ヤマネコ目線

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日本保守党、百田氏の子宮摘出発言

 Xで日本保守党の代表、百田尚樹氏の人権を軽視するような発言が炎上し、Yahoo!ニュースにもなっていた。

news.yahoo.co.jp

(記事題:「子宮摘出」発言の日本保守党・百田代表「聞いた人は不快に思う」「撤回し、謝罪する」)

発言文字起こし

*出回っていた動画が1.5倍速程度だったので一言一句正確には文字起こし出来ていません

*百田氏の発言は紫で、同席していた女性の発言は赤で着色しています

これはええ言うてるわけちゃうで、たとえばの案、そんな無茶苦茶いっぱいある案のうちの1つやで?たとえば女性は18歳から大学に行かさないとかね、仮にやで、仮に、それくらいの構造が必要

今のように女性が自由に自己実現を追求できるようになってくると、サービス業で力仕事がいらない、女性の方がコミュニケーション能力が高いこともあってどんどんそっちの方向へ流れていきますよ

あともう1つね、小説家のSFと考えてくださいよ。25歳超えて独身の場合は生涯結婚できない法律にする、とかね

やっぱりね、子供を産むということには時間制限があるということを子供たちに教えるべきだと思います

ほんで、30超えたら子宮摘出するとか

やめなさい、こら

いやこれSFやで?

SFでもそれはちょっといくらなんでも

この発言に対する私見

 こうした発言から垣間見えるのは、「選択の自由を奪えば人は思う方向へ動くだろう」というあまりに短絡的かつ不毛で前時代的な思考回路である。

 社会をより良くすることで事態の好転を図るのではなく、女性にとって結婚・子育てしないと生きづらいような社会にする(=彼ら曰く「社会構造を変える」)ことで少子化解消を目指そうという発想は、彼自身の人権に対する意識の低さと少子化問題、人間の心理に対する無理解を浮き彫りにしている。

 まず「社会問題の解決のためには自由を奪えば良い」という安易に人権を制限する発想そのものが自由権の精神に反するものであり、たとえSF的で極端な例え話であるという断りがあったとしても、国政政党の代表から女性から学問の自由を奪う、婚姻の自由を奪う、身体の自由を奪うといった話が出てくること自体があまりに酷い。このような考え方の人間に一片たりとて政治に関わって欲しくない。社会が後退してしまう。

 選択肢を奪う/~しないことにペナルティを与えるということは短期的に見れば望む結果を生むかも知れない。しかしそういった手法は人間の心理的な抵抗を生み、長期的に見れば反発や不満の蓄積、社会の停滞をもたらす可能性が高い。あのような短絡的な思考をする人間は「人は押し付けられたものは嫌いになる」ということを理解していない。人間を少しでも理解しようと試みて来た者ならこれくらいは理解しておくべきだと思うが、氏はそれが出来ていない。

 もちろん限度というものがあって犯罪に関しては話が別なのだが、犯罪が許されない/犯罪者の人権を一部制約すること=防止法や刑罰が認められるのはそれが他者の人権を侵害する/したことに対する抑止/ペナルティであるからであって、人権をいたずらに侵害する・制約することは許されるべきではない。

 この点、彼らのような人間は「子どもを生まないことは公共の福祉に反する」とでも言いかねないが、公共の福祉の福祉は無制限に基本的人権を制約し得るものでは無い。それが許されるならば、国家によるあらゆる圧力が正当化できてしまうだろう。いたずらに個人の選択肢を奪うと幸福度が下がり、社会全体の活力や連帯感も損なわれる。こうした観点から見れば氏のような思考は幸福追求の権利にも反している。何のために自由が保障されているのかを考えるべきである。

 また、会話の前後の流れも含めて感じられるのは少子化問題は女性が悪い」という空気。同席していた女性の発言からもそれは感じられる。「女性が自己実現できる社会、社会進出しやすい環境があるから結婚・子育てする女性が減る」という意見で一致しているのだろう。

 しかし現代日本における少子化問題の原因は多様であり、女性の社会進出はそこまで大きい要素ではない。わざわざペナルティなど設けなくとも正常な社会であれば結婚・子育てしたい女性はそれなりにいる筈である。他により大きな原因がある中で、女性を悪者にして問題解決を図ろうとすること自体が間違い。いかに少子化問題の原因に理解が無いかよく分かった。

manuller416.hatenablog.com

 女性の社会進出が問題になるのは社会が「キャリア形成と結婚・子育てを両立しやすい環境」になっていないからであり、両立しやすい社会を目指すならまだしも選択肢を奪うことで解消しようというのは我々の社会にとって退化ではないか。少なくとも少子化問題の根本的解決にはならないだろう。

 もし「女性にとって結婚して子育てしなければ著しく息苦しい社会」が実現してしまえば、女性は海外へ移住することが最善となるだけである。あるいはそれでも「出来ないものは出来ない」で終わり。数ある少子化の原因の中では生半可な社会的圧力など事態を悪化させるだけ。百田氏のような思考では次は「じゃあ移住する権利も制限すればいい」となる訳だが、そうなれば日本はどんどん人権後進国になる。どこぞの「地上の楽園」のような社会が良いか?世界を変えたいと望むなら、変わった後の世界を想像できなければならない。

 なお、本気にする訳ではないが身体刑(手足を切り落とす、性器を摘出するetc.)は日本国憲法第36条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる に抵触するので、憲法改正をしなければ子宮摘出といったペナルティは導入できない。

 大体、30超えたら子宮摘出なんて話はSF的な話としても出来が悪い。それをする必要性・正当性が皆無。本人は面白いと思って言っているのがあのくらいの年代のつまらない男を凝縮した感じでキツい。「いくらなんでも」と言うだけ同席していた女性は幾分マシか。公人として何を言って良いか、悪いかの区別がついていない点、遅かれ早かれ炎上はしただろう。出来るなら先の選挙で3議席も取る前に燃えて欲しかったが。

 百田氏は発言を撤回・謝罪しているが、撤回・謝罪したからと言って根本的な思考は変わらない訳で、彼の所属する政党も含めて「そうか、そうか。つまり君たちはそんな奴なんだな」と思うばかりである。謝罪した理由も「聞いた人は不快に思う」だがそんなレベルの話ではない。

彼らのような人間に対してどう反応するべきか

 日本保守党はただの右翼、復古主義的政党かと思っていたが、それよりまだ程度が悪かった。たとえ大日本帝國であっても「30歳マデニ婚姻セザル者ハ~」などとは言わなかっただろう。そんな人間に対して言えることは「他人を尊重できないなら出ていけ」である。

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 私は中道保守を自認しているが、ああいった発想が日本的な保守だと言うのであれば保守など糞食らえだ。現代社会において何が問題か、どこを目指すべきかも分からず、「保守」というものを復古主義や前時代的な制度への退化と履き違え、他人を尊重できない/するつもりも無い人間は日本から出て行け。性別を問わず、協力してより良い社会を目指す上で邪魔だ。今の日本に必要無い。

 どこぞ都合のつく大地に移住して、そこで思ったような王道楽土でも作れば良い。ついでに竹中平蔵も連れて行ってくれ。彼は正規雇用を悪者にしたいようなので似たもの同士。非正規雇用だらけで女性蔑視の国でも作れば良い。成功をお祈りします。Good luck with that !*1

余談:アメリカ人の精神

 英語の演説繋がりでたまたま流れて来て視聴したら良かったので貼っておく。

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 こんなスピーチ出来る人間、日本にいるだろうか。特に最後。日本人にはこういう精神が足りないと心底思う。GHQが日本の政治家以上に日本のことを良くすることが出来た理由もなんとなく分かる。前向きさでは敵わん。

 今回の話に関しても考えさせられるものがある。皆で一丸となってボートを漕がないといけないのに、誰かを「サボっている」と悪者にするような人間がいると前には進めない。「もっと漕がないといじめるぞ」と脅すような人間がいては良い組織になれない。足の引っ張り合いをするような社会には希望が無い。

*1:ネイティブにはこれ、皮肉にしか聞こえないので注意。「成功すると良いね!俺は絶対にうまく行かないと思うけどww」的なニュアンス