ヤマネコ目線

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どこまでが”芸術”か問題

 Pixiv(イラスト投稿サイト)でAI画像の氾濫が止まらない。同一人物が同じような構図のAI画像を生成しては、1日のうちに何枚も個別で投稿している。無料会員はイラスト検索結果を新着順でしか検索できないので、そうした会員は今やAI画像の津波の中をどうにか泳いで潜って、好きになれるイラストを探している状態である。

本題に入る前に

 AI画像(あえてイラストとは言わない)の氾濫問題は、我々に「何が芸術と言えるのか」という問題を改めて投げかけて来ていると感じる。先に断っておくが、3DCGやゲームのスクショ、MMD、写真といったものを全否定したい訳ではない。Twitterで何となくつぶやいたら「論点のすり替えだ!」と噛みつかれたので先に書いておく。

 なおかつ「自然の造形は芸術ではない」と言いたい訳でもない、あくまでイラスト投稿サイトにおける話として読んで欲しい。最近はひろゆきみたいなすぐ揚げ足を取る輩が多くて困る。

どこまでが"芸術"なのか

 芸術と言うとたいそうだが、イラストだって立派な芸術。そしてこれは一般的には「アナログであれデジタルであれ人間が主体となって作ったもの」であることが前提であると考える。AI生成画像をイラストとして認めて投稿を許しているPixiv運営には強い違和感を感じている*1。前々からPixiv運営のやり方は気に食わないところが多々あったが、今回はAI画像による大量投下荒らしを「有料会員になれば検索から弾きやすくなりますよ^^」、というゲーム理論的な利用の仕方で野放しにしているのは本当に気に食わない。おっと私怨が 

 では3DCG作品は芸術ではないのかと言われればそれも違う。自分で3Dモデルを作ってライティングやモーションはPCに任せる、という形であっても、その作品に主体的に関わっているのは人間である。特に3DCGは動かそうと思うと本当に手がかかる。なのでいわゆる「手描きのイラストだけが真の芸術だ」とも私は思わない。

 写真に関しては趣旨がズレるのであまり書きたくないが、撮影者の視点や工夫、現地に赴く苦労や天候・時間を考慮する必要などがあるので人間による主体性が無い訳ではない。その点において芸術として認められて良いと思うし実際、私も嗜んでいる。ただ「元からあるものを記録している」訳でもあって、我々が被写体を自由自在に生み出せる訳ではない。人間がコントロール可能な撮影条件は限られている。そうした違いがあるがために、写真をイラスト投稿サイトに投稿するのはふさわしくない。憚られる。デッサン人形の写真程度なら良いとは思うが。

 一方でPixivにはゲームのスクリーンショット機能やMMD(本来は3Dモデルを踊らせるためのソフト)を利用し、配布されているモデルを使用して"作品"を作る人間も少なくない。それらは芸術、イラストと言えるのか。確かにそれらの元となる3Dモデルは人間が作っているのだが、それらを作ったのは往々にして「投稿者」ではない。なのであくまで他人のふんどしで相撲を取っていることを自覚すべきである。特にゲームのスクリーンショットは私も一時期投稿していた事があるが、ある時、ゲームに対する著作権違反として全ての投稿削除をPixiv運営から命じられた。そういう事があった以上、私はそうしたものをまったく全て排除すべきとは思わないにせよ、黒寄りのグレーゾーンにあると考えている。「他人が作ったモデルをPCに描画させて『私の作品です』は無理がある」と言われればぐうの音も出ない・・・。良い事では無かった。

 なので極端なことを言えば、「純然たる自分の作品」といえるのは「(補助ツールなどありにしても)自分自身で描いたイラスト」、「自分自身でモデルを作った3DCG作品」等になるのだろう。もちろん、デッサン人形を3DCGに頼ってそれをもとに描いたイラストだってその人自身が線を描き、元の3DCGには無い情報を多分に加えたものなのだから芸術といえる。3DCGも描画はPCに任せるにしても、描画する対象となる3Dモデルは自身で作っているなら問題ない。要は作者とされる人間がその作品の作成に主体的に関わったかどうかが問題であろう。

 なのでゲームのスクリーンショットをそのまま、MMDで描画した画面をそのまま、AI画像にまったく手を加えず上から線画を描き直したり手を修正したりすることも無く投稿する事は手放しで「芸術」とは言えないと私は思う。イラスト投稿サイトに(厳密に言えば)ふさわしく無い。それでもある程度はゲームのスクリーンショットMMDによる作品が許容されているのは、ある種の多様性を確保するためであってそれに関して異論は無い。創作活動にある程度の幅を持たせることは重要。ただしAIテメーはダメだ。

AI画像は何が問題なのか

 AIによる画像生成に関しては人間の関与する領域が極端に少ない。テキストで指示するのは少々コツがいるが、逆にテキストを一度確立してしまえばあとは何の工夫も必要ない。img2img(画像をイラストに仕立てる機能)も言ってみれば単色ベタ塗りだけでイラストに変えてくれる。どこに人間の主体的な関与があると言うのか。そうして生成した画像を何の手を加えることもなくイラスト投稿サイトへ投稿することは、創作活動の幅から逸脱していると考えざるを得ない。

 また、AIによる画像生成のもう1つの問題は画像の生成速度にある。ゲームでスクリーンショットを撮るにしても、MMDや3DCGソフトで作品を作るにしても、どのシーンを切り取ってシャッターを切るか、どのキャラクターにどのようなポーズを取らせるかを決めるのは人間であって、1つの作品を作るのに時間的な制約が必ずある。しかしAIにはそれがほぼ無い。AIはイラスト風画像の短時間大量生産を可能にしてしまった。必要ならばPixivの新着イラスト検索画面を何ページにもわたって埋め尽くせるだけの画像を、30分もしない内に生成することだって出来るだろう。

 そしてそれを悪用する人間がいるのも問題。自己承認欲求の塊なのか、Pixivでは1度の投稿で複数枚のイラストを詰め込めるにも関わらず、わざわざ個別で1枚1枚分けて投稿しているヤツがいる。あれ?一番の問題って人間じゃね?

 そもそも「1日に何枚も投稿して何が悪いの?」と言う人は考えてみて欲しい。AIによって生成された画像で検索画面がほとんど埋め尽くされて、その中から「人間が描いたらしき なおかつ 自分の好みの作品」だけをより出して、それが本当に人間が描いたのかを吟味して鑑賞するのがどれだけ面倒くさいか。投稿する側としても、AIで5分もかからず生成された画像に自分が何時間もかけて描いた作品が埋もれていく。検索は新着順なのでページで流されるだけでも見てもらえる確立が減る。モチベーションも上がらなくなる。となると、新しいイラスト作者が出て来づらくなる(見つけづらくなる)、既存のそこそこフォロワーがいる人でもモチベーションは下がり得る。コンテンツのプラットフォームとしてはしぼんで行く。

どういった対策が必要か

 単純な話、イラスト投稿サイトにおいてAI画像を投稿禁止にしないのであれば、各ユーザーに1日1~2回といったイラスト投稿数の制限を設けることが有効な策だと私は思う。生身の人間が1日に何十枚もちゃんとしたイラストを仕上げることは不可能。逆にAIなら可能、ならば1人のユーザーが1日に投稿できる回数を1~2回程度に制限すれば自然とフィルタリングが出来る。AIでいくら画像を生成しても1度の投稿にまとめるか、複数アカウントで1回ずつ投稿するしかなくなる。この程度のことはちょっと考えれば分かるのだが、それをしないあたりPixiv運営はあえて放置してるんだろうな・・・やっぱ気に入らん。Pixivやめてどっか別に移住するか!

 あるいはAI画像を完全に投稿禁止にするか。ただそうなると前述したゲームのスクショ、3DCG、MMDによる作品とどう区別するかというロジックが必要になる。区別出来なくはないと思うが、今まで認めて来ている分もあって厳しい面がある。現実的ではないだろう。

余談:AIの本来の活用方法

 AIによる画像生成は使いようによっては本当に便利だと思っていて、特に自分が描きたいポーズをほかの人ならどう描くか、参考画像を探すよりもAIに描かせた方がダイレクトなものが出て来る。そこに自分自身で手を加えていけば良い。手が変なら自分で描き直せばいいのだ。それすら出来ない人間が、AIで生成した画像を「これ、私が描きました」と言い張っているのが現状。残念過ぎる。お前はフリーズドライにお湯を注いで「これは私が調理しました」と言うのか・・・と。風景画なんかについても同様。インスピレーションを得るためのツールとしても非常に優秀だと思うのだが、残念ながら一部の浅はかな人間によって悪用されてしまってもいる。どうすりゃいいんだろうね。

 AI画像生成の流れは止まらないと思うので、どうにか生かしつつ悪用は弾くような制度設計しかないとは思うが。

 

*1:今はAI生成画像の投稿を禁止にしているイラスト投稿サイトが多い