ヤマネコ目線

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徴兵制度の意義

 昨日、安全保障上の徴兵制度の意義についての記事を見かけたが、中身を見ると個人間の争いを見た上での感覚的な話でしかなかった。

個人の延長で語ることの無意味さ

 当該記事にコメントするのはもう十二分に他の人がしているのであえてしない。引用もしない。まずその記事では筆者が留学中に目の当たりにした外国人同士のケンカと、その時に感じたことが主に引き合いに出されている。

 確かに徴兵制を敷く国の留学生は屈強な者が多いだろうし、それに気圧されるのも仕方ない。しかしそれはあくまで個人間の話であって、国家間の話へと線形的に拡大して良いものではない。そこには共通するものがあるかも知れないが、それだけで徴兵制自体の意義について語るのは無理がある。単純に個人としてその国の国民に勝てないと思うのと、国家としてどう接していくべきかはまた別の話だ。

徴兵制度のその他の側面を論じていない

 徴兵制度は採用している国とそうでない国があるが、現代の安全保障、軍事においてなぜそこが分かれているのか。そういった視点がまず欠けている。

 現代の武器、兵器は高度化しており、それを扱う人材の育成・維持にもそれなりのお金がかかる。それはつまり無闇やたらに兵士を徴発しても組織としての質が下がることを意味している。いくら兵士が居たとしても、ろくに給与が出せなかったり、与えられる武装が無かったり、訓練が出来ないとなれば全体の士気にも影響を及ぼす。徴兵制のメリットは今やほとんど無い。

 徴兵制度自体が抑止力になり得るかどうかを考える時、その目線は1国民ではなく国家目線であるべきだ。そこで考えた場合、前述した徴兵制度を採用しない理由を考えれば、数だけ多く質の低い軍隊と、少数でも質の高い軍隊のどちらを保有するのが良いのかは明らかである。それは湾岸戦争イラク戦争の結果を見ても明らかだろうし、徴兵制を敷いてもそれに見合うだけの戦力を維持できないとなれば、そもそもやる意味がない。

本当に必要なもの

 日本にとって本当に必要なのは、戦争に負けたことによる過剰な軍事忌避からの脱却、本当は何が悪かったのかを見定め、今後の安全保障に活かすことだ。徴兵制など敷かなくともまずそれだけでかなり変わる。

 まずもってあらゆる業界から軍事忌避を一掃すること。それが先決である。確かに日本は戦争にこっぴどく負けたし、その悲惨さも味わった。だからと言ってこれまでも、これからも世界は日本にだけ優しくなったりなんかしない。日本がどれだけ意固地になって軍事研究を拒み続けても、世界はそんなの知らぬ顔をしてどんどん先へ行く。結局、日本は軍事面において世界から取り残されつつある。世界の軍事情勢を見れば今さら日本が科学技術大国だなんて笑わせる。その現状は精神論にかまけてろくに兵器開発をせず、多くの兵士と国民を為す術なく死なせた帝國と何が違うのか。度が過ぎた平和主義と精神論は信ずるに値しないものを信じ、非現実的な理論のもとに害悪を成す点において何ら変わりがない。

 また、旧日本軍が何を誤って負けたのかは明白である。自国の国力、軍としての力を過信してアメリカのような大国にケンカを売り、圧倒的工業力と物量で押し潰された。日本軍よりも遥かに優れた武器、兵器を生み出したナチス・ドイツですらそうであったことから分かるのは、物量には敵わないということである。前述したように現代戦においては物量は全てではないが、互いの技術力が拮抗あるいはそれに近い状態にあるならば最終的にモノを言うのは物量であり、その点、単独で言えば日本は中国、ロシアいずれにも勝てる見込みは無い。それこそが第二次世界大戦で日本が得た教訓であり、だからこそ今現在、アメリカを同盟国として軍事的均衡を保っている。

 しかしアメリカがいつまでも最強の軍事国家、世界の警察であり続けられるとは限らない。アメリカ軍の装備がいつまでも最も優れたものである保障もないし、本当にいざと言う時、アメリカの兵士が日本を守るためにどれだけ必死で戦うだろうか。我々は本当にいつまでも「アメリカ人の友人」を頼りにして良いのだろうか。そこを改めて考えなおし、それこそ国として軍事面で自助をしていくべきだろう。まだ科学技術立国であると思ってるならそれくらいの意地は見せて欲しい。

これからの軍事

 現代の戦場において、もはや無人兵器は必要不可欠なものになっている。万が一撃墜されても人的損害が出ない兵器は、人口が減りつつある日本こそ積極的に開発するべきものだ。無論、中国も開発している訳で、このまま手をこまねいていれば、中国の無人戦闘機が日本のパイロットを殺害ということが十分起こり得る。相手は機械で壊れても大した損害はなし、こちらは人間、それもパイロットになるような優れた人材を失う、その違いは大きい。

 それに併せて喫緊の課題がドローン対策である。無人兵器が一般化した今、小型で低コストのドローンに対して過剰な武器・兵器で対処することはあまりにコストパフォーマンスが悪く、各国が対抗兵器の開発を急いでいる。そんな中、日本は独自の無人機もそのような対抗兵器もウワサさえ聞こえてこない。もしこのような状態で有事の際、中国から無数のドローンが飛来すればどうなるか。迎撃し切れず民間人やインフラに重大な損害が出るのは明らかだ。

 国産の武器・兵器が高価過ぎるのも、日本の軍事力を弱めている。武器輸出、兵器輸出は競合が多く前途多難だが、それを推し進めなければ自国で武器・兵器を開発する力があっても、ろくな数を配備できない。この際、中国に対抗し得るインドなどの国に積極的に売り込んででも価格を下げて、数を揃えていくのが重要だろう。