ヤマネコ目線

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技能実習生制度に少し関わって見えて来た話

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在留カードのイラスト / 出典: いらすとや

 技能実習生制度に関わり初めて3年になる。そこで今回は、技能実習生制度について一部ながらも関わる者として、制度の実態やこれからの予想について少し書きたい。前もって断っておくが一部推測や事実をボカした表現も含まれているので、鵜呑みにはしないで欲しい。

本音と建前

 技能実習生について一般的にどこまで知られているのか分からないので一応、建前から書くと、彼らは「実習生」であって「出稼ぎ労働者」ではない。技能実習生制度というのは外国人を途上国から受け入れ、実際に働きながら様々な技能を習得してもらって数年後に母国へ帰ってもらい、帰国してからは習得した技能を生かした仕事をすることで母国の経済発展に貢献してもらう、というもの。

 さて、本音はと言うとご多分に漏れず「出稼ぎ労働者」である。外国、特に技能実習生の母国である途上国からすれば日本は裕福な国であり、通貨価値も高い。日本で働く事が出来れば日本の水準では低い賃金でも、彼らにとってはそれなりのお金になる。どのくらいのお金かと言うと、日本に実習生として来るために借金をし、数ヶ月の日本語研修なども受けてまで来るほどと言えば想像がつくだろうか。

 そして彼らを雇う側、企業は「安くて単純作業もしてくれる労働者」を求めている。日本人が嫌がるような仕事、賃金が低い単純作業や介護、建設などの業種は人手不足に苦しんでおり、そこで経営者にとっての救いの手が、安い賃金でも待遇が多少悪くても働きに来てくれる外国人技能実習生なのである。

 出稼ぎに日本へ来たい外国人と、人手は欲しいが人件費は上げたくない経営者、Win-Winの関係でそれぞれの思惑が合致して今の状況がある。どの企業がどこまで技能実習という建前を守っているか。全体は把握のしようがないが、基本的には建前と実態はかけ離れていると思って間違いない。

今起こっている問題

 技能実習生制度は問題が多い、そんな事は分かっていると言われそうだが実態は思っているより厳しい。マスコミはおもしろおかしく伝えられる物事にはすぐ飛びつくが地味な部分はあまり触れないので、奴隷扱いのような極端な事例は目に入っても、それ以外にじわじわと広がっている問題はなかなか認知されない印象を受ける。

失踪する実習生

 制度に関わっていてまず耳にするのが失踪の問題。どこからか「今の仕事より稼げる仕事があるよ」、などと言われて失踪する者もいれば、技能実習が終わっても日本に残りたいがために失踪する者もいる。酷い場合は国内にいる外国人が手引して失踪させ、難民申請させるなどという話も耳にする。実習生は人間であって奴隷ではないし、労働時間以外は基本、何をしようと自由である。会社が監理するなどと言っても限界があるし、どこで何を見ているか、聞いているか、今の状況に不満がないか、不満があるとすればどんなものか、そういった事がなかなか見えて来ない。コミュニケーションを密に取るしか解決策はないのだが、それにも限界がある。彼らの実態は単純労働者であり、日本人とのコミュニケーションを取る際には単純な日本語しか必要とされない。つまり自分で勉強する意欲がない実習生は日本語の上達がほぼ見込めず、コミュニケーションを取ろうにも通訳が無ければ完全な意思疎通は厳しい。もし企業と実習生のコミュニケーションがうまくいかず実習生側に不満が募り続けた場合はもちろん、失踪の可能性が高くなる。失踪を防ぐためには、企業が彼らとのコミュニケーションに様々なリソースを割くほかない。

 特に問題となるのが給与、税金その他労務などの関係。税金の算定方法や社会保険料の制度などは、日本人にもとっつきにくい部分がある。それが日本語の出来ない外国人ならばなおさらで、どこかで聞いた曖昧な知識を元に「これはおかしいんじゃないか」、という意見が上がることもある。説明はしているのだが、それがイマイチ分かっていない場合があるし、説明する側としても複雑な制度はやさしい日本語では説明し切れない。そもそも彼らは「お金を稼げば稼ぐほど税金や社会保険料がかかる」、という事をなかなか理解していない節がある。日本人からすれば当たり前だが、彼らにとっては違う。それが思わぬ不満として管理者側の知らぬ間に鬱積することもある。労務管理も難しく、特に帰国前の有休消化など、きちんと消化させている所はどれだけあるのだろうか。

 失踪に関わる事だが、日本語があまり出来ない実習生が失踪するとどうなるかも恐ろしい所ではある。失踪の理由にもよるが、騙されてパスポートや在留カードを取り上げられ、違法な労働を強いられたような場合は助けを求めるのが困難になるだろう。そうでなくとも失踪後、どうやってこの国で生きていくのかは分からない。失踪者が増えるという事は不法滞在者が増える、と言えるのではないだろうか。実習生同士の恋愛の話も聞くので、恋人同士で仲良く消えるといった事も考えられる。もしその時、女性の方が身ごもっていたらどうなるか。

女性の実習生を雇うという事

 女性の技能実習生は妊娠の可能性がある。別にそれは構わないとして、問題は生まれた子を日本国籍にしようと目論むパターンが存在することだろう。日本に来た時点で知ってか知らずか妊娠している場合や、日本に来てから実習生同士の恋愛で身ごもる場合がある。そうなった場合、生まれた子供の国籍はどうなるか。一部では母国に自分の子を自分の子であると認知せず、どうしようもないので日本側が仮の国籍を与えている場合があると聞く。ここまでの事が実際に起きていて、果たして技能実習生は「一時の都合のいい労働力」で済むかどうか。実習生制度をめぐる相次ぐ不祥事をうけ、2018年には制度が厳しくなった。以前は身ごもっていた場合、本人の意思とは関係なく実習に支障をきたすとして母国へ送還していたらしいが今はそうもいかない。

 そして今、実習生制度は第3号まであり、実習生が日本に在留できる期間は最長で5年となっている。3年経ってから1ヶ月以上の一時帰国を挟むとはいえ、たとえば日本へ来た時点で妊娠しており数ヶ月後に出産、そのまま第3号まで行けば子供はほぼ5歳まで日本で育つことになる。人間が言語を習得する期間などを考えると果たして5年後、おとなしく母国へ帰って行くだろうか。前述したように母国に認知しようとしない場合があり、そこで親子ごと失踪なども考えられるのではないか。日本人との結婚を斡旋するサービス、業者の存在も耳にするので、あまり無いと思うがそういった事例も出てくるかも知れない。

巧妙化する実態の誤魔化し

 2018年には実習生制度が改正され、新しい管理組織や連携体制が構築された訳だが実態というのはそう簡単には変わらない。特に実習生を「安くて都合の良い単純労働者」として依存しきっている場合は、制度が多少厳しくなってももはやその依存した状況から脱することが出来ない。ではどうなるか。実態の誤魔化しがこれまで以上に巧妙化するのである。どこまで巧妙化するかはその企業次第だが、今治タオルのような例が制度改正後に実習生自身の告発によって明らかになった事を考えると、制度の改正に合わせた誤魔化しがされているのだろう。

 問題は制度を厳しくしたからと言って、実態はそう変わらないという点にある。結局は技能実習生制度自体が欠陥であり、安価な労働者を確保するための手段として使われている以上、いくら制度を厳格化しても建前と実態の乖離が進むだけ。現状を良くするためには結局、技能実習生制度そのものを根本的に見直す必要がある。

力を増す外国人コミュニティ

 外国人を国内に入れると言うことは、その国のコミュニティが形成されるという事でもある。当然、その数が多いほど、コミュニティの力は増して行く。技能実習生の場合でも例外ではない。数年経てば帰るだろうとタカを括っている場合ではなく、外国人のコミュニティは着実に構築されつつある。

 ベトナム人ミャンマー人の実習生と聞いて、どんな人が思い浮かぶだろうか。それがどんな人にせよ今はネットの時代である。実習生でもスマホを持っているし、もちろんSNSだって利用している。そこで起きるのはSNSを利用したコミュニティの形成である。facebooktwitterinstagramなどを通じて日本各地にいる実習生が交流している。そういった場所、ネットで彼らは最低賃金やどの会社が待遇が良いか、失踪したければどうすれば良いか、などの情報を得るのである。時には「別の会社では~なのにどうしてここの会社は・・・じゃないんですか」、などと言う不満が出ることもあるし、日本に元からいる外国人がそういった連絡手段を通じて不法滞在の手引をすることもある。

 そうして構築された外国人によるコミュニティは、次第に無視できない力をつけていく。既に一部の企業では実習生が組織となり、団体交渉をかけたという例もある。実習生に依存するという事は、実習生が組織の中で発言力を持つという事にほかならない。そうでなくとも彼らは自分がして欲しいこと、改善して欲しいことは遠慮なく言う(日本人が遠慮しすぎなのはあるが)。それでも実習生だけならまだ良い話で、そこに中核派のような過激な団体が近寄ることもある。もちろん外国人実習生は何も知らないので取り込まれ、企業は思わぬトラブルに巻き込まれる。安易な外国人の受け入れはそういった組織の増員にも繋がっているのである。まだ聞いたことがない話ではあるが、下手をすればアレフのような組織に取り込まれる可能性も否定できない。

 もし今後、実習生として日本に来た外国人がそのまま日本で暮らすことが多くなった場合、彼らの発言力は間違いなく政治にも及ぶだろう。それがこの国にとって良いか悪いかはまだ分からない。中国、韓国あたりからは少ない、少なくなっているだけマシかも知れないが、その先にどういった政治が待ち受けているかは未知の領域であるし、「日本は日本人の国」という事を重要視する人たちにとっては、確実に面白くない未来が待っている。少なくとも現状を変えない限りはそう思う。「でも長くて5年経ったら帰るんでしょ」、というのはまだまだ甘い考えで、帰国してから日本に移り住んで来た中国人の元技能実習生もいる。

見えて来た限界

 先に触れたように、今や実習生はスマホを持つのが当たり前、SNSで様々な情報に触れている。そこで見えてくるのは「安価で都合の良い労働者」として彼らを集めることへの限界。

 2019年現在の日本では、都道府県で最低賃金は異なる。そういった情報も実習生は日本に来る前から知っている。するとどうなるか。もちろん彼らにして見れば、同じ日本で働くのでも賃金は少しでも高い方が良い。最低賃金の低い地方は変な言い方だが、実習生にさえ敬遠されつつある。それはそうだろう。彼らだって人間だし、便利の良い都会で高い最低賃金で働く方が良いに決まっている。結果、実習生に頼ることで待遇の改善を先延ばしにして来た地方の企業は、再び人材不足の危機に瀕している。それでもなんとか確保しようと、より貧しい国へより貧しい国へ受け入れる国を移しているが、いずれは限界が来るだろう。

 最低賃金だけでなく、企業の待遇もきっちりとSNSで共有されつつある。どこの会社の方が良かった、どこの会社は最悪だった・・・結局のところ、都合の良い労働者を求めるだけで待遇改善をしない企業は実習生を集めづらくなる。

 一方で、実習生の受け入れ元の国でも人材の争奪戦が始まっている。少し考えてみれば分かる話で、実習生制度として他国の労働者を都合よく引き抜いて、現地が黙っている筈がない。特に日本企業が進出している国もあるので、そういった工場や現地企業での人材の争奪戦がある。たとえばの話、借金してまで外国に行って今より3倍の給与をもらうか、国内で転職して今より2倍の給与をもらうか、そう言われたらどちらを選ぶだろうか。特に日本へ来るのは日本語研修を受ける必要がある。多額のお金がかかるし、それならば負担の少ない国内の就職先で2倍の給与をもらえる方が良い、という人も出てくる。

 これから先、実習生の争奪戦は加熱するかも知れない。そうなると皮肉なことに、日本企業は都合の良い人材を求めるがゆえの競争から待遇改善を余儀なくされる。そうしていずれ実習生を受け入れるメリットが消滅した後に、安易に外国人労働者に頼ったツケが回って来るのだろう。

 

 余談ではあるが、実習生の受け入れ元となる国は変わりつつある。中国が多かった時期もあるが、今はタイ、ベトナムミャンマーなどの地域をよく聞く。そこで出てくるのが宗教の問題である。仏教であれば良いのだが、問題はイスラム教。礼拝の場所、時間、礼拝を知らせる音楽などで違う国の実習生や寮近隣の住民とトラブルになりかねない面があり、敬遠されている節がある。