ヤマネコ目線

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レビュー:映画ONE PIECE FILM RED(ネタバレ配慮あり)

 まずネタバレを出来る限りしない感じで個人的総合評価を先に書いておく。ネタバレ込みのレビューはかなり下の方でする。辛口なので絶賛記事を見たい方はご遠慮ください。

www.onepiece-film.jp

総合評価:66点

評価項目 点数 / 配点

  • 脚本                35 / 50
  • アクション    6 / 10
  • メッセージ性 2 / 10
  • CV                  9 / 10
  • BGM               7 / 10
  • CG                  3 / 5
  • 普遍性            4 / 5

 まず脚本だが正直、深みが無い。1本完結のONE PIECEの映画にそこまで深みを求めるのは間違っているのは理解しているが、それにしてもいつも以上に唐突に大きな事態に巻き込まれていつの間にか終わっている感が強い。ラストも私の中でのONE PIECEとは何か違う。

 アクションに関しては良くも悪くも普通にONE PIECEだなあと言う感じ。ウタとクライマックスのシャンクス、ルフィあたりは気合が入っているが、それ以外のアクションシーンはカメラワークと勢いで誤魔化している感が強い。ufotableの作画を知ってしまうとどうしても見劣りする。まあ、ufotableの方が異常なのだが・・・製作期間の都合もあるにはあるし、アクションシーンが駆け足気味なのは登場人物が多いので仕方ない面はある。逆に言えば登場人物を増やし過ぎだし、その登場人物全員に見せ場を与えようとしているから1人あたりの尺が短くなって、余計にアクションシーンが駆け足になっている。

 メッセージ性はほとんど感じられなかった。私が悪いのかどうかは知らないが、無くはない程度。内容込みで映画の作品自体の立ち位置を考えても最終章突入のための宣伝のためとしか思えず、深みは無い。

 CVは固定でほぼ文句なし。Adoさんと名塚佳織さんの声質がどうしても違うので若干の違和感があるにはあるがめちゃくちゃ気になる程でもないし、お二人とも尽力されている。物凄く個人的なことを言うならば、シャンクスの声が池田秀一さんなのは以前から違和感がある。

 BGMはウタの歌も込みでこの評価にした。というかクライマックス以外はウタの歌以外の印象が皆無。あえて抑えているのかも知れないが、Adoさんの歌に頼り過ぎ。とはいえ中田ヤスタカ氏のビートは熱い。ウタの能力やストーリー展開的にどうしてもAdoさんの歌に頼らざるを得ない場面が多いのは理解するが、逆に言えばAdoさんの歌が好きかどうかだけでも映画の評価が分かれかねない。

 CGはぶっちゃけ普通。予算はそれなりに多い筈だと思うが、それが映える立体的なカメラワークはあまり観られない。平面的な画づくりが多い。

 普遍性はどうしても今、勢いがある女性歌手Adoに頼り過ぎな感が否めない点、最終章突入前でシャンクスを少し前に出して宣伝したい感も否めない点で、10年後に同じ盛り上がりを見せられるかと言われれば疑問なため減点。

 総合的にみればONE PIECEのもともとのファン層に合っていると言えば合っているレベルであり、何か突き抜けたものは感じられない。それこそヘルニアになるくらい映画館に通って見たいだとか、泣きすぎてタオル持ち込むだとかそういうレベルの作品とは言えない。Twitterでは鬼滅やFateエヴァにも負けていないといった意見があったがとんでもない。そもそも鬼滅やFateは1本完結でもないので比較すべくもないのだが。少なくとも麦わらの一味の活躍がメインという感じではないので、それを期待して観に行くと裏切られる。

=====ネタバレ緩衝地帯=====

この先、考察的な何か。一応、観ていないけど予め展開を知りたいという人にも向けて書きます。

 

 

 

 

 

 

「ビンクスの酒を一人で歌うのは無いわ」って言ってる奴らはまず先に映画を観ろ

 

 

 

 

 

 

=====緩衝地帯ここまで=====

ウタちゃん強過ぎ怖過ぎね????

限月読やめてもらって良いですか?

あと死んで欲しくなかったんだけど

所感

 まず映画の殆どの場面でウタが主導権を握っているストーリー展開でウタの能力が強過ぎる。というか厄介過ぎる。内面的にもメンヘラというか明らかに病んでしまっており、世界の歌姫でルフィの幼なじみという新キャラクターなのにその思想に共感できない点が多い。最後はシャンクスにもルフィにも会えたし、仲直り出来て多少の救いがあったものの死亡してしまった点は"ONE PIECEの映画"を観に行った私としては悪い意味で裏切られた感じが強い。どうして・・・ドウシテ・・・

 登場人物が麦わらの一味だけでも多いのにそこに海軍やらCP9やらビッグ・マム海賊団やらクラゲ海賊団やら、ワラワラ登場人物が出て来るので麦わらの一味の活躍がメインでもない。ちゃんと見せ場はあるのだが、いかんせん先に書いたように1人あたりの尺がどうしても短くなる一方、ウタは歌唱パートでメインを張る上にストーリーの主導権を握っているので、どうしてもウタが主人公なような印象を受ける。主人公の1人と言えば1人なのだが、本来の主人公であるルフィが殆どウタに敗北、ダウンorバルトロメオのバリアに囚われているので余計にウタがメインの印象が強い。最後には死亡してしまう(直接の描写は無し)のも込みで主人公らしい所をウタが持って行っている。

 メタ的なことを言うならばウタというキャラクターが映画限定キャラ、シャンクスの(義理の)娘、強過ぎる能力、世界中を敵に回してしまった点で、生存させる事が難しかったのだろうとは思う。能力で世界中の人間の意識を夢の世界に誘い、自殺することで実に世界人口の約70%をそのまま夢の世界へ閉じ込める(実質的に殺害する)、それも天竜人まで巻き込んでとなれば、その計画が未遂に終わったとしても確実に追われる身になる訳で、となればシャンクスやルフィの船に乗るくらいしか生存可能性が無い。しかしシャンクスは世界政府と通じているし、この先の本編で絡む以上は出さない訳にもいかなくなる。ルフィの船に乗るのも無理。なので死亡ENDになったのかな、と。

 にしても今まで純粋に楽しめていたウタの歌、これからずっと「でもこの歌を歌ってたキャラ、劇中で最後、死んだんだよな・・・」という思いで聴かざるを得ないのが何とも・・・。まあアニメのキャラクターなので深く考える必要はないのだが気分的に良いものではない。

ウタの能力について

 ウタの能力は「ウタウタの実」の能力とされているが、正直その効果を見るとそんな生易しいものではない。歌声、つまり音波で攻撃や特殊な効果を生むといったものではなく、歌声を聴いた者を無差別に昏倒させて意識を幻想の世界へ閉じ込め、それも自力覚醒不可、おそらく現実世界で叩き起こすことも不可、更には号令1つで意識を奪っている人間をゾンビ的に操作可能と明らかにウタウタの実、から想定される能力を逸脱している。本当にお前が食べたのは「ウタウタの実」か?絶対違うだろ・・・「無限月読の実」とかそんなんだろ(*リンク先、NARUTOネタバレ注意)

 劇中では意識を奪われた人間はすやすや眠っているように描かれているが、自力覚醒不可かつ操られても起きていない、海軍などが意識を奪われている人間を叩き起こす描写も無いため、外部からの要因で覚醒することもおそらく不可な実質昏睡状態歌声による意識収奪は直接聴いた場合だけでなく、ストリーミングでんでん虫を介した音声を聴いただけでも有効という、SCPの認識災害レベルである意味では作中屈指の凶悪さ。それも麦わらの一味、ビッグ・マム海賊団の一部、コビー(海軍)、ブルーノ(CP9?)らを容易に夢の世界へ閉じ込め、現実世界においても意識を奪った人間を盾・ゾンビ兵員とすることで海軍にも手出しさせないというのはかなり強力な能力と言える。ウタ本人を殺害すれば悪魔の実の能力は解除されるそうなった場合、夢の世界に閉じ込められた意識は戻って来ないと明言されており、うかつに殺害も出来ない上に意識を奪う人間の数が多ければ多いほど大勢の人間を人質に取ることが出来る。海賊の蛮行を憎む一方でその辺の海賊も真っ青になるような駆け引きをするウタちゃん・・・恐ろしい子・・・。対策をしなければ対象者の強さは問題にならない点も強い。

 ウタ本人が寝てしまうと意識収奪が解除される、対策が取りやすく強敵には二度は通用しない、夢の世界の中に閉じ込めた能力者全員の能力を無効化するといったことは出来ないという弱点があるものの、事前の対策なしではほぼ防御不可な音波による広範囲攻撃、ネズキノコ(食べると眠れなくなる、言動が攻撃的になるキノコ)での弱点克服(ただし死ぬので1度きり)、トットムジカという現実世界・夢の世界両方からの高度な同時攻撃が無ければ撃破不可能な暴走モード、シャンクスら一味が遅れて会場入りしなければ実質詰みな展開であったことを考えるとあまりに強い。能力の無効化は本人にそこまでやる気が無かっただけなのか、あるいは限界があるのか不明ではある。ブルーノはマスコットキャラクターみたいにされながらも、一応はドアドアの実の能力を使用している。もう、これだけで生存ルートは難しかったのかなというレベル。

 というか何故ここまで凶悪な能力にした・・・ここまで凶悪な能力でなければ映画終了後もたとえば「シャンクスと仲直りして、海賊にはならないけど心機一転してまた歌姫として頑張るウタ」が見られたかも知れないし、そういうエンディングを迎えるのがONE PIECEの映画だと思っていたので、ウタ死亡は個人的には失望に近い感傷を抱いている。もっと清々しい終わり方にして欲しかった。

ウタの内面について

 Twitterではさっそく「メンヘラ」「嫌い」という候補が上がる歪んだ内面。アイドルと素の状態の二面性があり、その根底には幼少期のシャンクスやルフィとの思い出、孤独感、海賊を憎みたくてもやはりシャンクスに会いたい(大きなライブを開いたのがシャンクスの目に留まる期待込み)*1、意図せずトットムジカを召喚・暴走して大勢の人を殺害してしまったことへの罪悪感、それでも捨て切れない自分自身の理想が渦巻いている。たまに眼が分かりやすく怖い時があり(ネズキノコによる攻撃性の増大もあるが)、肉体の死と精神の死を分けて考えている。生い立ちを考えればそりゃ歪むわという感じだが、その歪みを許せるかどうかで好き嫌いがはっきり分かれるキャラクターだろう。私はそれでも許したかったし生きていて欲しかった。

 幼少期に魔神トットムジカを憑依させる楽譜を歌ってしまい、意図せず暴走してエレジア(音楽の国)を滅亡させてしまった事は本人に知らされないように配慮はされていたが、ある程度育った時点で真実を知ってしまっている。ただそれまでは自身の暴走によってもたらされた被害を育ての親であるシャンクスとその一味によるもので自分は利用されただけと伝えられており、それによって海賊を憎む感情が確かに醸成されているので、そこから「本当はみんなを殺したのが自分だった」という真実を知ってしまえばメンタルがヘラるのは当然だろう。

 世界中の人間の意識を収奪し、自分自身が死ぬこと(ネズキノコを食べ続けて眠れない状態を作り出し自殺)によって人々の意識だけを永遠に理想の世界へ閉じ込めてそれを救済とする、という普通に考えればなかなかに狂った理想は、歌声の力を畏れたゴードン(暴走して国を滅亡させた後の育ての親、元エレジア国王)によって外の世界から隔離されて育ったゆえの浮世離れ、想像力の欠如の結果とも言える。そういった誤った理想を抱いてしまった責任をウタ本人だけに負わせるのは酷だろう。ゴードンはトットムジカ召喚楽譜も処分していなかったし。処分しとけやマジで・・・。

 個人的には観る前にウタはルフィに恋をしていたりするのかな?とも思っていたが全くそんな事は無く、良い意味で対等な幼なじみの関係といった感じだった。恋心が全く無くはないのかも知れないが、自分の理想について来られないと判断すると涙ながらも現実世界においてルフィを殺害しようとしており、恋心があったとしても自分自身の理想よりはウェイトが軽い。

 あと一部本当に失礼な言い方になるが歌唱担当のAdoさんは二面性、孤独さ、メンヘラっぽさ(実際はどうかしらんが自称している動画がある)、アグレッシブで高い歌唱力、思い切りが良い、若さゆえの脆さ・不安定さ、(方向性は違うが)高い理想といった内面的なウタとの共通点が多くすごく適役だったと思う。Adoさんは現実の女性歌手であるため、ウタというキャラクターに確かで大きい存在感を与えている。むしろ尾田栄一郎先生はAdoさんを観てウタというキャラクターを作ったのでは?とも思う。本当に娘だったりして。逆に言えばAdoさんが居なければ成り立たなかったかも知れない映画。

その他

 最後、夢の世界に閉じ込められたままとなったルフィたちを開放するために最後の力を振り絞って歌をうたったウタだったが、ウタが眠れば普通に意識収奪が開放されたのでは?と思ってしまう。あるいは一眠りしてから歌っても開放は出来る筈で、ウタ死亡の必要性はメタ的な意味しか見いだせない。

 夢の世界と現実世界の意識を見聞色で繋いで連携を取っていたがさすがに便利過ぎないかとも思う。あんまりそういう所に厳密ではないのがONE PIECEらしいと言えばらしいが。シャーロット・ブリュレの鏡の能力によって、夢の世界から観客たちを避難させているのもなかなかにご都合主義。

ビンクスの酒について

 Adoさんが独唱する「ビンクスの酒」がアルバム、「ウタの歌 ONE PIECE FLIM RED」に収録されている。公開前から一部のワンピースファン(かAdoアンチ?)が「ビンクスの酒は一人で歌うもんじゃない!!」と叩いていたが、映画を観た後だと最後にSPトラックとしてビンクスの酒が入る理由が分かるし何とも切ない。再開して仲直りしたシャンクス一向と一緒に歌いたかっただろう。

 というかいくら嫌いだからってビンクスの酒を歌っただけで◯ねとか言い出す奴ら、ONE PIECE見て何も学んでないんだな・・・おそらくルフィが一番嫌いなタイプ。

-----↓ アイキャッチ用エセ画像 ↓-----

 

*1:第40億内参照