損をする。当然ながら、今より農業に利益を追求するということは国産農産物の値段が上がるということ。

 水道民営化のように利益を追求することが至上命題の組織が市場を占領すれば、消費者がいくら泣こうが喚こうが「利益のために値上げする。嫌なら買うな」で済まされる。安さだけを追い求め、効率化という言葉に惑わされた消費者によって消費者自身はより生きづらい社会へと転落していく。

 それが起きれば今度は「輸入してでも安いほうが良い」と言い出す訳だが、そうなれば結局、国内の農業では企業でも収益性が悪化して立ち行かなくなる。既に多くの企業が農業に参入しては消えている訳で、JAや卸売を叩いたところでその流れは変わらない。「農業以外で収益を確保しつつ農業をやればいい」?それをやっているのが農協なのだが。

 結果として国内にまともな農業は残らない。米は数少ない自給率の高い農作物なのだが、それでも消費者の安売り希望に答えるのが政治家として「正しい道」らしい。食料安全保障もへったくれもない。輸入割合が増えれば食料自給率は下がる。「消費者にとっては輸入するほうが食料安全保障につながる」などと抜かすアホもいるが、それは「安く買い叩きたい」を食料安全保障という語句で正当化しているに過ぎない。有事の際に海上封鎖でもされれば輸入頼りの食料事情は詰む。

 このまま備蓄米や輸入米によって米の価格が採算の取れない価格であり続ければ、農家が取るべき選択肢は2つに1つ。1つは安価な米と差別化できる高級品を作って高く売れる努力をすること。もう1つは割に合わないから撤退する。それが経営努力、経営判断だ。日本の庶民はいずれ、国産米が高級品になって食べられなくなるだろう。輸入米を食べるのが当たり前になる。備蓄米は迂闊に放出するものではないし、もし放出が常態化すれば提供してくれる農家はいなくなる。

農業の大規模化、機械化、法人化

 素人はやれ「法人化しろ企業の参入もしやすくしろ」だの「大規模化して機械化しろ」だの好き勝手言ってくれるが、既に企業が農業に参入できるようにはなっている。儲からないから参入が少ないし続かない。では儲かるようにすれば良いのか。

 もしマトモな企業が農業に参入したらどうなるか。米農家は平均時給98円と言われるが、まともな企業であればそういう訳にもいかない。少なくとも10倍近い人件費が生産コストに上乗せされることになり、それ以外のコストもまともに小売価格へ転嫁されることになるだろう。今より米や野菜が安く買える未来は来ない。

 大規模化して機械化しろ、という話も同様で、安く買うことしか頭に無い消費者にそれにかかるコストを小売価格として負担する覚悟はあるのか。大規模化しろと言うのは簡単だが相応の収益が上がらなければ大規模化など不可能。アメリカだドイツだの大陸と比較して農業を語るような解像度で言われてはたまったものではない。不勉強も甚だしい。

 それに人手はどうすると言うのだろうか。機械化すれば解決だのと簡単に言ってくれるが機械化できる仕事には限度がある。山国で平坦な土地が少なく、田んぼ1つ取っても形がさまざまなこの国で機械化をすることがいかに大変か。現場を知っていればそんなことは言わない。稲刈りだってコンバインで刈り取れない場所は手で刈るのだ。私はその経験がある。機械を扱うのにも人手がいるし、メンテナンスをするのも人だ。無人化するとなればもっとコストがかかる。

 で、人手が足りないとなっても日本人は農業をしたがらないので外国人を雇うことになる訳だが、今や日本は「安い国」なのであまり良い人材が来ることは見込めない。何せ同じ農業でもオーストラリアで働けば月40万以上貰えるのだから。円安は人材獲得にも暗い影を落としている。日本は他の国に行けない落ちこぼれが行く国。

 こういう言い方をするのは何だが、農業分野でも外国人材に頼ろうとしても質の悪い外国人が国内に増えるだけ。小泉による農協・卸売叩きは実質的な移民政策拡大にもつながる。リースの話といい、素人は何でも簡単に言ってくれるが自分ではやらないしやろうとも思っていない。言うだけで出来もしない。無知で無責任で周回遅れ。

政治家が農業を語るのは笑止千万

 今の政治を見ているとこう思う。政治家がやるべきことは国、企業、人材、子どもが育つような土壌を作ることだが現状それが出来ていない。何かにつけて安直な政策ばかり。政治家のご老人方は歳食ってるだけで農業も人間も物事の理非も知らん。今の日本の社会を若者がどう感じているかも分かっていない。

 税収が欲しいが直接的な増税を避けたいのでインボイス制度で零細・個人事業主いじめ。育つのは虚業ばかり。ユニコーン企業の話も聞くが、真のユニコーンを判別できるような目は人間には無い。これは科学研究についても同じ。

 研究は研究でに予算をつけず国内の人材を流出させ、科学分野全体を衰退させて「外国人材を確保しよう」と言い出す。他人の土地で育ったものを横取りすることしか頭にない。ただの盗人。自分のところで育てる努力をしていない。

 少子化はいつまでも周回遅れ。経済力が必要な若者から増税社会保険料で経済力を奪い続けている。農作物で言えば水も栄養もやらないで「どうして今の作物は実をつけないんだ」と嘆くようなもの。何ならその木の枝葉を切り落として根本にまけば肥料になると思っている。真正の愚か者。

 このような状態ではろくなものが育たない。政治に目をやれば歪んだ愛国心だの履き違えた効率化だのが跋扈している。もっと地に足つけて生きてはどうか。そうすれば見えて来るものも違う。

 ついでに書けば「愛国心」というものを履き違えている者が多いように思う。本当に日本が素晴らしい国であり続けたならば、国民は自然と国家という枠組みの存在に感謝し、その存在の維持に貢献したいと考えるだろう。やたらに愛国心とやらを煽り、国家のために国民が存在するかのような物言いをする人間はファシストに他ならない。