ヤマネコ目線

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緊急事態条項の是非

 国民民主党日本維新の会衆院会派「有志の会」が憲法改正における緊急事態条項の創設をめぐり、実務者協議で一致した。これに関して。

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緊急事態条項の是非以前に

 まず言わせて欲しい。内政がこのザマで何が憲法改正だ。長期に渡る失政から国民には政治不信と無関心が拡がっている。マイナンバーカード推進ですら信用されていないのがよく分かる。国民はコロナだ物価高だと憲法改正どころではない。実質賃金は下がりっぱなし。「憲法改正の機運が高まっている」などと言って、山積する様々な問題そっちのけでやりたい事だけやろうとしている政治家どもが私は許せない。今そんなことをやっている場合か?本当に最優先で取り組むべきは憲法改正なのか?甚だ疑問である。信用できないし、したくない。憲法改正なんか景気が良くなって少子化が解消してから言ってくれ。

緊急事態条項は本当に危険なのか

 つらつらと反対派のような意見を並べたが、ただいたずらに危険を煽るサヨクやそれに類するメディアとは一緒になりたくない。なので緊急事態条項が本当に危険なのかを考えてみる。以下、参照している資料が少し古いので現在の案とは違う可能性があることは留意して欲しい。

緊急事態と緊急事態条項の発動条件

 衆議院憲法審査会が出している資料によれば、「緊急事態(非常事態)」とは次のような事態を指す。

  • 外部からの武力攻撃
  • 大規模なテロ
  • 大規模な自然災害

 緊急事態条項が実際に憲法に明記されると、内閣総理大臣は上記の緊急事態とされる状況が来た時、閣議にかけて緊急事態宣言を発することができる。武力攻撃や大規模なテロはまだ可能性が低いとして、大規模な自然災害は残念ながら割と発生するので緊急事態宣言を発動する条件は正直ゆるい。「大規模な災害」というのがまず定義的に曖昧なので、何なら大型の台風くらいでも宣言は発動可能かもしれない。毎年何かしらの災害は来るしな。

 この緊急事態宣言は事前または事後に国会による承認を受けなければならない。ただし、自民党のこれまでの政治を見ていれば分かるように数で押し切ることは簡単なので、何ら安全装置の役割を果たす条件ではない。

 「緊急事態宣言は百日を超えるごとに国会による承認を得なければ継続できない」という条項もあるが、これも数で押し切ればなんら問題ない。後述するがこの100日ごとにという縛りは憲法の条文に盛り込まれるので、内閣総理大臣が発することの出来る「法律と同一の効力を有する政令」では優先順位として無効には出来ない。ただし、それは権力を握る側がそうした法的順位を守る意思がある場合に限る。それについては後述する。

 結論からして、発動や継続の条件に関しては正直ユルい。条件に「大規模な自然災害」を盛り込むだけで発動の機会はかなり増えるし、緊急事態宣言の継続を止めるための手立ても国会による不承認しかない。政権与党にとってあまりに都合の良い発動・継続条件であり、後述する権限もあいまって危険視されても致し方ない。

 緊急事態条項を盛り込めば災害対応が迅速に行えるのかも知れないが、災害対応に関してそこまでするほど法的な対処に困ることはあったのだろうか。意図的にやらない、「知事から要請がなかったので」などと言って自衛隊を派遣しなかった事はあっても、緊急事態条項がなければ困る、それでなければどうしようもないと言った事はあっただろうか。参照資料では「緊急事態措置を明文化しなければいざという時、憲法違反をする可能性がある」、「明文化することで権力の濫用を防げる」などとも書かれているが、憲法に反しない措置をするために議会で議論するのであって、「権力の濫用」にいたっては後述する内容の通り、緊急事態条項はむしろ濫用の危険性を高めるようにしか思えない。

 なお、衆議院はいずれ解散されるので緊急事態宣言はそれに伴っていずれ終わる」という考えは甘い。先に次の章の項目について述べるが、緊急事態宣言下においては衆議院は解散されない。衆議院参議院ともに任期と選挙期日に特例を設けることが出来る。なので会期や議員の任期にはなんら影響を受けない。緊急事態宣言さえしてしまえば、自民党が延々と政治の実権を握ることが出来る。それが実現し得る。

緊急事態条項の内容

 見つけられたのが平成24年(2012年)の資料なので実に10年以上前の資料になるが、衆議院憲法審査会事務局のPDFから抜粋した内容、かつ自民党の案は下記の通りである。古いが基本的な内容は変わっていないとは思う。

 1つめの条文は「緊急事態なので内閣が法律と同等の効力をもつ政令を制定できる」という趣旨。内閣総理大臣が財政上必要な措置を行い、地方自治体にも必要と思われる指示を行うことができる、としている。これが一番問題とされる部分で、「緊急事態だから」と言い訳をして三権分立のバランスを意図的に崩し、立法権を行政の長に移譲させることが危険視されている。

 極端な例なのであまり例として出したくは無いが歴史上、それを実際にやってしまって見事に独裁国家となり、戦争に突き進んで敗北した国がある。ナチス・ドイツである。いたずらに危険を煽り、極端な例を出すのは良くないが実際問題として内閣に立法権を移譲する事は独裁政治へ突き進む危険を伴う。

 何も今の岸田総理やその次の総理大臣が緊急事態宣言を発し、すぐにでも独裁政治を始めると言いたい訳ではない。しかしその次の総理は?その次の次の総理は?10年20年先のことなど分からない中で、将来の政治家がいつ、どのような形で暴走するか分からない。憲法は本来、権力者がそうした暴走をしないように縛るための鎖であるが、おいそれと変える事の出来ない憲法の条文に緊急事態条項を盛り込んでしまえば、かえって独裁政治へと突き進む危険を永続的に残してしまうことになる。それは明らかにこの国にとってマイナスではないか。自民党憲法改正草案はほかにもマイナスだらけだったが、この条項はその中でも一番酷い。近年の政治の強引かつ的はずれな手法にはへきえきしているが、そこでこうした条項を憲法に盛り込ませて良いのか。今もお得意の必殺「閣議決定」で好き勝手やっているように思うが、それが悪化するのは眼に見えている。

 「内閣が制定する『政令』や『法律』より憲法の方が上だからそこまで酷いことにはなり得ない」、と擁護する人もいるかも知れないが、全権委任法も”法”である。全権委任法は「緊急事態だからナチ党の制定する法律は憲法に反していても有効とする」という法律であり、そこに絶対的な優先順位は存在しない。憲法と法律の優先順位を守らせるためには立法府がしっかりと立法権を握ることが重要であり、権力者が憲法と法律の優先順位を必ずしも守るとは限らない。ゲームなんかのルールとは違って、現実の法律には絶対的な強制力や順位など存在しないことはよくよく理解すべきである。

 2つめの項目はもはや言及する必要性を感じないが一応。「内閣の制定した政令は事前あるいは事後に国会を通しますよ」という内容。ただ政権与党が国会で多数を占め、数で押し切る限りはあまり意味が見いだせない。ナチス・ドイツにおいても一応は議会が残っていたが、その機能はお飾りのようなもの。”事後”でも良いので、先にぱぱっと決めて実行に移してしまえば議会は何も出来ない。

 3つめの項目は「国民の生命、身体および財産を守るために行われる国からの指示に国民が従わなければならない」という趣旨。後半にはただし書きとして基本的人権その他の条項が「この場合においても~最大限尊重されなければならない」とある。何条が尊重されるかは後述するが、ここで何より気をつけるべきは「最大限に尊重」という文言だろう。「侵してはならない」でも「保障する」でもなく、「最大限」「尊重する」である。これは裏を返せば「最大限の努力を超える場合は尊重しなくても良い」とも言える。緊急事態宣言下においては基本的人権その他権利が侵害され得る。と、私は判断する。やるかやらないかは別として可能である。

 以下、基本的人権意外で挙げられている憲法第~条の当該箇所抜粋。面倒くさいが現行憲法自民党の改正草案では内容が違うので同時並行で見ていく。第14条は割愛するが内容としては「法の下の平等」と「差別の禁止」。

 まず18条から見ると、「奴隷的拘束」というのが「社会的または経済的関係において身体を拘束されない」に置き換わっている。どういった意図があってここを変えるのかよく分からないし、この2つの文言はイコールではないように思う。一方で「意に反する苦役に服させられない」の一文は残っている。ただし、前述したようにこれも「最大限尊重する」なので緊急事態宣言下では守られない可能性がある。

 第十九条。思想および良心の自由を保障する内容。自民党の改正草案では「これを侵してはならない」が「保障する」に変わっているが、なぜ変える必要があるのかが分からない。これも「最大限尊重する」の範囲。

 第二十一条。これは純粋に改正案に問題を感じる条文。表現の自由を「保障する」と言っておきながら、改正案で追加された項目では「前項の規定にかかわらず」と言い出している。「保障する」という言葉が軽い。前述した第十九条が「保障する」に変わっている点を見ると危機感を覚えざるを得ない。「最大限尊重する」、「保障する」はただの言葉遊びで、後からいくらでもひっくり返しようがあるのではないか。そう思わざるを得ない。

 表現の自由を規制する条件として「公益及び公の秩序を害すること」とあるが、これもかなり良いように解釈され得る危惧がある。非国民だの何だのとまではいかないまでも、「公益(=防衛力強化)」を害するとして防衛増税に反対する言論を出版、放送することを禁止する、といったことが出来るかもしれない。いきなり酷い状態になるとは考えづらいが、ズルズルと国内の政治が良くない方向へ進んでいくのではないか。

 そうでなくとも今、国会では総務省高市早苗氏、小西洋之氏が放送法をめぐって妙な争いを繰り広げている。国民としてはどちらが正しかろうが歓迎できる問題ではないし、そうした現状がより酷くなる可能性を緊急事態条項からは危惧せざるを得ない。

結論として

 私個人の結論としては、緊急事態条項は危険であると判断する。得られるメリットとデメリットを比較して、デメリットが大き過ぎる。いわゆるサヨクが煽るような危険がただちに起こり得る可能性は低いまでも、その内容および自民党憲法改正草案の中身自体に問題がある。何より今の政治、政治家を見ていて憲法を好きにいじらせて良いとは到底思えない。信用も信頼も無いし、重ねて書くが今、憲法改正は優先されるべき事項ではない。もし憲法改正を言うのであれば経済が回復し、少子化が解消してむしろ人口が増え始めるくらいの政治をしてからだ。無理だろうがな。

 緊急事態条項を設けることで得られるメリットはあるのだろうが、それはあくまで行政側、権力者からしてのメリットでしかない。「議会を通さず好きに立法できる」というのはとんでもないメリットといえる。それが三権分立にもたらす不均衡や、好き放題された結果苦しむことになる国民にとって、総じてこの国にとってプラスに働くとは考えづらい。今でも議会では多数を握り、大抵の事は数で押し切っている自民党がそれ以上を求めると言うのか。

 確かに災害の危険は大きいし、肥大化する一方の中国の軍事的脅威もある。しかし、どうしても緊急事態宣言でなければ出来ないという事がどれだけあるのか。緊急事態条項を許すことで失われ得る、危険に晒され得るものも同時に天秤にかけなければならない。中国や地震は確かに脅威ではあるが、私はそれ以上に日本の政治家が、こと自民党あたりの復古主義的で自らの立場を理解していないエセ保守政治家が日本国民にとっての一番の脅威だと考える。

「国のため」と言えば何でも許されると思うなよ