ヤマネコ目線

大体独り言、たまに写真その他、レビュー等

画集を買った

 書き散らし。初めてまともなアーティストの画集を買ったのでその感想。買ったのはこれ。ズジスワフ・ベクシンスキー氏の画集 I 。新品では1万円を超えるので安い買い物ではない。金銭的にも時間的にも余裕のない人間は、こういう画集を買う事自体がハードルが高いのだが、それでも手に取らせる何かがある。

不気味さと美しさ

 ベクシンスキー氏の作風は退廃的かつ死や終焉を思わせる中に、どこか荘厳さとシュールレアリスムを含んだものが多い。詳細はWikipediaに譲るが、この画集に収録されている作品は「これぞベクシンスキー」という感じの作品。

ja.wikipedia.org

 下の画像は海外のギャラリーサイトでも見られる。

*Wikipedia記事、下の方のリンクにもう1つのギャラリーサイトのリンクあり

 氏の作品はいずれもタイトルが付いていない。なので純粋に絵に含まれる情報から自分なりに内容を解釈するしかない。この絵は一見、人骨で形作られた十字架のようにも見えるがよく見ればアンテナにも見える。陰鬱とした橙色の霧に赤錆びた不毛な大地、散らばる紙切れ。アンテナを立てるためには人骨くらいしか使える材料が無いのだろうか。

 面白い事に?この世界観にはバイクも一応あるらしい。ただし、骨と皮のようなもので形作られ、操縦者となかば一体化している。ハンドル?は本のようでもあり、地図を読んでいるようにも見える。そしてスタンドが立っていて後輪が設地していないので、おそらく永遠にこれが前進する事はない。なお、この画像は色味がおかしく画集ではもう少し違う色味、かつディテールもちゃんと見える。

 何が私を惹きつけるのかを言語化できないので、氏の作品について具体的に何が魅力なのか語るのは難しい。ただそこには「美しい滅び」がある。絵によっては現実や戦争へのアイロニーと取れそうなものもあるし、そうでない純粋に不気味なものもある。作品の意図する所や背景を詮索されることを氏は嫌っていたらしいので、ひょっとすれば純粋に描きたいものを描いていただけなのか。こういった絵を描きたいと思う精神的な下地、人間として根底にある良くないと自覚している点を、氏は嫌っていたのかも知れない。

ベクシンスキーを知ったきっかけ

 数年前、あまりにも気色の悪い、しかしどこか惹きつけられるゲームが登場し、その開発のためのクラウドファンディングにいくらか投資した。ついに今年10月発売予定だそうだが、本当に10月に発売されるのかは怪しいとも思える。何だかんだで私は確実に5年以上は待っている。

automaton-media.com

 「SCORN」というゲームで、ベクシンスキーH.R.ギーガーが共同で作り上げたかのような世界の中、謎解きしながら滅びた文明の中をさまようある種のホラーゲーム兼FPS。こういうゲームでも銃で敵を撃つことになるのが良くも悪くも海外ゲームらしいが、それはさておいて何より素晴らしいと思うのは、ベクシンスキーH.R.ギーガーのような世界観が1枚絵ではなく3次元空間として成立し、その中を探索できるという点。ゲームの内容、ストーリーも気にはなるが、それを差し置いてもこれだけ高い解像度で絵画の中の世界を自由に探索できるようなゲーム、それもこれだけ不気味で異世界感に満ちたものがこれまであっただろうか。単に退廃的と言うだけであればこれまでも多くのゲームが登場しているが、これは本当に一線を画している。それもPC版では予約購入で4千円くらいで買えると来たもんだ。安くね???ゲームキューブのソフトなんか1本7,140円だったぞ・・・。

www.youtube.com

 厳密に言えば世界観はギーガー寄りにも思えるが、得体の知れない生物的な不気味さ、どこか荘厳さも感じさせる建物やそれを取り巻く鬱々とした霧などは確かにベクシンスキーらしさがある。色使いも独特。

αテストのスクリーンショット(自分がプレイした時の画面)

 没入度を上げるため、ゲーム画面に表示される文字は最小限になっている。銃の残弾数や体力(HP)も数値では表示されない。建物や上の画像のようなインタフェースは無機物とも有機物ともとれる得体の知れない素材で構成されており、この感じが”ベクシンスキーみ”を感じさせる。

αテスト時のスクショその2

 これも実際に私がプレイしたゲームの画面のスクリーンショットそのまま。これがゲーム画面そのままである。解像感、雰囲気はどうだろうか。実際のゲームプレイではここに音や動きが加わる訳で、よりいっそう気色悪い。これはFullHD画質でのスクショだが、XboxやPC版で出るので何なら4Kでこの世界観を見る事も出来るだろう。

 そしてただでさえ得体の知れない有機的な建造物の中に、夥しい数のナニかの死骸がこびりつき、血管らしきものが床を這っている。特に右上の壁に連なってへばりついているのはこいつ↓

 こいつが何匹も連結してそのまま息絶えた死骸がいたる所にある。たまに生きている個体や幼体と思しき生物に出くわすこともあるし、その場合は無条件に襲ってくる。こちらに気づかずどこかへ這って行く時もあるが。こいつがかつて存在した文明を滅ぼしたのだろうか。これまた本当にグロテスク。死んだふりをして襲って来るのも居てタチが悪い。

αテスト画面その3

 時おり明るい光が上から差し込み、臓器の内部を照らして見せるかのような光景が見られる。

αテスト画面その4

 αテストの終着点直前の景色。かなり上まで貫かれた竪穴に、外?からの光が差し込んでいる。この竪穴も例に漏れず肉塊と血管がこびり付いており、非現実的かつ異様な雰囲気を醸し出している。

 そもそも主人公が人間ですらない(人型ではある)というのも面白い。「人間ではないナニか」である。クラウドファンディング出資者限定のαテスト版を少しプレイした事があるが正直、世界観に入り込めるタイプの人間としては本当に何と言うか、SAN値を削られるというか、細部を見て考察すればするほどおぞましい世界で長時間プレイするのが難しい。「こんなの作り物だ」と割り切れる人はその点、難なくプレイできるかも知れない。